第6話 かみ合わない話

 ホテルででいろいろな国から来た人たちと働いてみて、言葉の意味を理解するだけでは、お互いが思っていることを理解できるわけではないと感じる。生まれや育つ国や文化が違うと、前提にしている考えが違っていて話がかみ合わないことが多いのだ。


 これはエチオピア出身のアズ―との話である。


 アズ―「あなたはどうしてアメリカ国籍を取らないの?」

 私「だって日本人でいたいから。」


 数年前にアメリカ国籍を取得したアズ―は、私がそう答えても同じ質問を繰り返してくる。なので、どこかお互いに理解できていないな、と感じていた。

しばらくして、理解できていなかった内容が分かった。


 アズ―の祖国、エチオピアは二重国籍を認めているのだ。

 日本は二重国籍を認めていない。日本人の私にとっては、アメリカ国籍を取得する、ということは日本国籍を失う、ということである。

 しかしアズ―にとってはアメリカ国籍を取得する時に、エチオピア国籍を失う必要はない。どちらか1つを選ばなくてはならないわけではないのだ。


 そのことがわかるまでは、私には、どうしてアズ―が私の答えに納得できないのかがわからなかったし、エチオピア人でありながらアメリカ人になれるアズ―には、日本人でいたいからアメリカ国籍を取らない、という私の答えが理解できなかったのである。






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