第8話 騎士団長の望んだ褒美

 次はどんな嫌味が来るだろうかと構えていると、夜会の音楽が変わった。この曲変更に、皆が玉座のある方へと姿勢を正す。そして奥から国王陛下と皇后様が入場された。その場に集まった貴族たちが、一斉に最上級の礼にて国王陛下たちへの挨拶をした。そしてまた曲が変わると、次は騎士団の入場だ。


 すっと皆が中央の道を開け、正装をした騎士団の屈強な男たちが入場してきた。その麗しい姿に、貴婦人たちが感嘆の声を漏らす。


「皆、楽にしてくれていい。この度隣国からの侵略を防いでくれた騎士団のために皆が集まってくれたこと、嬉しく思う。また、騎士団の者たちも皆、大変ご苦労であった。そなたたちのおかげで、我らはまたこうして平和な日々を過ごすことができる」

「もったいなきお言葉にごさいます、陛下」


 騎士団の先頭に立つ、一際体躯のよい男性が答えた。仕事の関係で数回見たことあるが、彼がこの騎士団の団長であるエリオット・グランツ様だ。他の団員たちより頭ひとつ分くらい大きく、またその腕は私の足より太いのではないだろうか。

 決して誰にも媚びず微笑むこともない彼は、そのクールさから人気が高い。


「特にそなたには、なにか特別な褒美をと考えているのだが、どうだ?」

「……それでは一つだけ、陛下にお願いしてもよろしいでしょうか?」


 彼の言葉に会場がどよめき、国王陛下もやや前のめりになる。それもそうだろう。彼は今までどれだけ功績を上げても、職務の一環だとして褒美を受け取ってはこなかった。それなのに、今回に限って自分から褒美をと言い出したのである。皆彼の言葉に、興味津々だ。


「なんでも良い、言ってみなさい」

「では……ここにいるひとりの令嬢への求婚の許可を」

「そ、そなた……とうとう。そうか、そうか。求婚どころか、誰に思いを告げようとも婚姻の許可をしよう」


 なんとも太っ腹な返答である。しかし今まで浮ついた話も、婚約者すらいない彼のことを案じていたのだろう。国王陛下の気持ちも分からなくはない。うちの侍女たちが私を心配するのと似ている。

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