第5話 心を守るための方法

「助けて欲しい時は、ちゃんと弱い自分を見せて、誰かに助けてもらう。逆に嫌いな人の前では、強くてしたたかな仮面を被るの」

「かめん?」

「そうよ。その人の前ではいい子の顔をしていて、いなくなったら、二度と来るな。べーってするのよ」


 私は先ほどの親子が去っていった先を向き、大きく舌を出す。その後また向き直り、微笑みかけると一瞬きょとんとした顔をした後、先ほどまで溢れていた涙が止まった。


「ふふふ。お姉さん、可笑しい」

「あら、これは結構難しいのよ」


 得意気に語れば、先ほどの沈んだ顔が笑顔に変わる。


「あなたの周りには、ひとりでも味方になってくれる人はいる?」

「うん……使用人の何人かは、すごく優しくしてくれているの。でも、叔母様達が……」

「さっきのふたりね」


 コクリと頷き、そのまま下を向いてしまう。


「あのおばさんたちは、あなたのお父さんのお姉さんかなにかであっているかしら」

「……。うん。お姉さんと同じで、お父さんとお母さんが冬に馬車で事故にあって……。それから、わたしのこと引き取るって言ってくれたんだけど……。お父さんがいた時にいた執事や使用人たちをどんどん解雇していって、家にあったものもたくさん売ってしまったの」


 どうしてこうも、子どもだけが残されるとこういう悲劇となるのだろうか。いけないとは思いつつも、どうしてもこの子の姿が自分にかぶってしまう。本当は他人の人生に介入するということは、その全てに責任が取れないのならばするべきではない。これは私の後見人となり、ずっと守ってくれた叔父の口癖でもある。


「お母様の形見すら売られそうになって……」

「それは悲しかったね。今までとっても辛かったね。こんな小さな体で、ずっと頑張って来たんだね。そんなあなたは、本当に凄いわ。きっとご両親も、あなたのことを誇りに思っているはずよ」

「本当? 本当にそう思う?」

「ええ、もちろんよ」


 涙を隠すように、その小さな体を抱きしめた。すすり泣き声が嗚咽に変わりそして聞こえなくなるまで、ずっと。

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