第6話 作戦

 あの時私は、お嬢様が戻るのを馬車で待っていた。

 そして、お嬢様が殿下を凍らせてしまったのを、衛兵に伝えられたのだ。


 私が、お嬢様に生まれ変わってしまった今、以前の私が存在しているかはわからない。

 だから、これは賭けだ。


 私は、衛兵の一人を捕まえると話しかけた。


「迎えの馬車が来ているはずだから、中にいる侍女にこう伝えて」

「はあ?」


「あなた、私が誰かわからないの?」

「ラーク殿下の元婚約者だろw」


 お嬢様……。衛兵にも随分と嫌われていたのね。

 いつも、殿下の婚約者ということで、わがまま放題だったのだろう。

 ですが、今はその方が好都合だ。

 ここで、私がわがままを言っても不自然ではない。


「そうね。元婚約者ね。だけどね、公爵令嬢であることと、魔眼持ちであることは変わらないのよ!」


 私は、魔眼を使って、衛兵の持つ剣を氷漬けにした。

 これには、流石に衛兵も驚いたようだ。


「失礼な口を利いてすみませんでした!」

「それじゃあ、今から言うことを伝えて来て。いいわね」


「はい」

「殿下がお嬢様との婚約を破棄した。

 お嬢様は、怒って、殿下を魔眼で氷漬けにしてしまった。

 今は捕まって、投獄されている。

 早く、屋敷に知らせに行け」


「嘘を伝えるのですか?」

「そうよ」


「でも、何故?」

「そんなことは、あなたが気にする必要はないわ。それと、代わりの馬車も用意しておいて」


「馬車も、ですか?」

「そうよ。早くしなさい!」


 私が威圧するように命令すると、衛兵は逃げるように走っていった。


「よし、やれることはやった。後は、どんな結果になることやら――」


 しばらく待つと、先ほどの衛兵が戻ってきた。

 言われた通り、馬車にいた侍女に伝えると、血相を変えて帰っていったそうだ。

 賭けは、私の勝のようだ。


「そう、上手くいったのね。それで、代わりの馬車は用意できた?」

「はい、こちらです」


 衛兵に案内され、代わりの馬車に乗り、私も、急ぎ、公爵邸に向かうのだった。


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