第6話:新たな仲間

 高校生になって一ヶ月ほど経った頃、海から彼女が出来たと報告を受けた。相手はバイト先で知り合った三つ年上の女子大生。


「えっ。大学生?」


「そう」


「いいなぁー」


「……帆波には私が居るじゃん」


「うふふ。冗談よ。私は月子一筋よ〜」


「……いちゃいちゃしやがって」


「海の前くらいでしか出来ないんだもーん」


そうでもない。学校でも割とこうだ。だけど、誰も私達が付き合ってるなんて思わない。帆波は相変わらず男に媚びていると言われているし、私は相変わらず女扱いされない。『男だったら好きになっていた』女の子からそう言われることにも、もうすっかり慣れた。だけど……


「……たまにさ、無性に死にたくなるよね」


ぽろっと、本音をこぼしてしまった。すると帆波が言った。


「……じゃあ月子、一緒に死ぬ?」


 その瞬間、時が止まった。


「や、やめてよそういう冗談……頑張って生きよう。一緒に」


「……そうね。一緒に生きようね」


 今思えば、この時の帆波の「死にたい」は半分は本気だったのだと思う。だけど当時の私は彼女の言葉を重く受け止めなかった。多分、海も本気にしていなかっただろう。

 だけど、この時彼女の話を聞いてあげられていたらとは、私は思わない。そう思うことなど、一度もなかった。




 その年の秋、海が同性愛者なのではないかという噂が流れ始めた。


「そうだけど、何か?」


 彼女は噂を素直に認めた。中学の一件があったけれど、また後悔するのも、帆波が誰かと噂になるのも、男たらし扱いされるのも嫌だった。


「月子。もう、良いよね?」


帆波の言葉に頷き、私達も勇気を出してカミングアウトした。約束したから。鈴木くんと。二度と海を一人にしないと。

意外にも、中学の時ほど酷い結果にはならなかった。むしろ、良いことが起きた。


「あの、私も……レズビアンかもしれない」


 クラスメイトの女の子の一人がそう告白してくれた。彼女の名前は佐倉さくら美夜みや。彼女とは、野外学習で同じ班になったことがきっかけで仲良くなった。気が強そうで近寄りがたい印象だったが、話してみると案外気さくな子だった。人見知りな上に目つきが悪くて誤解されやすいらしい。

彼女は、海が恋人が居る話をしたら露骨にショックを受けていた。分かりやすいなと思いながらも、誰も指摘はしなかった。海も多分、気づいていたと思う。けれど海は一途だった。この頃は、まだ。

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