第23話 召喚獣と漁をする 3


 コテージを不思議ドアの横に置いてきてしまったので、レティシアは空間箱からもうひとつ出して、そこで休んだ。


 次の日もドロップ品の魚を狙う。

 寝る前に一旦帰ってもらった(とても帰りたくなさそうだった)ケロロンとバトランをまた呼び出した。


 今回は、土の印を入れた魔法陣から出てきた魔イタチと、火の印の魔法陣から出てきた火山トカゲも控えている。


 歌がだめだったから、召喚獣たちに倒してもらおうという魂胆だ。

 魔法で挑んでもよかったのだが、ケロロンとバトランだけ呼んでいたら呼んでない子がかわいそうなので、魔イタチのイタチーと火山トカゲのサランダも呼ぶことにしたのだ。魔法がめんどうだったわけでは決してない。


『マスター! 呼んでくれてうれしいの! なでてなでて!』


『オレモ! オレモ!』


 二体は絶賛まとわりつき中。

 イタチーはトラほどの大きさで、長いひょろりとした胴をぐりぐりすりすりとレティシアにすりつけている。丸っこい顔につぶらな目。焦げ茶色の毛は柔らかそうに見えて案外硬いが、手触りは悪くない。


 サランダは子ワニほどの大きさで、二足歩行もする赤いトカゲだ。立ち上がることも多いせいか、沼地のワニに似ている感じはしない。背中を撫でると不思議と温かくサラサラしている。


 よく撫でたせいか、二体は満足してレティシアの前に陣取った。


 ケロロンに沼に入ってもらって数刻後。

 大きな水しぶきを上げて出てきたのは、金色に輝く水ヘビ、キングヒュドラだった。

 前日のヒュドラよりも大きいが、首はひとつしかない。


「まぁ……! 伝説の魔獣だわ!」


『でんせつなのー!』『ぴかぴかなのー!』


 ダンジョンクリーチャーだから正確には本当の魔獣ではないのだが、姿や性質や能力は本物の魔獣と同じ。だいたい本物の伝説の魔獣といったところか。

 バトランがさーっとレティシアの前を横切り結界を張ってくれたら、あとはケサランパサランたちと高みの見物。

 火山トカゲは水の魔獣には弱いが、ヒュドラは首の切り口を火で焼くと首が生えてこないので、今回は活躍できるはずだ。


(どの子が首を落とすかしら)


 まずは先手バトランが、キングヒュドラの頭上から[雷撃]を落とした。水の中にいたケロロンが空中に飛び上がり浮いて避難している。

 水系の魔獣は雷に弱いものが多いのだが、キングヒュドラにはあまり効かなかったようだ。


『あんまり効いてないケロー』


『そのようですね』


 それでもちょっとは痺れているようで、動きが鈍くなった。


『ボクがいくよ~』


 イタチーがしなやかにジャンプ。高く高く飛び上がり、キングヒュドロめがけて長く伸びた爪を斜めに振り下ろした。大きな一振り。金色の太い首が切り落とされ沼に落ちた。

 すかさずサランダが口から火球を飛ばし、切り口を焼いた。


『ケフッ――――焼けたカー?』


『――――いい感じに焼けてますよー……』


 上空を旋回しながらバトランが報告した直後、キングヒュドラは倒れふわりと消えた。

 念のため沼と周囲に光魔法の[清浄]をかけておく。

 伝説の魔獣もあっという間の戦いだった。

 昨日と同じように、ケロロンがドロップ品を届けてくれる。

 レティシアは白身魚の半身(大)、魔石×3を受け取った。


「みんな、ありがとう」


『マスターのお役に立てたなら何よりでございます』


『そうケロー』


『そうダ、そうダ』


『なでなでしてほしいの~』


 四体はそれぞれうれしそうにしている。

 ちゃっかりしているイタチーの背中をなでなでし、順番に他の子たちもなでる。


「では、また明日お願いね」


 次のヒュドロが出るのは多分明日だし、一度帰ってもらおうと思ったのに、召喚獣たちは帰らないと駄々をこねだした。


『帰らない~!』


『ケロ! ケロ!』


 イタチーは前足を踏ん張って動かなそうだし、その背に乗ったサランダはべったりとしがみついている。

 ケロロンもそれにくっつきなぜかお腹をふくらませ、バトランにいたっては上空に飛び立ったきり知らん顔だ。


 バカンスで行った親戚の家が楽しくて、家に帰らないと逃げたり隠れたり踏ん張る子どもたちにそっくりだ。


(セゴレーヌの弟妹たちが公爵領うちに遊びにきた時と同じだわ……! あの時はセゴレーヌと護衛騎士が脇に抱えて無理やり連れ帰ったのよ……)


 召喚獣がどこから来ているのかわからないし、レティシアが召喚魔法陣の向こう側に行けるような気もしない。第一、トラの大きさの魔イタチを脇に抱えらるわけがない。セゴレーヌの弟妹たちのようなわけにはいかない。

 なんとか自発的にお帰りいただけないだろうか。

 召喚している間は魔力を消費するので、ずっと召喚しておくわけにはいかないのだ。


 今までこんなことはなかったのに、このダンジョンのどこかが気に入ったのだろう。


「……こまったわね……」


『マスターこまらせるの わるいの!』『マスターこまらせるの いけないの!』


 ケサランパサランたちもレティシアに加勢したが、火に油を注ぐこととなる。


『焼き毛玉にするゾ!』


 サランダがプッと火玉を飛ばした。


『オマエたちばっかりいっしょにいてずるい~! ボクたちのマスターなのに!』


『そうケロ! そんなふわふわ食べてやるケロ!』


 ケロロンとサランダは長く伸びる舌を出してケサランパサランを捕まえようとしている。


「――――事態が悪化したわ。収拾がつかないじゃないの……。せめて魔力消費が少なければ、ずっといてくれてもいいのだけれど……」


 レティシアがぽつりともらすと、もめていた召喚獣たちがピタリと動きを止めた。

 そしてあっという間にしゅるしゅると小さくなった。


「ええ…………?」


『小さくなれば、魔力使わないよ~』


『ずっといるケロ!』


『マスターといっしょ! うれしいゾ!』


 いつの間にか降りてきていたバトランも小鳥のように小さくなってパタパタと飛んでいる。


「そ、そんなにここにいたいのね……」


『いつもマスターといたいのですが、わたくしども、魔の気が少ないところには長居できないのです。その点こちらは申し分なく……』


 ――――魔の気。

 初めて聞く言葉だが、レティシアには心当たりがあった。

 たしかに、魔法を使う時に魔法発現の反応がいい時と、悪い時があるのだ。

 それは魔法研究界隈ではよく言われる話で、場所が関係しているのだろうというところまではわかっていた。


 ここは魔法発現の反応がかなりいい。

 バトランが言うところの魔の気というものが、多いからということか。


「それにしても、魔の気…………。もしかして、魔物…………?」


 ぎくっ。

 小さくなった四体が体を震わせた。


『マ、マスターとずっといっしょうれしいな~!!』


『う、歌を歌ってもらいたいもんだケロ~』


『う、歌はいいネ! マスターの歌は世界一ダ!』


 歌をほめられるとうれしい。

 レティシアは「あら……そう?」と、いそいそとランラン♪音楽歌箱を空間箱から取り出したのだった。





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