目頭が熱くなる、わさび独特な匂いを思い出しながら。

短編の中に、愛が健太として生きた時間。そして愛として歩み出した時間。それが上手く、溶け合っているように感じられた。
愛が卒業証書を受け取る際、友人の沙織の一言に、胸を鷲掴みされたようにグッと詰まった。こんなに上手く進行することはないのかもしれない。でも、希望が持てるような展開には好感が持てた。
父との確執の先で、わだかまりが氷解する一幕。
頑固でこだわりある父の握った寿司に舌鼓を打つ愛。
多くの言葉はいらない。
お互いを思い合う情景がわさびの辛味と清涼感を持って吹き込んでくる。
清々しく読後感の良い作品だった。