第2話 ジュエリーミミック(2)“調理パート”

(さぁやりましょ)


 心の中でコック姿をしたリリが、腰に巻くサロンを締め直しコック帽を被る。


「今回は二品、まずは下処理ね」



[ジュエリーミミックの下処理]



①ミミックを殻から外し、宝石部分は中にある牙を丁寧に取り除く


「ラーナー、牙を抜いて」

「どうやって?」

「こうやって上から潰すように押し込めば、引っこ抜けない?」


 指示を出しながら、リリはミミックの牙に飛び乗ると、勢いをつけ踏みつける、しかし軽いからビクともしない。


「なるうほどね、こう?」


 ビビが軽く押さえつけると、今度はバキッという音と共に簡単に抜けた。


「いい感じじゃない」

「じゃあ全部抜いちゃうね」


 ラーナはお腹が空いていたのか、抜いた先からミミックの牙をバリボリと齧る。


「っえ? 食べられるの?」

「食べられなくはないよ?」

「お、美味しいの?」

「味はほぼない」

「そりゃ骨だもん……」

「少し苦いけど、お腹溜まるしリリも食べる?」

「結構です!!」


 リリは勢いよく手を出しラーナを静止した



②そのまま、灰をたっぷり入れたお湯で灰汁抜きする


「このあり得ないぐらいのえぐみを抜かなきゃね」

「どうやって?」

「灰で煮る!」


 さらっと答えたリリにラーナは真顔で答える。


「はっ? 灰で?」

「まぁやってみればわかるわ、ほらっ鍋もって」

「え、うん」

「魔法で入れるから動かないでね」

「わかったぁ」


 明らかに不満そうなラーナ、気にも留めずにリリは風属性魔法で灰を、水属性魔法で水を鍋に入れる。

 そしてミミックの宝石を入れ、水から茹で始めた。


(下処理はこれでよしっ! ちゃんとアクが抜けるといいんだけど)



“ジュエリーミミックのブイヤベース”


①濃い塩水で下茹でしたミミックを上げ、一口大に切る

②香味野菜をオリーブオイルで軽く炒める


「香味野菜って何がある?」

「えっと……ニンニクだけ……かな?」

「まじかー、人参もセロリも玉ねぎもないの?」

「食べちゃったから、ないよ? っあ、ある……」


 ラーナが出したのはしおれた人参のヘタだった。


「おぅ、まじか……」

「まじだよ?」

「とりあえず……いれちゃおっか」

「オッケー、細かく切っとくね」


 ラーナはささっと切って、鍋で炒め始めた。


(慣れてきたわね、手際がいいわー、もう素人じゃないわね)


③一口大に切ったジュエリーミミックの身を加え、色付けない程度にさらに炒める


「周りの身も一旦、炒めよっか」

「臭みけし?」

「そうね、宝箱の匂いがついてたら嫌だしね」

「味もないしね」


 先程のリリの反応をからかっているのだろう、ラーナはニヤニヤと微笑みを浮かべる。


「炒めたら味が出てくるかもしれないじゃない」

「そんなことあるー?」

「余分な水分が抜けたら、意外とあるもんよ!」

「ふーん」


(ラーナ信じてないな? 本当なのに)



④数種のハーブ、水で煮込む


「調味料だけでも買い込んどいてよかったわー、無かったら絶望的だったわね」

「今日は何使う?」


 ラーナは鞄を覗き込みながら聞く。


「ローズマリー、フェンネル、ディル、パセリ、あとはサフランね」

「オッケーそのまま入れていい?」

「サフランだけは焦げないように少しだけ炙るわ」

「炙るの?」

「そうすると色の出と香りが良くなるのよ」

「へぇ、りょうかーい」


(白ワインもほしかったけど……仕方ないか)


⑤しっかりと中まで火を通したら、味見をして、塩で味を整える


「あっじっみ!」


 ラーナのテンションがどんどん上がるのが見て取れる。

 実はリリは少し怖い、始めての食材? を使うのはプレッシャーでもあった。




“ジュエリーミミックのファルシ〜宝石風〜”


①下処理した宝石部分の灰をしっかり洗い流し、水分を飛ばす。


「これ、綺麗に洗うから持っててもらっていい?」

「流すんだ、良かったよ……」


 魔法を準備するリリの横で、ボソリと呟くラーナにリリは軽く微笑んだ。



②詰め物の下ごしらえをする


 ラーナに向かってリリは両手いっぱい広げて声を上げる。


「次は詰め物を作るわよ」

「詰めるものなんてないよ?」

「このかったーい、黒パンがあるじゃない!」


 リリはラーナの鞄から、石のように固いこげ茶色のパンを出す。


「パン? 何かあったときのために残してるのに勿体ないよー」

「削ってパン粉にして入れるの! これは決定です!」


 教師風に左手を腰に置き、右手を前に突き出したリリは言い切った。

 ラーナは「うーん」と少しだけ悩むと、あることに気づく。


「っあ! 削る器具なんてないよ?」


 聞き返すと、リリがラーナの腰を指差し答える。


「ラーナは、ソードブレイカー持ってるじゃない?」

「ある、けど...…どうするの? 切るの?」

「後ろ側のギザギザ使ったら、削れるんじゃない?」

「ボクの武器を使うの? やだやだー!」


 ラーナは腰に手を当て、剣を隠しながらも抵抗する。


「他に無いんだから良いじゃない、おねがいー」

「やだったらやだ!」

「美味しいものが食べたいでしょ?」


 リリの言葉にラーナはスンッと黙る、そして棒立ちのまま肩をすくめた。


「……今回だけだからね」

「ありがと! あとサンドワームの干物も残ってたわよね」

「うん、少しならまだあるよ?」

「じゃあそれも刻んで入れよっか」

「……わかった……」


 ラーナの気も知らず答えるリリに、ラーナは不満そうにそう言うと、ソードブレイカーをしぶしぶ腰から抜きガリッ、ガリッっと削りだす。


(パンが出す音じゃないわよね、よくもまぁこんなもの食べるわね)


 リリはパンの削れる音を聞きながらそう思った。



③数種の香辛料を混ぜ合わせテンパリング<弱火の油で煮るように炒める>する


「じゃあ待ってる間に、わたしは香辛料を用意するかなー」


(インド料理っぽくクミンにコリアンダー、カルダモン、ニンニクあたりでいっか)



④パン粉と具材を油の入った鍋に入れ、焦げないように炒める


 リリは鍋に油をたくさん入れると、鼻歌交じりに香辛料を弱火で揚げ焼きにし始める。


「良い香りー、スパイスはこうじゃなくっちゃ!」



⑤中に④を詰め、蓋をした鍋に少量の水を入れ、焚火で蒸す様に焼く


「蓋の上にも炭を置いといて」

「豪快だね!」

「でしょー! 香りが良いから蒸し焼きにしたかったのよ、その方が中までじっくり火が入るからね」

「へぇ、色々考えてるんだねぇ」

「まぁね、食べるなら美味しいものが食べたいじゃない?」

「確かにねー」


 リリは腰に手を置きフンスッと聞こえそうなほど、偉そうなポーズを取る。

 相変わらずなリリの態度に、ラーナは無視して鍋を準備すると、想像で出てきたよだれを袖でじゅるりと拭う。


「あとはどっちも待つだけねー!」

「たのしみだねぇ!」


『完成!!』

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