第22話 とっておきの

 ブリギットは強力なドラゴンだ。それは初対面の俺でもわかる。


 だから多分、人から必要以上に恐れられ、忌み嫌われたんだと思う。


 ただ強力であると言うだけで、人間のルールには縛られず自由気ままに暮らしていたブリギットは人間にとっては悪なんだ。


 それでも、いやだからこそ、


「なぁ、その神器ってやつ、俺が抜こうか?」


 考え抜いた末、俺はこう提案した。


『バカな』


 俺の提案をブリギットは鼻で笑い飛ばした。


『勇者であるお前の言葉を信じろというのか? ふざけるな!』


「うおっ」


 クワッとブリギットが目を見開いた瞬間、熱風が吹き荒れる。俺はたまらず飛ばされ、地面を転がった。


 岩があちこちにぶつかって痛い。


『ふん、貧弱な。お前のような弱者がこの神器を抜けるわけがなかろう』


「……さぁ、どうかな? やってみなけりゃわかんねぇぜ」


 身体中が痛いけど、そこまで感じない。それ以上に、俺にはうまく行くって確信が

あった。


 バスケの試合でスリーを決めた時とは違う、根拠のある確信が。


「じゃあこうしようぜ。俺がその神器を抜いたら、俺に協力してもらう」


『どこまでもナメた真似を……』


 ブリギットが長い首を伸ばして、俺の目の前に顔をおく。


 憤怒が漲る眼。その気になれば俺を丸呑みにできる巨大な顎。口から覗く熱風。


『お前も所詮は人間。罪だの何だのとほざいて、私を封じるに決まっている』


「そんなことはしない。つか、罪ならもうとっくに精算してるだろ」


『何?』


「何百年、いや何千年もこんな洞窟でたった一人で過ごしているのなら、もう十分だ。違うか?」


 あーそうだよ。俺の独断と偏見だよ。それはわかってる。


 でも、ここで放っておくなんて選択を俺は選べない。


『ふ、ふん。そんな甘言に惑わされる我ではない』


「なら、ずっとこの穴蔵に閉じこもっているつもりか?」


『ぐっ……』


 痛いところを突かれてブリギットが苦い顔をする。


『わ、我にはお前を殺すつもりなのだぞ』


「じゃあこうしよう。もしも俺がお前を裏切ったら、俺を殺していい。どうだ?」


『……』


 ブリギットは眉をへの字に曲げいる。いや眉なんか見えないけど、そう見えた。


『貴様、一体何を考えているのだ』


「そんなにビビんなって。むしろ得になる話だと思うぜ?」


『何だと?』 


「お前、勇者が憎いんだろ?」


 ブリギットの眉がピクリと動いた。いや相変わらず見えないけど動いたような気がした。

「自分を騙した挙句、こんな穴蔵に長い間閉じ込めた勇者に一発やり返してやろうと

は思わないか?」


『……当然だ』


「なら、俺がその機会を与えてやる」


 悔しさで歯噛みするブリギットに対し、俺はニヤリと笑う。


「俺と協力して、勇者のヤローを一緒にぶっ飛ばさないか?」



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