第10話 俺は二番目


 俺も、マリアも、クリスも。


 一斉に音がした方へと向く。


 部屋に入ってきたのは、中年の男性だった。肩で息をしながら膝に手を置いている。すげー走ってきたんだろうな。


 つーか髪型がすげぇ。音楽室に飾ってあったバッハみたいな髪型してる。生で初めてみたわ。服装も貴族がつけてるような、こう、肩とか胸の辺りに飾りがいっぱいついてる。


「知り合い?」


「えっと……」


 言葉を濁して目線を逸らすマリア。


「マリア、お前はなんということをっ……」


「父さん、私は自分の信じることをしただけです。今の現状を打破するためには、幸多さんの力が━━━」


「黙れ!」


 一喝。


 マリアの声をかき消した父親は俺の方を向いて、キッと睨みつけてきた。


「お前、異世界から来た人間だな!」


「!」


 言い当てやがったぞ、この父親。


「えっ!?」


「……」


 驚くクリスに、黙りこくるマリア。


 その反応は気になるが、とにかく今は父親に対応しなければ。


「そうですが、それが何か問題でも?」


「大アリだ! この悪魔め!!」


 マリアの親父は唾を撒き散らしながら怒鳴ってきた。


 ひどい言われようだな。目の敵にされすぎじゃね? ここは異世界から来た俺を歓迎するところじゃねーの? 俺勇者だよ?


「これ、フォクサー卿。そう声を荒げるものではない。品がないですぞ」


「し、市長」 


 緊迫感が漂う部屋の中に、さらにもう一人入ってくる。


 マリアの父親と髪型と服装は似通っている。かなり小柄だが胸の飾り付けはマリアの父親より多い。えらい人間だと初対面の俺にもわかった。


「初めまして。異世界からの客人。私はこのエルシド市の市長を務めております、ゴリゴ・ゴリゴーリオ5世と申します」


「っ……」


 俺は思わず俯いた。


 不意打ちで笑かすのはやめろよ。なんだその名前。ゴ多すぎるだろ。


「何か?」


「いえ、なんでもありません」


 俺は精一杯の努力で表情を作り、自己紹介をすることにした。


「俺は椹木幸多。ご推察の通り、異世界から来ました」


「やはりか!」


「うむぅ」


 今にも殴りかかってきそうなマリアの親父とゴリ市長。対極的な二人だ。


「そして、グリモアも渡してしまった、と」


「も、申し訳ありません! 異世界からのお客とは梅雨知らず!」


「くっ!」


 クリスがペコペコと頭を下げると、マリアの親父が意を決したように腰に下げていたグリモアを手に取った。


「今ここで始末してやる!」


「い!?」


 やばい。本気だ。


 殺気なんてもんは俺にはわからないが、本気で俺を攻撃しようとしているのはわかる。


「フォクサー卿、二度同じことを言わせないでいただきたい。この街を戦場にするおつもりか?」


「ぐっ」


 苦虫を噛み潰したような顔をするマリアの親父に、俺は耐えかねてマリアに質問した。


「どう言うことだ? 俺は魔王を倒すために呼ばれたんじゃないのか?」


「おやおや、これはおかしなことを言いますな。サワラギ殿は」


 ゴリ市長は腕を組み、指で頭をトントンと叩きながら俺の目の前にやってきた。


「魔王なら半年前に討伐されましたよ。あなたと同じく、異世界からやってきた勇者によってね」


「……は?」


 俺は恥も外聞も気にせず、疑問符を浮かべた。



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