爆団~Νew people HERO~

MIZAWA

第1話 爆団会員001【ザ・ピエロト】

 小学生くらいの時に自分自身が皆と違っている事に気付き始める。

 中学生の時に不登校になって本当の一人ぼっちになる。

 高校生の時に対人恐怖症になって自殺まがいの事をした。

 そして高校を中退する事になった。

 自殺未遂で病院に運ばれ全身を検査した結果爆団症候群だと断定された。

 施設という施設を巡り、人生なんて苦しむ事だけだと思っていた。

 その力が発現するまでは。


 俺の名前はナナサク・ユウヒ、これから人々は俺の事をザ・ピエロトと呼ぶようになる。

 人生とは非常に長いものだと思う、しかし地球の歴史では1秒と例えていいだろう。

 

 俺達爆団症候群と決められた新しい人類は、ノーマルの人間達から迫害を受けている。人権なんて存在しない、俺達は何かに優れ何かに劣っている。

 それでも人々は俺達爆団症候群を蔑ろにする。


 だから俺は立ち上がった。

 1人の爆団症候群として、沢山の爆団症候群の代表として、そして爆団症候群よりさらに進化した人類として、これは爆団症候群と人類の命をかけた戦争だ。


 救急車の音、消防車の音、警察車両の音。

 そんなどうでもいい音ばかりが広がっている世界。

 そして沢山の戦争の犠牲の末に得た平和な世界。

 日本大国の片隅にひっそりと俺は暮らしている。

 データ入力の仕事を毎日こなし、1ヵ月の給料は2万円。一般成人男性の給料は25万とされる。


 この国は俺達爆団症候群に年金をくれる。

 そこは確かに助かるが、騙されてはいけない。

 同じ爆団症候群の人達と一心不乱にデータ入力の仕事を終えると、それぞれが自宅に帰っていく。


 俺も1人暮らしの自宅に帰るだけだ。

 ビル群の隙間から沈んでいく太陽が見える。

 空にうっすらと煙のような白い靄が現れると、雪が降ってくる。

 

「ああ、もう冬か」


 俺はただ呟いていた。

 この世界には季節という概念がある。

 俺達人間は季節に左右されながら生きている。

 街の中に沢山の人々がそれぞれ色々な事を考えて歩いている。

 肌寒い風は俺達人間の脳味噌を冷やしてくれる。


 ただ仕事をしてただ歩いて自宅でのんびりとして、趣味の小説を書いたり、ゲームをしたり小説を読んだり。

 俺の人生はありきたりな人生だ。


 誰ともつるむこともなく、友達がいるという訳でもなく。

 家族は俺の事には関心を示そうとしない。

 そんな孤独な俺にどうやって生きていけばいいのかと問いたくなる。


 そんな俺の人生をぶっ壊し、俺の人生に地獄の炎をともしてくれた力。

 そして俺はこの時からザ・ピエロトと名乗る革命家になった。


 そう今俺は鏡を見ている。

 そこに映し出されるはずの俺自身の顔がピエロの仮面となっている。

 俺の人生を変えるきっかけは唐突にやってきた。

 俺は鏡を見ながら、何度も何度もピエロの仮面をはぎ取った。

 そのたびに血しぶきをあげながら、皮膚そのものをはがしている感じであった。

 顔に激痛が広がり、次の瞬間にはピエロの仮面が生えてきている。

 

 まるで高速に皮膚が生え変わっている。またはトカゲのしっぽのようだった。

 俺はトイレの中でもがいていた。


「かは、ぐううううう」


 いたるところに血まみれのピエロの仮面が散乱する。

 顔が熱くなる。

 冷やそうと風呂場に直行する。

 シャワーの水で自分の顔を冷やす。

 仮面が次から次へと生え変わる。

 風呂場はまたたくまにピエロの仮面だらけになる。


 まるで今まで我慢してきた社会への怒りが俺自身を変えようとしていた。

 何度も何度もピエロの仮面が顔から落下していく。

 俺は痛みと熱さでおかしくなって無我夢中で暴れた。

 ここはアパートであり、もちろん他の住民だっているだろう。


 体が動かなくなった。

 まるで体力がなくなってしまったかのように。

 次の瞬間扉がけたたましく叩かれた。


「今何時だと思ってんだよ」

「おい、ふざけんなよ」

「るせーんだよ、どしゃばたどしゃばた」

「おめー爆団症候群の人だろ、俺達が払ってる税金で生きてるんだろ」

「なら静かにしろよ……」


 扉が吹っ飛ぶ音が炸裂する。

 それは起きてしまった。

 俺の無意識の動きで扉を粉砕していた。

 眼の前にいた4名近くの隣人達は唖然としていた。


【ぴ、ピエロ?】


 声を揃えて呟いた4名は腰を抜かしていた。

 俺は右手を見た、次に左手を見た。


「あ、れ?」


 右手の位置と左手の位置が違う。

 

「あ、俺が10人?」


 そう俺が10人いた。

 そのどれもがピエロの仮面をつけていた。

 俺は部屋にいるピエロの右手を見て、扉を粉砕したピエロの左手を見ていた。

 意識は統合されており、頭が次から次へと同化していく。

 そして俺は笑っていた。


「ふははははははははははっはあはははあはあ」


 俺は初めて力を得た。 

 いつしか全てを理解していた。

 これが人類の進化。

 そしてそれは俺だけではない。

 俺は仲間を集める必要がある。

 俺はこんな腐った世界を変えてやる。

 そして沢山守っていらねーやつは皆殺し。


「け、警察だ。器物破損だ」

「に、にげろおお」


「ふはははははっは、逃がすが劣等種め」


 うまく操作する事が出来ない。

 しかし10人の俺は歩き出す。

 まるで幽鬼のようにゆったりと両腕をだらりと下げて。

 本体である俺は風呂場にいる。


 4名のうるさい隣人達は悲鳴をあげて逃げる。 

 それを幽鬼のように10名の俺が追いかける。

 1人また1人と悲鳴を上げる。

 ピエロの自分にゾンビのように襲われる住民たち。

 右手左手とおもいっきり引っ張り。

 そして全身を引きちぎられて悲鳴をあげる。


 大勢の人々がアパートの家から出てくる。

 俺はもっともっとと仮面を顔からはがし、自分自身を増やし続ける。

 人々はパニックになり悲鳴をあげて逃げる。

 俺は風呂場から自分自身の100名を操作して片端から人々を引き裂く。

 面白くて面白くてたまらない。


「俺は爆団症候群か、そうだよ、俺は爆団症候群だおめーら人間とはちげー、俺は普通の人間じゃなく新しい人類だ」


 まるで自分を慰めるように囁き、その日俺の住んでいる住宅街が警察官たちに封鎖された。


 これは俺の物語、ザ・ピエロトとして生まれ変わった俺のストーリー。

 そしてこれは俺と俺の仲間達の歴史なのだ。

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