第20話 二人きり

 ただ面白がって見ているだけなのか?

 てか行くなよ。

 傍に居てくれよ。

 こっちは不安なんだよ!

 なんて心の中で呼びかけても井岡に届くはずもなく、井岡は何処かに消えていってしまった。


「何してたの?」


「いや、さっきまでは井岡と……」


「あぁ、そう言えばどっか行っちゃったけどどうかしたの?」


「知らないよ……」


 俺はため息を吐きながらそう言って堅山さんを見る。

 

「何? 私が来たらそんなに嫌?」


「あ、いや……そう言うわけでは……」


 やばい、ため息を吐いたのがまずかったようだ。

 そりゃあ誰だってため息を吐かれて良い気はしないよな?

 そんな事を考えていると堅山さんはどんどん表情を雲らさて行く。


「私と一緒に居たくない気持ちも分かるけどさ……」


「だ、だから別にそう言うわけではなくて、えっと……」


 あぁ、きっと自分が悪い気持ちもあるから堅山さんも強く言えないんだろうな……てか気まずいからその空気感やめて!

 いや、俺がため息なんて吐くからいけないんだけどさ……。

 

「わ、悪かったよ、別に堅山さんが嫌とかじゃないんだ。ただちょっと今は疲れてて……ほ、ほら吉田に呼び出されて色々あって疲れてて」


「あ、そう言えばそんな事言ってたわよね? 何かされたの? 大丈夫?」


「いや、別に何かされた訳じゃないし……ただ話をしただけだから」


「それも……私のせい?」


 元を辿ればそうなのだが、この状況で「うん、お前のせい」なんて血の涙もないことは言えない。

 何とかして誤魔化したいけど、内容が内容だしな……。

 オブラートに包んでただ今朝の事を少し聞かれただけにしよう。

 てか、酷いことをされたなんて堅山さんに言ったら、堅山さんが怒って吉田に何か言ってクラスで「女に泣きついた奴」なんて言われるも嫌だしな。


「その今朝の事を聞かれただけだから心配ないよ」


「本当に? あの馬鹿から何か言われたんじゃ……」


「い、いや聞かれただけだよ……」


 催眠術を疑われたたけど……。

 

「てか、なんであんな事をしたの?」


「それは……あぁすれば私が本気って分かって貰えると思ったから……」


 その結果俺は公開処刑になったわけだが……。

 まぁでも確かに堅山が俺の事を本気で好きなのは分かった。


「その……気持ちは良く分かったけど、あぁ言うのはもうなしにして欲しいかな……恥ずかしいから」


「わかった。ごめね、余計なことして」


「いや、分かって貰えれば……」


 素直だな……こういうところは素直に良い子だと思う。

 でも困ったな……明日からも俺はきっと周囲で噂されるだろうし……明日からどんな顔して学校に行けば良いやら。

 今日だけでもこんなに疲れたのに。


「じゃぁ、言いたいことは言えたから……」


 と言って俺は帰ろうとするが。


「どうせだし少しお茶していかない?」


 そう言われながら、俺は制服の裾を掴まれてしまった。

 くそっ!

 流れで帰れると思ったのに……。

 仕方なく俺達は喫茶店に入り対面で座った。

 向かい合って座ると堅山さんが真っすぐ俺の顔を見てくる。

 吸い込まれそうになるほど透き通った大きな瞳から俺は視線を反らしアイスコーヒーを注文した。


「石嶋君ってさなんで井岡君と仲良いの? タイプ全然違くない?」


「中学の頃色々あってね」


「色々って?」


「まぁ色々だよ。話すと長くなるし、井岡も多分あんまり話されたくないだろうから言えないけど」


「ふーん……なんか妬ける」


「なんで? 男同士だし別に変なことは……」


「いや、最近は女の子の恰好をした男子も多いって聞くし」


「それは一部だと思う」


「それに男同士の恋愛漫画もあるって」


「まぁ最近はそこら辺は結構世間が寛容になってきたからね……でもリアルではそんなのそうそう無いと思うよ」


 自分から話を振らなくても堅山さんは次から次に俺に話題を振ってくる。

 沈黙を恐れていたけど、この分ならそのことで苦労はしなくて済みそうだ。

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