第8話 彼女が俺を好きになった理由

「あ……いや……俺は……」


 落ち着け、冷静になれ。

 俺はこのままでは流されるままにOKと口にしてしまう。

 しかし、それはいけない。

 相手が本気だからこそ、それはいけない。

 俺が呼んできたラブコメ作品の主人公たちだってヒロインの思いには真っ向から向き合っていた。

 真剣に堅山さんが俺に向き合ってきたなら、俺もそれに応えるべきではないだろうか?

 

「堅山さん」


「………」


 そうだ。

 彼女はこれまでの事を謝罪して本気で俺に告白してきたんだ。

 そんな彼女に俺も応えないと失礼だ。

 カーストとかラブコメ展開とか今はどうでも良い。

 今は彼女と向き合うんだ。

 そうして俺は答えを出した。


「ごめん。君とは付き合えない」


「……そっか……だよね」


 これが俺の答えだ。

 やっぱり彼女とは付き合えない。

 付き合ったとしても上手く行かないと思ってしまった。

 その理由は色々だけど、一番は俺が堅山さんを全くと言って良いほど知らないことだ。

 俺が知っている堅山さんはクラスで人気の女子というくらいだ。

 付き合うとなればお互いの良いところも悪いところも知らなければいけない。

 少し堅い考えなのかもしれないが俺はそう思う。

 だから俺は告白を断った。

 容姿が良いかどうかで付き合う相手を選ぶのは違う。

 しっかり中身も好きになって始めてその人を愛していると言えるのだと俺は思う。


「……ごめんね……いろいろ迷惑掛けて」


「いや、良いよ」


「明日からは……また学校で話掛けても良い?」


「うん。でも、もうドッキリはしないでね」


「うん……じゃぁね」


「気を付けてね」


 堅山さんは無理やり作ったような笑顔でそう言って帰って行った。

 

「これで良かったよな……」


 どうせ容姿だけを見て彼女と付き合っても何も良いことなどない。

 俺の悪いところを見て彼女ががっかりて振られて終わりだ。

 でも、なんで堅山さんは俺を好きだったんだ?

 うーん、謎だ……というか俺まだ何か忘れてるような……。


「あっ……井岡……」





 彼を意識するようになったのは恐らく入学式の帰りからだったと思う。

 高校生活に期待を抱きつつも、明日からの学校生活に若干不安を持ちながら家に帰っている時の事だった。

 

「あ、あれ……お財布……」


 私は財布を落としてしまった。

 しかも財布の中には電車の定期券も入れてあり、このままでは帰れなくなってしまう。

 

「どうしよう……学校? もしかして来る途中で!?」


 言えから少し離れた学校に来たのと、同じ高校に進学した中学の同級生が居ないのとで頼れる人は周りには居ない。

 おまけにスマホはバッテリー切れだし、お金もない。

 入学式から最悪だと思いながら私がもう一度バックの中を探していると……。


「あの……」


「え?」


「もしかして財布落としました? これ拾ったんですけど……」


 そう言って私に財布を差し出してきたのが彼だった。

 

「そ、そうです! ありがとうございます!!」


「いえいえ、じゃぁ俺はこれで」


 最初彼とはこれだけだった。

 特にその後再会した訳でもない。

 それから数日経ってやっと同じ学校の新入生だと気が付いたほどだ。


「あ、あの人……」


 クラスも別で委員会も別、接点は全く無かったけどなんでか彼が気になり、見つけると目で応用になっていた。

 最初は恋心なんて全くなかった。

 でも……。


「お婆さん一緒に渡ろうか」


「あぁ…ありがとうね」


「いえいえ」


 街でお婆さんと一緒に横断歩道を渡ってあげたり。


「どうしたんだ僕?」


「うぅ……こ、転んで……」


「そっか、そっか。痛かったな、ほら公園で擦りむいたところあろうぜ」


 転んだ子供に声を掛けたり。


「うん…しょ……」


「先生持ちますよ」


「あぁ、ごめんね。ありがとう」


「いえいえ」


 先生の重そうな荷物を持って上げたりなど、だんだん彼が優しい人なんだという事を知っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る