恋を知りたい俺は、今日も彼女とデートする。

天川希望

プロローグ 告白は始まりを告げる

プロローグ 1話

 『恋』とは何なのだろうか。


 辞書には、特定の人に強く惹かれること。また、切ないまでに深く思いを寄せること。と書いてある。


 だが、俺には分からなかった。


 正確には、理屈として理解はしていた。

 しかし、それはあくまで知識であって、自分の物ではなかった。


 だがら、俺には人を好きになるということも分からなかった。


 世の中の全てのことを知ることは不可能だということを、俺は知っている。

 しかし、それでも、俺は知りたいのだ。


 『恋』という名の感情を知りたいのだ。


 知って、そして感じたい。

 その感情を、自分の心で。


 でも、それが簡単なものではないことも分かっている。


 勉強だけが取り柄の俺だからこそ分かる。

 これは、俺には理解が難しい感情なのだと。


 それでも、世の中の大半の人間は人を好きになり、恋をして、やがて愛する。

 人はそれを「恋愛」と呼んだ。


 あぁ、なんて素晴らしい響きなのだろう。


 俺はただ、恋人が欲しいと思っているわけではない。


 そもそも恋人が欲しいという欲求がないのだ。

 なぜなら『恋』を知らないからだ。


 そもそもの話『恋』が分かっていないのに、恋をする人なんているはずもないのだ。


 これほどまでに俺が『恋』を知りたいのには理由があった。

 まぁ、ない方がおかしいとは思うが、それは中学時代まで遡る。



 中学二年の冬、俺は人生で初めて異性からの告白を受けた。

 相手はクラスメイトで、あまり関わりがなかった女の子だった。


 それでも、俺は確かに好意を感じた。多分、本気なのだろうと思った。


 でも、俺の答えは決まっていた。

 返事は「ノー」だった。


 だってそうだろ?俺には好きという感情が分かっていないのに、それでどうやって恋仲になろうと言うのだろうか。


 それから、何度か俺は異性から告白された。

 そして、そのことごとくを断った。


 当たり前のことだとは思うが、それでもやはり少し心に痛みを感じることがあった。

 目の前で泣かれたときは、さすがに心に刺さる。


 まぁ、自分が本気でしたことが、努力が、報われなかったのだから、それで悲しくないわけがない。


 でも、だからと言って告白に応じることはできない。

 むしろ、適当な気持ちで答える方が、相手を傷つけることになる。


 自分は真剣なのに、相手は適当な態度をとる。

 これこそが一番、人としてしてはいけないことだと俺は思っていた。


 じゃぁ、目の前で傷つく姿を見るのが嫌だから、告白されないように恋人を作るために『恋』を知りたいのかと言われるとそうではない。


 確かに、そうすればいいのかもしれないと考えたこともあった。

 でも、それは根本的な解決策にはならない。

 相手に恋人がいるから、その人を好きにならないなんて、そんな都合のいい話はない。


 では、どうして『恋』を知りたいのか。

 それは、俺に告白してくれた人や、周りの友達が、『恋』をすることで輝いて見えたからだ。


 その姿はまぶしくて、俺は次第にその光に憧れを抱くようになった。

 だから、『恋』を知りたいのだ。


 そうすることで、少しでもあの光に近づくことができるかもしれないから。

 勉強しか取り柄の無い俺に、新しい道を示してくれるような気がするから。


 そんな、希望の光になってくれる、そう思えるから。


 だから、俺は『恋』を知ってみたいと思うようになった。



 ま、大した話じゃないだろ?


 ただの私利私欲だ。

 きれいごとの一切ない、純粋な欲求。

 少しは俺のこと、普通の人間だと思ってくれたか?


 『恋』を知らないだけで、別に機械のような無感情な人間じゃないんだってことを理解してくれたなら、良かった。


 長々とこんなことを語ったが、結局なにが言いたかったのかって話だが、それはただ一つだけだ。


「誰か、俺に『恋』を教えてくれ……」


 そんな、些細な願いを口にしたときだった。

 俺の背後から、肩をトントンと優しく叩かれた。


 驚いて振り返ると、そこには学校一の美少女と呼ばれている黒髪ロングの清楚系美少女が立っていた。


 そして、彼女は優しい口調でこう言った。


「その役、私に引き受けさせてくれませんか?」

「へ?」


 俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

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