第4話

久し振りの外の空気に、何か後ろめたいような、知り合いに出会ったらどうしようとか、ナナがマモルになったのをみんな知ってるのだろうか、どう見えているのだろうか、などと怯えながら、左右からアカリとマモルに手を繋がれた私は、最大限にうつむいて市役所までの道を歩いた。


婚姻届を受け付けた市役所の職員が不審な目で見ていたのは、実はマモルの外見よりもその異常なテンションの高さにあったのではないかと、今になって思う。


ずっと一緒に暮らしていてもやっぱり私には想像もつかないが、きっとマモルはこの日、地球上の誰よりも幸せで嬉しかったに違いない。


心とは反対の性別の体で生まれて、育って、生きてきて、それだけでもどれほど苦しかっただろう。


どれほどひどい目に合ってきただろう。


それを乗り越えてやっと愛する人と一緒に暮らして、その人の子供を一緒に育てることができて、喜びに溢れていたのも束の間、その子供にまでひどいことを言われ始めて、どれほど傷付いたことだろう。


その全てを耐え、乗り越え、大手術をして、お役所にも自分の性別を認めさせ、そして手に入れた結婚の価値とは、どれほどだろうか。


しかし当時の私はまだそんなことにまで気が回らなかったから、婚姻届やそれを持った自分たちの写真を撮りまくり、役所の職員に「二人の婚姻を認める」などという台詞を言わせた動画まで撮り、大声で「ありがとう!愛してる!」なんて叫んだりするマモルにひたすらに恥ずかしかったのだが、


「許してあげてね」


とアカリは笑って私の頭を撫でた。




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