最終話 怪獣がいなくなった日(2)


全てに絶望し、怒り、憎しみ悲しみを宿った邪眼。

 それに見下されているような気分だ。

 その瞳がマキコを睨みつけたかと思うと、それはエメラルドグリーンに光ビームとなってマキコの肩をかすめた。

『ち、まともにやってたらやばかったな』

『でも、逃げるわけにはいかない……』

 マキコは飛んだ。

 怪獣の身体を足場にし、どうにか顔の高さまで着いた。

『でぃやああああああああああ』 

 マキコの渾身の拳が怪獣の顔面に叩きつけられた。

 しかし、ビクともせず、代わりにマキコの腕にダメージを負った。

『うが……』

 右手からは血が溢れ、腕をあげることができない。

 ヨウの元に戻り、怪獣の特徴を話した。

『しょうがない……リクナたちに手伝ってもらうしかないね……アタシたちだけで倒したかったけどね……』

『キヤコ司令官! 頼む!』 

 キヤコはヨウの言葉を合図にし、待機していた隊員たちに戦闘態勢を命じた。

「ヨウ、マキコ! 爆風が来るかもしれないが保ってくれ!」 

 全てのミサイルが怪獣に向けられた。

「全弾、撃てぇ!」 

 怪獣に向けられたミサイルが発射された。

 効いているのか怪獣の苦しそうなうめき声が辺りを轟かせた。

『く、怪獣と言えども、痛みは感じるよな!』 

 ヨウの赤い鎧がさらに赤く発光した。

 それはもはや炎そのものだ。

『怪獣ーーーーーーー!!!』

 ヨウは首元に蹴りを入れたはずだったが、怪獣の左手がそれを防いだ。

 しかし、ヨウはその左手を貫き、首元に一直線で向かった。

 首元にヨウの蹴りが入り、首回りの皮膚が揺れた。

 そのまま、貫くことはできなかった。

 怪獣は何を考えたヨウごと自分の首を締め出した。

『ヨウーーーーーーーーーーー!!!』

『ぐぁあああああああああ』

 怪獣は自らの命を犠牲にしてまで、ヨウを潰そうとしてるのか。

 ヨウを助けるにはあの腕を切るしかない。

『ヨウ、堪えてくれ……』

 マキコの腕のアーマーが青く光だし二本の剣となった。

 マキコが飛び、怪獣の腕に刃を入れる硬いが斬れない硬さじゃない。

『うおおおおおおお!!! ヨウーーーーーーー!!!』 

 怪獣の右腕が斬り落とされた。

 腕から解放されたヨウが落ちてきた。

『ヨウ!』

 慌ててマキコはヨウを抱きとめた。

『……マキコ……頼みがある……』

『なんだ……』 

『アイツの口を開けてくれないか……』

『そんなことしてどうする?』

『内側から攻撃する』

『そんな無茶だ!』

『無茶をするのがアタシたちの仕事でしょ?』

 アーマー越しにもヨウの笑顔が伝わってきた。

 笑顔で頼んでくるヨウが失敗したことは一度だってない。

 わかってはいるが今、それを根拠にそれを許していい物か。

『マキコ、これはマキコにしか頼めないんだ。みんな守るために。頼むよ。マキコ』 

『……わかった』

 マキコは怪獣の口を切り裂き、最大出力のチカラを込め、怪獣の口を開いた。

 しかし、怪獣も口を閉じようと必死だ。

『ぐぁっ!』

 マキコのアーマーがミシミシと音を立てる。

『ヨウ、早く!』

『了解! ミクロトランス!』  

 怪獣の口の中に入るため、ヨウは自らのサイズを小さくした。

 ヨウはマキコの横を通り、怪獣の口の中へと入っていた。

 マキコはアーマーの限界だった。

『はぁ……はぁ……ヨウ……』

 マキコは落下していった。

「急いでマキコの回収を!」 

 キヤコは今まで発したことの無い声で叫んだ。 

「ヨウとお姉ちゃんはどうなってるの!」

 黙り込む隊員たち。

 リクナとキヤコでさえ、何も言うことができなかった。

 巨人に変身し、怪獣と戦っているのに怪獣を倒せるのはヨウとマキコだけ。

 ヨウとマキコは二人だけで戦いすでにボロボロになっているではないか。

 怪獣の口の中へと入っていったヨウが何を考えているかマヤコにもわかる。  

 内側から怪獣を倒すつもりだ。

 何もできない。

 何もできない、

 何もできない。

 マヤコは何もできないことが悔しかった。

 目の前で戦っている人がいる。

 大事な人が戦っている。

 でも、それはその人にしかできない戦い。

 どうして、彼女たちだったのか。

 彼女たちは本当にこんな戦いを望んだのか。

 マキコがストレッチャーで厳重に運ばれてきた。

「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」

 マキコは完全に意識を失っていた。

 マキコに駆け寄ろうとしたマヤコを秋風隊員が抑えた。   

「マヤコちゃん、大丈夫! お姉さんは意識を失ってるだけだから」 

 マヤコにもわかっている。

 だが、さっきまで怪獣と戦い、傷ついた姉を前にして冷静でいられるわけがなかった。

「マヤコ……」

 奇跡なのか、マキコの意識が一時的に戻った。

「マヤコを側に……」

 マヤコは秋風の手を振りほどき、マキコの側に寄った。

「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」

「マヤコ……ヨウ……を頼む……」

「ヨウ……」

「今、あの子は一人で戦っている……ヨウを応援……してあげて……」

 マキコは再び意識を失った。

 怪獣の中に入ったヨウは一人戸惑った。

『おいおい、嘘だろ……』

 それは怪獣の腹の中と呼ぶにはあまりにも広く、そして卵と思われるものが無数に広がっていた。

『中から攻撃する一寸法師作戦だったのにこれは作戦変更だな……』

 ヨウは卵に気を付けながら進んでいく。

 しかし、卵の一つが動き出した。

 それに気づいたヨウはすかさず手刀を繰り出すが遅かった。

 蜘蛛に似た怪獣はヨウに覆いかぶさる。

『蜘蛛は……キライなんだよぉ!!!』

 蜘蛛を引きはがすと殴りつけた。

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