第4話 ユメ見る少女(3)


 強いヨウさんを撮りたかった。

 かっこいいヨウさんを撮りたかった。

 そのためにわざと危険な場所にヨウを呼び出した。

 それは自分はヨウに守ってもらえるという甘えがあったからだ。

 自分は怪我をしない。

 ヨウのことを何ひとつ考えていなかった。

 ヨウなら大丈夫だろうという勝手な思いこみ、ユメはカメラを叩き壊そうと腕を振り上げた。

 そのとき。

「ユメちゃん!」

 ユメが顔を上げるとヨウは怪獣の攻撃をかわしながら叫んだ。

「アタシの活躍、バッチリ撮ってねー!」

 ヨウが見せるいつもの笑顔だ。

 ユメは急いでカメラを構え直し、ヨウを追いかけた。

 ヨウの活躍を一瞬一瞬逃さないために。

 ヨウは最初からユメに気付いていたが、わざと、気付かないふりをしていた。

 それが彼女のためになると思ったからだ。

 スポーツと戦いは違うということをヨウはユメに見せたかった。

「たまには怪獣も役に立つね……教育に良いよ!」 

 ヨウが怪獣に突っ込むと同時に怪獣も突っ込んできた。

 森の中を轟音が響き、森にいたであろう鳥たちが一斉に飛び出した。

「ぐぐぐ、チカラ比べなら負けないぞ!」

 ぶつかったらひとたまりも無いと言っていたヨウが自分から突っ込んでっいった。

 ユメはカメラのシャッターを切った。

 森の上からバラララララと音を立ててヘリコプターが現れた。。

『ヨウ、聴こえる?』  

「リクナか!」

『よし、ユメちゃん連れて、出来るだけ怪獣から離れて』

「……わかった! うおおおおおお」

 ヨウは怪獣を持ち上げると投げ飛ばした。

 ユメは思わず呆然となった。 

 リクナに言われた通り、ユメを抱きかかえて、ヨウは走り出した。

「ユメちゃん、大丈夫?」

「あ、ああああ……」

 ユメは泣いていた。

 怖かったのもあるが、ヨウを騙して、自分のエゴのためにヨウに怪我をさせてしまったことに全てに謝りたかった。 

 でも、声にならなかった。

 ただ、ひたすら静かに涙を流すことしかできなかった。

「ユメちゃん、ここは危ないから早く行こう。リクナがなんとかしてくれる」

 ヨウは叱るでもなく、いつものヨウとは思えない、優しい声でユメの肩に手を乗せた。

 ユメは悟った。ヨウは全て知っている。

 知っているのにユメを責めなかった。

 ヨウはユメが思っているほど大人で、優しくて真面目な人で、心も強い人だった。

 ヨウたちの後ろで怪獣の物凄い声とヘリコプターが怪獣目掛けて閃光を放った。

「うわ、対怪獣レーザー砲だ!」

 ヨウはさらに速く走ったが、風圧は容赦なく襲ってきた。

「うわあああああああ」

 ユメとヨウはゴロゴロと森を下っていた。 

 下りきると広い平原に出た。

 二人は横になり、泥だらけで、息を整えた。

「はぁ……はぁ……ユメちゃん……」

「は、は……い」

「写真……撮れた……」 

「は、は……い」

 ユメは空に向かってカメラを掲げ、そのまま、眠りについた。

 眠りから冷めたときヘリコプターの中にいた。

「怪獣がロボットを取り込んで装甲にしていた?」

「そう。ちょっとやばいかもね。オマケに森で三体で移動してた」 

 包帯だらけのヨウがリクナとわからない話をしていた。

「あ、ユメちゃん起きた? そろそろお家付くから待っててねー」 

 何事もなかったようにヨウは明るく振る舞った。

「ユメちゃんごめんね! ヨウのおバカが危険な目に合わせちゃって!」

「ち、違います! ヨウさんは……悪く……」

「ユメちゃんカメラ見して」

 ユメが謝ろうとしたとき、ヨウは優しい声で言った。

 震える手でカメラを渡し、操作方法を教えた。

「お、よく撮れてるじゃん!」

「あ、あの……」

「リクナ、見て見て」

「へえーすごい、迫力あるね」

「これとかアタシ、お気に入り!」

 ヨウの笑顔を見て、ユメは安心して眠りについた。

 ユメはこのとき正しい夢の一歩に近づいた気がした。

「ヨウ、カメラ貸して」 

「ユメちゃんのだから気を付けてね」

 リクナはユメのカメラのメモリをコピーするとカメラをユメのポケットに入れた。

「これも貴重なデータ。しかも最新の」

 ヨウは複雑な顔をしてヘリコプターの窓から果てしなく続く空を眺めた。




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