第2話:誘いの裏には悪魔が潜む

昼食の時間になった。

二限目からの授業だったが、変な目で見られなかったのはこれまで俺が影を薄めて生活してきたおかげだろう。

よし、と謎の覚悟を決め俺は教室を早急に迅速に出た。

「屋上に行きますか?」

ストーカーか何かかな?

ヒョコッと俺の前に顔を出し明るい笑顔でそう聞く彼女は折羽千鶴。脅迫を得意とする美少女だ。

「なんで待ち伏せしてんだよ」

バレない様にさっさと屋上に行くつもりだったのに廊下で出待ちをされていた。なんという迅速な行動。と、感心している場合ではない。この状況は良くないんだ。

彼女は有名人。そんな悪魔と一緒にいると俺は目立ってしまう。

もう既に周囲がざわつき始めてる!

「ちょっと離れて?」

「十センチくらいですか?」

「誰が気づくんだ!……人目に付くの嫌いなんだってば」

「では、屋上ですか?」

「屋上行くけど!」

伝わらない。

「あー、あの人なら今いませんよ?」

「え?ここに居ますけど」

空気を読むと言う回路が頭にないのかこの子は。

「じゃ!!」

取り敢えず『誰かを探してもらっている千鶴と探す一般人A』という体で周りを納得させ、早急に誰もいない棟の屋上に向かおう。

彼女なら結構な速さでも追い付いてこれるだろうからあまりスピード調節は考えず走る。

「お急ぎですか!?」

並走だと!?

一般人と能力者では身体能力にも差がある様だ。直ぐだよ?すぐそこ。廊下を一本右に曲がった所で並ばれた。

そのまま無視し続けやっと人のいない屋上に辿り着いた。

「な……なんで……そんなに……追ってくんだよ……」

こんな疲弊しきった体でご飯など食べれる気がしない。

「な、なんで……逃げるん……ですか……」

少し予想外だったのは彼女も膝に手を着く程疲れている点だ。体力はないのか?

「人目に付かない場所に……来たんだろうが……で、何の用だよ……」

「用が無ければ会いに来ちゃいけませんか?」

「えっ?」

いや、ドキッじゃないんだよ。美少女と言う化けの皮に騙されるな俺。

「まあ、用事あるんですけどね」

「返せ俺の純情!!」

「??」

「いえ、なんでもないです」

そ、そ、そそうだよね。騙されないぞ。俺は騙されない!

「それで何の用だ!!」

「…………今とても威圧的に感じたのは気のせいでしょうか?」

正しいです。

「ああ、ええと用件でした」

何を言い出す気だ、この子。また変なこと言うんじゃ…………。あ、待って今のなし。

「部活作りましょう」

「なんでっ!?」

フラグ回収が奇麗に決まったぁ!というか予想外の角度からの提案なんだけど。

「なんでっ!?」

二回同じリアクション出たわ。

いや、今回はこの提案を断れる。

ふふふ。今朝俺は大会以外の誘いは受けない、と契約したからな!※彼女は納得をしていない事は置いておく。

「いや、待て!俺は大会以外の誘いは断るって、言ったよな?」

「大会の一環です!」

「どこが!?」

暴論過ぎる。

「話を聞いてもらえれば分かると思います!」

……まあ、ちょっと面白そうだし興味本位で聞いてみる事に決めた。

「まずですが、何故生徒会戦挙というものがあるかをご存じですか?」

「え?そりゃあ、名誉とか、称号とか、将来の進学、就職、金の為じゃないの?」

「全ッ然違いますね!!」

そんな”全然”を強調しなくていいじゃん。

「じゃあ何よ」

「来斗様を崇め奉り世に知らしめるためです!!」

「全ッ然違うよ!?」

「いえ!これが正解なのです!」

この子はどうやって育ってきたの?

「ずっと思ってたけど新手の嫌がらせなの?手の凝り方を間違えた大型の嫌がらせなの?」

「讃頌です!」

「は?」

「皆さんに来斗様の事を知って頂かないと困るんですよ。思考と行動、優しさ、人の心への配慮、思いやりを持った来斗様を崇拝し、寛大な心の広さを皆さんの心に沁み込ませるのです!」

俺に入信でもした?信者過ぎて怖いんだけど。特にガチな目。

「…………それで、それとこれと何の関係があんの?」

「生徒会の仕事って知ってます?」

「奉仕活動とか?」

「そうです!生徒が困っていたら手を差し伸べる!学校の模範的、代表的な生徒としての気品を持つことです!」

「だからそれとこれとなんの関係があんのよ」

「予行演習です!」

「……は?」

「予行演習!」

「聞こえてる。その「は?」じゃないの。全体的に「は?」なの」

「簡単に言うと生徒会と張り合……同じような部活を作りたいという訳です」

張り合うって言った?ねえ?対抗する気?完全にこっちが邪悪だよ?

「それが予行演習?」

「はい!」

「……つまり生徒会に入る前提で部活を作って、人を助けたり、学園の代表的を目指すって事?」

「そういう事です!」

「どういう事!?」

待って、誰、この子育てた学校の人。

「布教は生徒会に入る前から始まってるんです!そして生徒会に入った時、部活動で培った気品と人助けが更に崇め奉る養分となる訳です」

うん怖い。崇め奉るって言い方が特に怖い。

ほんっとに怖い。どうしよう、この狂信者。しかし、だ!先程、俺が言ったことを覚えているか。

「ごめん!!流石にこれが生徒会の一環は無理がある!別もんだよ?完全に。てことでごめん!」

「駄目……ですか……」

また、か。

目が潤む彼女。う、上目遣いだと!?

「い……駄目だ!」

あぶねえ!流されるところだったぜ。

「ッチ」

「舌打ちした?」

「いいえ?」

これ以上俺の平穏な日常の均衡を崩される訳にはいかないんだ。今はさっきのエキストラの方々もいないし、ここは断固として!!

「いやほんとにさ。目立つのはあんま好きじゃないのよ。これ以上の介入はごめんけど……駄目だ……」

優しく断れただろうか。

「では……」

「ん?」

潤む彼女は上目遣いのままで衝撃の一言を放った。

「私とデートしてください!」

なんでそうなった?そんな言葉が出てこなかった。思考が放棄したのだ。

駄目だ。可愛さしか目に入らない。そこにいる美少女に誘われた事で頭の中が浮かれている。

ああ、快感……///

「良いよ」

気付けば即決してた。

だから駄目なんだろうな、俺は。今までこの子がしたことを忘れたのか。俺を嵌める為に彼女はトラップを使い、女の涙を使い、エキストラ(友達)を使っただろうが。

それだと言うのになんで、なんで……彼女の上目遣いとデートと言う言葉に心を惹かれてしまったのだろう。

―――――――――――――――――――――――――――――。

放課後。結局、ちゃんと後悔して反省した。

「なんで??」

「知りません?最近はやりの空き教室デート」

「知りませんが!?ほんとにはやってんの!?おかしいよ!?ただの居残りなんだもん!」

また図られた。内側から開かない様にカギがかけられ(なんで?)外には出れない。

「ぶし……」

「今部室って言おうとしたよね!?」

「いいえ?」

もう既に作られていた!?というか、俺はここに監禁される。ああ、由利子……お兄ちゃんもうお前に会えないかもしれない。悲しみに打ち震えるわ。

「では歩きましょうか」

「この教室を!?」

「デートですからね」

「何も楽しくないよ!?このデート!」

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