第7話

 (※デイヴィス殿下視点)


「いったい、どうなっている!? まだ、あの悪女を捕えることはできないのか!?」


 私は兵たちに怒鳴り散らした。

 先ほどから報告に来る兵たちは、「まだ見つかっておりません」とか「現在、捜索中です」と言うだけで、いい結果が出たという知らせは一つもなかった。

 そのことに、段々と苛立ちが募っていた。


 簡単なことのはずなのに、どうしてあの悪女を捕えることができないんだ!?


      *


「起きて、シャロン。おーい、シャロン」


「あら……」


 いつの間にか、眠っていたみたいだ。

 私は誰かの呼び声で、目を覚ました。

 顔を上げると、私を呼んでいたのは、先代の聖女であるアーサー・オルブライトだった。

 

 ちなみに、彼は男性である。

 正真正銘の男性だ。

 あまり大きな声では言えないが、あれはきちんとその身についている。

 それは以前に確認済みである。

 え、あれってもちろん、困っている人を見かけたら助ける優しい心ですけれど……。


 さて、どうして男生なのに聖女になったのかというと、理由がある。

 まず、聖女というのは、代々魔力を持って生まれた女性が務めていた。

 しかし、どういうわけか、アーサーの代では彼一人しか、魔力を有していなかった。

 そんなわけで、聖女という肩書はそのままで、アーサーが国を守る役割を務めることになったのだった。


「アーサー、私をあの部屋から運んだのは、あなただったのね」


 兵たちに連行されていたのではないことを知って、私はほっとしていた。

 それに、久しぶりにアーサーに会えて嬉しかった。


「ああ、そうだよ。王宮周辺が騒がしいと思ったら、君が兵たちに追われているみたいだったからね。君はどこかに隠れたまま、行く当てもなく困っていると思ったから、様子を見に行ったんだ。そうしたら、鍋の中から人の気配を感じたから、こんなところに隠れるのはシャロンしかいないと思って、そのままここまで運んできたというわけさ」


「ええ、その通り。兵たちが私を捜し回っていて、逃げることもできなかったの。本当にありがとう! 助かったわ!」


 私は鍋から出て、彼にハグしようとした。

 しかし、ひらりとかわされてしまった。


「まずは、お風呂に入ってきたらいいと思うよ。いろいろあって、疲れているだろう? お風呂に入って、ゆったりと癒されるのがいいと思うよ」


「わかったわ。それじゃあ、お言葉に甘えて」


 私はお風呂に入ることにした。

 どうやら、鍋に入っていたせいで、私はスパイシーな香りを漂わせているらしい。

 まあ、直接言わないようになっただけ、彼も少しは思いやりの心を身に着けたのかしら。


 私はお風呂に入り、疲れを癒した。

 とりあえず、王宮から逃げることができたのは、いい結果と言える。

 すべて、アーサーが助けてくれたおかげだ。


 そしてこのあと、そんな彼から、意外な提案をされるのだった……。

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