第4話 龍の爪

「生きててよかった」


 スタバに着くなり、朧月夜に抱きしめられた。客が少なくてよかった。目立たないが鉄則の殺し屋が、こんなことしていいのか?


 朧月夜に、そんな心があったとは思わなかった。俺は、どう反応していいか分からず、黙って席に座った。


「まあ座れ。今日は俺のおごりだ」


 爺はそう言った。俺は嫌な予感がしてきた。爺さんは笑っている。店員さんが席に近づいて来た。


「エスプレッソ二つ。お持ちしました」


 やっぱり。俺も苦いのは苦手だ。なんか、季節限定の美味しそうな飲み物があったが、こいつがそんなものを頼んでくれるわけがない。


 文句を言おうにも、自分が同じことをやった以上、そんなことは言えない。


「どうした?前回ワシに進めてくれたおいしいコーヒーを頼んだんだが・・・。気に合わなかったかな?」


 爺は笑顔だ。


 俺は、このくそじじいという言葉とともに、苦いコーヒーを飲み込んだ。


「で、話は変わるが」


 朧月夜の空気が変わった。仕事の話だ。


「今回、いくつかの暗殺組織共同で、対策本部を立てた。俺もそこに参加している。無論、龍の爪対策だだ」


 朧月夜はそう言うとコーヒーを飲んだ。


「それで?」


 俺は話を催促した。


「しばらく前から殺し屋が不可解な死に方をすることが増えてたため、いくつかの組織が、何かあることは気づいていたが、情報を集めようとした殺し屋は、軒並み殺された」


「なるほど」


「ここまでの情報を集めたのは、お前が初めてだ。対策本部から、活動支援金百万円を振り込んどいた」


「そりゃどうも」


 スーパードライだな。と、朧月夜はつぶやいた。それは俺のことか。


「この情報が手に入ってから、対策本部に導入する殺し屋が、より強いものに変わった」


「良かったな」


「そこで幹部の一人である『人力』が、お前を入れることに決定した」


「あっそ」


「ということで、やってくれるな?」


「無論やるさ。乗りかかった舟だ。それも、爺さんが参加しているなんて、大和戦艦やタイタニック号並の大船じゃないか」


 俺がそう返事をすると、朧月夜は頭を下げた。こいつが頭を下げるとは。腰が曲がったのかな。だが、大和戦艦やタイタニック号不沈艦の肩書で沈んだ船たちのくだりは無視された。


 ちなみに「人力」とは、弱い殺し屋だ。本人は。


『人力と千人の(彼の標的になった殺し屋にとって)不愉快な仲間たち』になると、この世にいるどんな殺し屋よりも強い。


 司令官『人力』と、三流、四流の殺し屋の集合体にかかれば、殺せない殺し屋なんてない。


 つまり、団体様で襲ってくる厄介な殺し屋だ。


「早速だがやってほしい仕事がある。『廟』が発見した、『鷹の爪』の施設を廟とともに攻撃しろ」


 朧月夜はそう言った。厄介な仕事だ。あんな化け物大勢と戦うなんて、いくら廟がいても無理がある。


「分かった」


 だが、殺し屋に拒否権はない。俺は了承した。


「じゃあ、昔の思い出を語るのは、この作戦が終わってからだ」


 俺はそう言った。


活動拠点ロッジに行くぞ。ついてこい」


 朧月夜はそう言うと、立ち上がった。俺はコーヒーを飲み干して、立ち上がった。スタバの駐車場には、数台の車が止まっていた。


 その内の二台に乗っているのは、手慣れだな。おそらく、朧月夜の部下か。朧月夜は、無人の軽自動車に近づくと、鍵を開けた。


「乗れ」


 俺が乗ると、朧月夜はエンジンをかけた。


 ロッジとは、朧月夜がフリーの殺し屋を管理するために作った管理施設である。


 表向きは人材派遣会社の本社である。実質の社名は『殺し屋仲介業者・マーダラーパワー』である。超ダサい。朧月夜が付けた名前だ。


 事務作業を行う社員のほかに、一流に分類される殺し屋が、何人か常に待機していて、その中には廟も含まれている。時間があったら、少し挨拶しよう。


 七階建てのビルで、中は、普通に忙しい会社みたいな感じだ。社員は五十名ほど。殺し屋含めると、二百人を超える。


 上の階に向かうためのエレベーターは二つあり、一つはパスワードが必要だ。


 普通のエレベーターは、表向きの顔として使われており、裏のエレベーターは、事務室の奥にあって、普通の人は使えない。


 朧月夜がパスワードを打つ。エレベーターのドアが開いた。ボタンは、六、七階しかない。俺と朧月夜はそれに乗り込んだ。朧月夜は、一切迷わずに七階を押した。


 エレベーターの頑丈な扉がゆっくりと閉まり、エレベーターは上昇を開始した。


 七階に着くと、ポーンという音が鳴って、エレベーターの頑丈なドアが開いた。


「遅かったな」


 いきなり、そう言われた。


 円形の巨大なテーブル。その周りに、椅子とパソコンが置いてある、雰囲気は、会議室のような感じだった。


 奥の壁には『龍の爪対策本部』と書かれた旗が取り付けてある。


 机の中央には、説明用らしい液晶パネルが四角く設置されていた。


 大半の席にはすでに人が座っていたが、二つだけ、空席があった。俺と朧月夜は、そこに座った。


「それでは始めよう」


 議長らしき人物がそう言って、会議が始まった。


 まず、中央のパネルと自分のパソコンにとある画像が映った。次々と流れていくのは殺し屋の死体の写真と、その状況に関する事後報告書だ。


「これらはすべて、龍の爪が関係していると思しき、殺し屋の死亡事件です」


 廟の声が聞こえた。机の端の方に廟が座っていた。存在感が薄い。どこにでもいそうな若いサラリーマンだ。


 だが周囲には緊張感が漂っている。分かる人間が見たら、たとえ何をやっていても、逃げ出すだろう。


 そのぐらい、奴は強い。俺だって、こいつを相手にして生き残るのは無理だ。せいぜい相打ちがいいところだろう。


 味方でよかった。


 流れてくる死体は、全て二流以上の殺し屋たちだ。


 どれだけの損害が出ているんだか。ただ、『ミミズク』の強さと、あれだけ強い殺し屋を、待ち伏せ任務に就かせるほどの人材が、向こうにあることを考えれば、この程度で済んでいると言えなくもない。


「私が発見した龍の爪の支部。それはアメリカ、ニューヨークの雑居ビルにある」


 と、廟が言った。写真が表示される。ニューヨークの大通りに堂々とある雑居ビル。


 この一室に龍の爪の本部があるのか。あまり激しくは戦えないな。下手に動くと警察に捕まる。


「じゃあ、行ってきます」


 廟は、突然、席を絶つと、エレベーターに乗り込んだ。会議の途中に、どこに行くつもりか?トイレか?


「黎明、早く来い」


 と、言った。は?


「はやく行け」


 朧月夜も背中を押してきた。俺は、ようやく理解した。今から、任務に出ろという事か。なるほどなるほど。理解した。納得はしていないが。


「なんか事前打ち合わせとか・・」


 俺が恐る恐る聞くと、朧月夜は、いたって真剣な顔で、


「分かってる情報はこれしかない。なら、他にやることあるか?しかも、あり得ない速さで動けば、情報がばれたり、気づかれたりする前に施設を叩けるだろう」


 と、返答を返した。


 なるほど。理にかなっている。会議に参加した殺し屋たちも、全員真顔だ。殺し屋は軍隊ではない。


 出撃のために、国のリーダーの署名付き書類は必要ないし、銃を撃つたびに始末書を書く必要もない。暗黙の了解と契約は合っても、無意味な形式など、存在しない。


「わかった。いや。分かりました」


 俺はそう言って、エレベーターに乗り込んだ。廟と同じ空間を共有したくないのは、単純に、襲われたら勝ち目がないからだ。


「久しぶりだな。随分と強くなったみたいだ」


 廟が言った。確かに久しぶりだ。確かに強くなった。こいつほどじゃねえ。


「お前もまた、いつの間にそんなピリピリするようになったんだ?」


 これも事実だ。一見変わっていないが、前よりも緊張感がある。


「龍の爪さ。一回苦戦したんだ」


「お前苦戦することなんてあったのか?」


「てめえに言われたくねえ」


 こいつはやや口が悪い。そしてやや小物臭い。だが、実際はこいつ俺よりよほど強い。俺は十回に一回程度苦戦するが、こいつは二十回に一回程度しか苦戦しない。


 そして俺は本気で戦ったことがあるが、こいつはいまだかつて本気で戦ったことはない。無論、訓練をのぞいて。


「だってお前と俺で訓練したとき、お前が十勝、俺が一勝、引き分けが五回だっただろ」


 俺はそう言ってみた。前に、富士山の樹海で訓練したとき、この結果が出た。こいつの特技はチャクラムという、外側に刃の付いた円形の武器だ。


 普段は金属製の地味な腕輪の中に隠れている。回転させてフリスビーのように投げる武器だが、彼はいつも服の中に、十以上の腕輪を付けている。


 いくら地味な腕輪でも、そんなにつけていたら目立つからな。


 訓練では、ある程度武術に精通しているなら、殺傷力を低くしたもの、そうでないなら、偽物を使う。


 まあ、たまに調子に乗って上級者用の訓練用品を使って、間抜けにも訓練で死ぬ殺し屋もいるが。


「何言ってんだ?最初に一勝したのはお前だろ。実際だったら、その時点で俺の負けだ」


「だが、お前の方が強い」


「そりゃそうだが、お前だって十分に強いだろ」


「まあそうだな」


 それで俺らの会話は終わった。


 エレベーターを降りると彼の持っている、ゆったりとした革座席の高級車に乗って、空港に向かった。ここは日本だ。


 ニューヨークが、日本よりも、治安が悪いと良いのだが。


 治安は、悪ければ悪いほど仕事がしやすい。


 俺は観光客に行く人と真逆のことを祈っていた。


 飛行機はビジネスクラスだった。ゆったりとした革の座席。素晴らしい。


 俺は窓側に座った。廟は文句を言いたそうだったが、黙って俺の隣に座った。俺も廟も、窓際が好きだ。


 俺はビジネスクラスで、なんか高級そうな、おいしい昼食を食べながら、映画鑑賞をした。殺し屋の給料は高い。割に合っているのかは分からなかったが。


 食後には廟とボードゲームにいそしんだ。やはり飛行機は二人で乗った方が楽しい。


 将棋は俺の方が強い。オセロは廟の方が強い。結局、俺は折れてオセロをやることになった。オセロは嫌いではない。


 俺が二勝、廟は五勝だった。だが、俺が先に二勝したため。本当だったら・・とつぶやいた。少しは仕事から離れろ。と言おうとしたが、やめた。


 朝にはニューヨークについていた。


 空港から出ると近くのホテルにチェックインした。ホテルの部屋は別に普通だった。二人用の。俺たちは荷物を置くと、武器を持ってすぐに問題の雑居ビルに向かった。


 雑居ビルの一階は、地味な不動産が入っていた。お目当てのものがあるのは三階だ。


 三階には『関係者以外立ち入り禁止』とかそういうことが書いてある紙が貼ってある扉があった。


 一見すると鍵のかかっただけのぼろいアルミの扉だが、俺は分かった。廟も気づいたようだった。


「これ裏に金属板の補強があるね。ダイナマイトでもないと突破は無理でしょ」


 廟は更につづけた。


「さらに、これ静脈認証だね」


 廟はインターホンを横にずらした中は、四角く穴があけられていて、その中に静脈認証用の装置があった。どうも、インターホンも使えるようだ。コードが家の中に向けて伸びている。


 俺は、無言で静脈認証の装置のカバーを外すと、強引にスマホと接続して、プログラムを書き換えた。


「行くぞ」


 廟がチャクラムを取り出して指で回転させ始めた。俺もつまようじを構えた。


 俺が開いてる手でスマホのボタンを押した。


 ウイーンと音を立てて、ドアのロックが外れた。電子化も考え物だな。物理的な鍵では、こうはいかない。


 中から

「誰だ?」

「連絡係じゃないか?」

 などの声が聞こえる。


 俺はドアを蹴って開けると、つまようじを投げ込んだ。


 廟は回転したチャクラムを、投げた。フリスビーみたいにチャクラムが飛んでいく。


 それは、空中で弧を描きながら、次々と敵を切り刻んでいった。そして、まるでブーメランのように、廟の指に戻った。


 何人かの敵は、自前の武器で打撃を防いでいたようだが、それ以外は死体、もしくは、まもなく死体になっていた。


 俺のつまようじは五人を倒したのみ。


 二十人ほどいた敵も、一瞬で八人に減った。敵の方も、弱いやつはいるらしい。


 生き残ったやつらが、中でも少し異質な三人を除いて、一斉に襲ってきた。モーニングスターや鉄扇を振りかざしている。


 俺らは、彼らを一瞬で倒すと、残った三人に攻撃した。相手はかなりの手慣れ。少し緊張してやった方がいいだろう。


 だが、敵の技術は俺が想定した以上だった。チャクラムは弾かれ、つまようじは真っ二つにされた。


 彼らの手に握られていたのは、ウルミ。柔らかく、柔軟性のある鉄で作られた鞭のような長剣。


 隠しやすく、持ち運びやすいが、威力は十分。ただ、扱いが、その他の剣の中でも随一で難しい。下手すると自分を切る危険な武器だ。


 彼らは、見事な連携性でウルミを振りながら、俺らの方に向かってきた。隙がない。俺は試しにつまようじの乱れ撃ちをやってみた。

 大半が弾かれ砕かれたが、一本だけ、一人の腕に刺さった。だが全く動じない。


 流石、ウルミをここまで使いこなせるだけある。マニアックな武器だから、対抗方法を知る人は、この手の仕事やってる人にも少ない。


 廟がチャクラムを投げた。すさまじい回転をして、彼らの後ろに回り込む。これはいける。そう確信した。彼らは後ろに近づくチャクラムに気づいていない。しかし、体に当たる寸前で弾かれた。


 ウルミは、全身を覆うように動くのだ。自分を着る危険がある反面、マスターすれば、非常に使える武器だ。


 どんどん敵は近づいてくる。俺らはバックするしかない。銃大国アメリカなんだから、銃を持ってくればよかった。


 銃を持っていると怪しまれると思って持ってこなかったのが、間違いだった。こうなったら軍隊にでも表れてもらわないと・・。ん?軍隊?


「それだ!」


 俺の突然の声に廟はおろか三人のウルミ使いまで、一瞬戦闘をやめて、こっちを見た。俺は、素早く部屋の外に飛び出すと、ある人に電話した。


「おい人力。マジでヤバい。今すぐこい!」

「イエッサー」


 そう返事が来た。人力は、世界中に部下を配備してる。俺らの任務を監視しているチームがあっても、おかしくはない。


 あとは時間稼ぎをするのみ。そう思った瞬間、窓が割れた。そこから、人影が飛び込んでくる。ここは三階だぞ?


「来たぞ」


 次々と飛び込んできた人は全員アメリカ製短機関銃を構えていた。ウルミ使いたちは、すぐにそっちの方向にウルミを振った。


 反応が遅れた五人ほどが、一瞬で三人の愉快なウルミ使いさんたちに肉だまりにされたが、残りの五人は、後ろにジャンプして斬撃をかわすと、慣れた動作で短機関銃を発射した。


 だが、ウルミ使いはそれらを伏せてよけると、一気に肉薄して、飛び込んできた兵士を全員ズタズタにした。


 俺も廟も、そのすきを逃さなかった。俺は手持ちのつまようじの半分を、乱れ撃ちした。


 廟は、素早くチャクラムを投げた。彼らは、僕らに向けてウルミを振り上げた。一瞬にも満たない速度で、俺らの方が早かった。


 だが、振り上げられたウルミは、俺らの左腕に打撃を与えた。


「がっ」


「くっ」


 俺らは呻いてバランスを崩したが、そのままバラバラにされる前に、俺らの攻撃が通った。敵は、ウルミに自分の体を切り裂かれながら崩れ落ちた。


 勝った。俺らは、コートで傷跡を隠し、軽く止血すると急いで現場を離れた。殉職した人力の部下は気の毒だが、任務には成功したから、まあいいか。


 ホテルに着くと、慌てて風呂場で傷跡を確認した。ちょっとやばそうだ。二の腕に、深さ一センチくらいの切り傷がある。切り傷を痛みをこらえて水洗いした。


 さっき止血に使った布切れを取り外すと、きれいなガーゼで止血して、出血を押さえるため、心臓より高く上げた。そして消毒した包帯を巻いた。


 俺より早く止血を終えた廟が、ロッジに連絡した。


「成功か?」

 朧月夜の声だ。少し心配の色がある気がするが、気のせいだろう。


「ああ成功。俺らは無事だ。人力の部下が全滅した。あと、怪我した」


「問題あるか?」


「いや。ない」

 廟は、少し考えてからそう言った。負傷したからと言って、前線から引かせてもらうことはできない。


「わかった」

 朧月夜は、穏やかな声でそう言った。


 そういう短い会話をした後、電話を切った。数時間後、俺らがソファーでおにぎりを食ってるときに、ニュース速報で十名以上死亡というニュースが流れていた。


 自分の事件のニュースを見たのは久しぶりかもしれない。突然調査していた警察の一人が飛び出してきた。


「大変だー」


「おや?何かあったらしいですね?」


 アナウンサーが表情を変えずに行った。


 無線機にかじりついた鶏冠が何か言っている。


 俺は手持ちの無線機をオンにした。


『ザー・大量の・人骨がザー・ザッ犯罪記録ザッ発見しました!』


「なるほど。『大量の人骨と犯罪記録』を発見したそうだぞ」


 俺は言った。


「残念だな。慌ててて気づかなかった。まあ、龍の爪対策本部はそこら中にパイプがあるから問題ないと思うが」


 廟は、にやりと笑った。これで、俺らだけでなく、民間にまで龍の爪の情報が流れた。


 ニュースからは、警察がどんどんやってくる状況が流れており、無線からは、パニックになった警官の早口英語がひっきりなしに聞こえてきた。


 俺は本を開いた。『ファウスト』第二部に入ったところだ。廟はチャイコフスキーピアノ協奏曲第一番第一楽章を、ポケットプレイヤーで聞き始めた。


 ニュースはまだ流れている。無線は今だ混乱している。


「We need more policemen.」


「What's going on where?」


「We've closed the street to traffic.」


「Give me accurate information.」


 と言った感じで流れてきている。


「そろそろ出国しよう」


 一時間後ぐらいに、俺はそう提案した。


「いいね」


 俺らは、その日のうちに出国した。付近の防犯カメラに俺らは映っていなかったらしく、難なく国外逃亡に成功した。


 日本に帰って、すぐさまロッジの龍の爪対策本部行くと、


「龍の爪各地方支部撃破作戦。成功。おめでとう」

 と、朧月夜が言った。


「と、いうと?」


 と俺が言うと、別の誰かが


「本部以外の瀬べ手の支部の撃破に成功したんだよ」


 と、補足した。


「つまり、あと本部だけと言うことですか?」


 と、俺が聞いた。


「ああ。本部には、俺の部下十名を送ったが、全員消息を絶った」


 人力が言った。それはえらいこっちゃ。


「そいつは大変だな」


 廟が言った。


「すでに『杠』『皇』『開闢』『久遠』『玉響』『光芒』『ジャスティス』『クロス』が、コーゲキのためにトーキョーに向かったが、皆、消息を絶った」


 アメリカ人っぽい人が、そう言った。絶対日本人じゃないだろう。裏社会こっちも、グローバル化が進んでいるようだ。


「というわけで東京にある『龍の爪』本部の攻撃に行ってこい。情報はメールで送った」


 と、朧月夜が言った。


「あの・・」


 俺が言った


「何だ?」


「腕怪我してんですけど」


 廟が言った。


「休暇貰ってもいいでしょう」


 俺も、そう続けた。


「いいか『廟』『黎明』今行かないと、先手の利を失うことになる。しかも、怪我しているとはいえ、左腕使えるだろ」


「まあ」


「じゃあ行け。負傷しても任務を遂行するために、お前らには、腕が二本ついているんだ」


 俺と廟の必死の言論攻撃は、朧月夜の暴論よってあっけなく論破された。朧月夜の暴論は昔からだ。その発言権には、しっかり実力が伴っている。


 俺は、うなだれるように頷いた。


 ◇◇◇


 会議を終えた帰り、エレベーターの中で廟が


「好奇心は猫を殺すが、正義感は人を殺すな」


 と、呟いた。まあ、俺らは、龍の爪と違い、正義感の下、人を殺しているわけではないが。


 廟は、目を閉じた。エレベーターは、ポーンと少し不気味な音を立てて、一階に到着した。ドアが、ゆっくりと開いた。

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