第4話 広がる距離

あっという間に大学生活が始まる。


授業は舞と一緒に受けて、空き時間に課題をやったりしていると、あっという間に午前中が終わる。


昼休みは部活なので急いで体育館に向かう。


昼休み時間ぎりぎりまでバスケをして、午後の授業を受けて空き時間に舞と時間が合えば岳も一緒にお昼ご飯を食べる。


選択授業は週3回しかないから、優斗と顔を合わせるのはこの時ぐらい。


今までこんなに会う時間が少ないことがなかったので、妙に気になってしまう。構内で会っても、優斗は学部で仲良くなった友達と一緒にいるので、中々声をかけられない。


その友達の中に可愛い女の子もいる。


私とは正反対で小柄で可愛らしい子だ。


選択授業で一緒になった時に思わず聞いてしまっていた。


「優斗、なんだか久々な感じだね。」


「そうだな、先週休講になったから久々だな。」


「学部で仲良くなった人いるみたいだね。」


「そうだな、奴ら面白いんだわ。今度、快も一緒に飯食おうぜ。」


「楽しみにしてるね。女の子もいるよね?」


「そうそう、偶然にもバイトが一緒でさ。驚いたんだけど、そいつも中々面白い奴でさ。」


「バイト決まったの?」


聞いていなかったのでびっくりした。


「あれ?言ってなかったっけ?言ったと思ってたけど、忙しくて言い忘れてたのか。入学式の日、カフェに行っただろ。そのまま面接受けて合格して、今そこのカフェで働いてるんだわ。今度来てよ。」


「そっか。今度遊びに行くね。」


教授が入ってきたので、これ以上話すことはできなかった。


優斗のことなら何でも知っていると思っていたし、教えてくれなかったことにショックを受けている自分がいる。


バイトも学部も同じ女の子も気になる。


私とは正反対で小柄で可愛くて、優斗はあぁいう子がタイプなのかな。


今日の講義は全く耳に入ってこなかった。


講義が全て終わったから、課題をやるために舞と食堂に向かう。


「舞、今日中に課題終わらせようね。」


「そうだね、終わったらパンケーキ食べに行こうよ。」


「よし、それを糧に頑張ろう。」


黙々と課題をやっていると、頭上から声をかけられた。


「快と舞ちゃんじゃん。課題頑張ってるね。」


「「颯太先輩」」


まさかの颯太先輩の登場に心拍数が一気に上昇する。


「快は部活に慣れた?」


「はい、先輩方みんなレベルが高くて勉強になります。めっちゃくちゃ充実してます。」


「そうか、良かった。舞ちゃんはマネージャー大変じゃない?」


「高校の時に比べたら天国です。今みたいな働きで役に立ってるのか逆に心配なぐらいです。」


「舞ちゃんがきてくれたおかげで、練習に集中できるようになったから、めちゃくちゃ助かってるよ。」


舞は嬉しそうな顔をしているので、私も嬉しかった。


「ところで、この課題やるなら、図書室にある持ち出し禁止棚にある、この題名の本を参考にすると早く終わるよ。」


そういってスマホの写真を見せてくれる。


慌てて二人でその本の題名をメモする。


「先輩、ありがとうございます。持つべきものはできる先輩ですね。」


と舞が先輩に向かって言うと


「俺はできる先輩だから、困ったことがあったら言ってくれ。」


と冗談交じりに言う先輩が、また格好良かった。


「快と舞ちゃん、連絡先交換してなかったね。今交換してもいい?」


まさかの提案に「はい、喜んで。」と威勢の良い返答をしてしまった。


「居酒屋じゃないんだから。快は相変わらず面白いね。」


と言いながら、LINEを交換する。


「今の威勢の良い声を聞いて思い出したんだけど、快と舞ちゃんは今バイトしてるの?」


「私は家の近くのイタリアンでバイトしてます。」と舞が答える。


「そっか、快は?」


「私はまだやってなくてどっかで働こうかとバイト探ししてるんですけど、中々いいところが見つからなくて。」


「俺のやってる居酒屋でバイトしない?3月で社会人になった先輩達がごそっと抜けて人で不足なんだよ。時給は悪くないし、みんないい人ばっかりだよ。一回、ご飯食べにきて様子見に来たらいいよ。サービスするし。」


これまた思ってもいない提案に、内心ここで小躍りしたいほど嬉しかった。


「是非、働きたいです。」


「そう急がず、もし希望に合っていない労働環境だといけないから、一度舞ちゃんと遊びにきて。」


「舞、パンケーキ辞めて先輩の居酒屋行かない?」


「いいよ。先輩、今日の夜行きます。」


「おぉ、行動が早いね。ありがとう。待ってるね。」


と言って颯太先輩は行ってしまった。


「快、良かったね。連絡先も交換できたし、バイトも誘ってもらって。」


「ほんと夢みたいだわ。」


「今日先輩のお店行かないといけないから、この課題早く終わらせよう。さっき教えてもらった本を図書館に探しに行こう。岳には私から本の題名連絡しておくね。」


二人で広げていた荷物を片付けて図書館に向かい、急いで課題を終わらせた。


「やっと終わったね。先輩のおかげで思ったより早く終わってよかった。」「先輩のお店に行こうか。」


教えてもらったのはチェーン店の居酒屋で大学からすぐ近くだった。


「快、さっき岳くんに本の題名と連絡したときに先輩のお店行くって言ったら一緒に行くって言ってたんだけどいいかな?」


「全然良いよ。」


「じゃぁ電話するね。」


と言って岳に連絡をして、途中合流して3人でお店にむかった。


お店に着くと、これまたイケメンの店員さんが席に案内してくれた。


岳が「颯太先輩いますか?」


「おぉ、颯太の知り合いか。ちょっと待ってて。呼んでくるから。」


と言ってイケメン店員は奥に行ってしまった。


3人でメニューを見ながら、あぁじゃないこうじゃないと言っていると


「お三方、いらっしゃいませ。」


と颯太先輩がお通しを持って現れた。


「ゆっくりしていってね。快は働けそうか見て行ってね。注文は決まった?」


さっき三人で決めた料理を注文すると颯太先輩は忙しそうに行ってしまう。


「なんか忙しそうな店だな。快大丈夫か?」


と岳が心配そうに聞いてくる。確かに店を見回すとみんな忙しそうに働いている。


だけど暇より忙しいのが好きな私には合っているんじゃないかと思う。


なにより颯太先輩がいるから、ここで働くことは店に来る前から決めていた。


「俺のドーナツ屋で働くか?時給はあんまりよくないけど、余ったドーナツは貰えるぞ。」


「遠慮しておくわ。私ここでバイトすることに決めた。」


「快ならどこで働いても大丈夫だと思うよ。何より颯太先輩がいるしね。」


舞がそう言い終わると、颯太先輩が料理を持ってやってきた。


「先輩、私ここでバイトしたいです。」


「そうか、ありがとう。助かるよ。店長連れて来るから、そのまま面接でも良い?面接って言っても顔合わせな感じだから緊張しないで。本当に人が足りないから、快が来てくれると助かる。」


そう言うと奥に引っ込んだかと思うと、年配の男性を連れてきた。


「こちらが店長で、この子が高校と大学の後輩でここでバイトしてくれるって言ってくれてる横川快。人柄は間違いないし、俺が保証する。とにかく人手不足を解消する救世主には間違いから、店長採用して。」


と軽い口調で店長に話しかける颯太先輩。


「はい、合格。いつから来れる?」と店長。


なんか聞かれるかと身構えていたのに拍子抜けする。


「ありがとうございます。明日から来れます。」


「それじゃぁ、明日から来て。あとは颯太に任すから。これからよろしく。」


と言って店長は行ってしまった。


「快、ありがとな。明日の18時に店に来れる?今日は忙しすぎて相手できずごめん。これからよろしくな。それじゃぁ、ゆっくりしていって。」


と言って颯太先輩も忙しそうに呼ばれているテーブルに行ってしまった。


とにかく良かったな。明日から頑張れよ。」


と岳と舞からエールを貰い、その後は注文した料理を楽しんだ。


先輩の厚意で30%オフにしてもらえたのはありがたかった。


明日からのバイトを楽しみにしながら家へ帰って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る