第20話 抱きしめる
小さい。柔らかい。温かい。良い香りがする。
一瞬の内に色々なことを頭に過らせたアークスは力強くクローナを抱きしめる。
「ん、んふふ……アークス……」
クローナもゆっくりと両手をアークスの背に回して抱きしめ返す。
自分と同じぐらいの身長だと思っていたアークスが、やはり男の子で逞しくて大きく、そして自分の体も緊張と一緒に熱く高鳴っていくことをクローナは感じていた。
「あ……あ……あの……く、クローナ……」
「はい~?」
「……だ、だきしめちゃって……そ、その、ごめん!」
「離れてはダメです」
「はい、離れません! ……ッ!? クローナ」
「んふふふ~」
自分のしていることに気づいて、アークスが離れようとするが、クローナは離さない。離れさせない。
命令されたために離れることのできないアークスの表情が真っ赤に染まり、クローナ同様熱くなってしまう。
「そ、その、クローナ……どうして……」
どうしてあんな命令を? こんな命令を?
クローナを抱きしめながらアークスが問うと……
「私もあなたを抱きしめたいと思いました。そして、あなたに抱きしめられたいと思いました」
「……クローナ……」
「不思議です。私、ハグはお父様やお母様やお姉さま以外としたことありません。ましてや男の子にこんな風にギュってするなんて……でも、アークスだからイイって思って……どうしてでしょう?」
「い、いや、お、俺にどうしてって言われても……」
「んふふ~、分からないけど嫌ではないのでもっとギュってします」
「く、クローナッ!?」
「アークスはお嫌ですか? 本当のことを言いなさい」
「全然嫌じゃないです! 俺もクローナを抱きしめることできて嬉しいし、幸せで……ッ、う、く、クローナ」
「んふふふふふ~♪」
クローナは力がないもののそれでも精いっぱいの力を込めてアークスを抱きしめる。もっとくっつきたいという意思を示す。
「アークスは、強くてカッコよくて、そしてかわいいです」
「そ、お、あ、お、その……」
「……アークスは……私が好き……ですか?」
「ッ!?」
その言葉を口にした瞬間、クローナはニコニコしながらも顔が真っ赤に染まった。
熱くなっていた体が一瞬で沸騰して火照る。
「あ、そ、その、俺……」
しどろもどろになるアークス。
クローナはその返答に対して自分の心臓が激しく動悸しているのが分かった。
出会ったばかりの男に聞くようなものではない。
しかし、出会ったばかりでも踏み出してしまうほど、クローナもアークスに関心を持ってしまった。
「そんな、急に、わ、分からないけど……でも……クローナはかわいくて、それだけじゃなくて優しくて……子供たちにも、お姫様なのに……俺のことも守ってくれるだけじゃなくて……寄り添ってくれて……」
アークスは「分からない」と口にした。
それは、クローナにとっても同じだった。
年頃でありながら、恋というものそのものをよく分かっていないからだ。
「アークス……では……ん……いえ……」
「クローナ?」
クローナは流れに任せて「好きか嫌いかハッキリ言いなさい」と命令しようとした。
だが、それには留まってしまった。
どういうわけか、命令すればアークスは自分の言う事を何でも聞くし、正直に答える。
だけど、クローナ自身も分からないが、「このこと」は命令で答えを聞くのを躊躇ってしまった。
だが……、命令しなくても体は止まらない。
「アークス……ん」
「あ……ん」
気づけばごく自然に二人の唇は重なっていた。
「あ……え、えへへ、うふふふ……し、しちゃいました。これは二人で内緒ですね♡」
「く、クローナ……あっ、俺!」
「いいんです! 私の初めて、アークスで良いのです!」
それは軽く唇同士が少し触れる程度のキス。
照れて、しかし幸せそうに笑うクローナの表情に、アークスは更に惹かれてしまった。
「はうぅ?!」
「あっ……あっ!?」
そのとき、クローナは自身の下半身から全身がゾワゾワとする刺激に襲われた。
何か固いものが、自分の大切な箇所を突いている。
「あ、アークス……ん」
「ひゃっ、あ、おい! だめだ、クローナ!」
「……あ……」
そのとき、クローナはアークスを抱きしめていた手を緩め、体を少し離して自分のスカートをペロンと捲った。
そこには、アークスと下腹部の「一部」がクローナの下腹部の「一部」を下着越しに突いていた。
そこで、さらにクローナがスカートをめくって自身の下着を見せてしまったものだから、アークスの体は更に……
「ひぅ?!」
「わ、わ、ダメだ! ご、ごめん! クローナ、は、離れて!」
たとえ、記憶がなくても「このこと」がどれだけ大変なことをしてしまったのか、アークスにでも分かる。
不可抗力とはいえ、女の子に対してとんでもないことをしてしまった。
「ご、ごめん……」
抱きしめ合っていた手が緩んだことで、クローナから逃げるように後ずさりして、正座して背を向けるアークス。
完全に嫌われるようなことをしてしまっことと、恥ずかしさでまた背を向けてしまった。
一方でクローナは、何もかもが初めてだった。
「アークス……」
クローナとて、経験がなくても何があったのかぐらいは分かる。そういうことも知識だけはあった。
確かにビックリしてしまった。
男の子はああいうことになるのだと知ってはいたが、それでも実際に見て触れるのとでは大違いだった。
そして、嫌だったか?
そうではなかった。
「こっちを向いてください、アークス。私は気にしていません」
「……ごめん……あ~、俺はぁ……くそ……恥ずかしいしみっともないし……」
さっき、照れて自分に顔を向けられなかったアークスは「抱きしめちゃいたいって思うぐらいかわいくて……」と自分に言ってくれた。そんなアークスをクローナも「かわいくて抱きしめたい」と思った。
でも、今は……
「アークス、こっちを向いてくれないなら……命令しちゃいます」
「ッ!?」
今は「離れたくない」。「もっと抱きしめて欲しい」。アークスともっと……そう思った瞬間、クローナは再び両手を広げ……
「アークス!」
「ま、待って! だ、なにを――――」
もし、この命令をしたらどうなってしまうのか?
分からない。だけれど、気持ちが高まってブレーキが利かなくなっていた。
「アークス。あなたが私のことを嫌いでないのなら……嫌だと思わないのなら……もう一度……もっと私を抱――――――」
「ッッ!!??」
もっとアークスと先へ――――
と、クローナが女としての覚悟を決めた命令をしようとした時だった。
「あ~、それまでにするのじゃ。さすがに救世主殿相手とはいえ、姫である我が妹のズッコンバッコンを部下たちに晒すのはイカンということでの」
「「ッッッ!!??」」
いつの間にか、背後からクローナの口に手を当てて塞ぐトワイライトが現れた。
「ふぇ、あ、お、お姉さま……」
「あ……な、なんで……」
ビクッと動揺した表情で振り返るアークスとクローナ。
するとトワイライトは苦笑したように頬を指でかきながら……
「いや~、すまんのう。皆で一部始終を見守っておったのじゃが、流石にのう……おぬしがいきなりパンツ見せたり、チッスした時はビビったわ」
「え、み、みんなって……」
「みんなじゃ♪」
トワイライトがそう言うと、次の瞬間周囲の茂みの中から続々と気まずそうな表情をしたオルガスを始め、魔王軍の兵士たちが顔を出した。
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