馬鹿!なんで優しくするの?…でも、なんで気付いてくれないの?あなたの優しさが欲しいよ。

第1話 光君がモテルわけ。

「はい!これ。頑張って作ったから、絶対食べてね」

「あ…うん。ありがとう」

「あたし、ちょっとバイトして、すごい高いのにしたから!」

「え…良いの?」

「良いの!ひかり君の為なら、全然嫌じゃなかったよ!バイト!」

「私はチョコばっかだと飽きるかな?って思ってクッキー焼いたの!受け取って!」

「あ…どうも」


はい。これはH高校三年B組。

とある日の放課後。まぁ毎年の見慣れた光景だ。

何の日か、そして何を…答えは恐らく、あなた方にも分かるだろうイベントの日だ。


天童光てんどうひかり十八歳。

光を取り囲んでいる女子が光に渡している…押し付けているのは、チョコレートだ。


そう。今日はバレンタインデー。

光のショータイムだ。


もう小学校から続くこの光景に、村山咲羽むらやまさわはため息ばかりついていた。


(もう…みんななんで光?)


勢い目覚ましい女子たちに、どんどん窓際に追いやられ、おどおどおどおどしている。

こんなもやしの何処が良いのか…咲羽も分からないようで、分かってはいた。


光は、どっからどう見ても恰好良かった。背は百八十二センチ。切れ長の目。鼻筋はとてもいい滑り台で、口は薄めの口角上がり。


これで運動神経抜群!とかなれば、もういう事はないだろうに…。



と咲羽も、憐れんでやったが、体育の時間。女子達の勘違い…見る目の無さが爆発する。


「あのけだるさが良いよねぇ」

(夜中までゲームしてるから、眠たいだけ)

「もうあのやる気なさがキュンだよね~」

(いや、やる気がないんじゃなくて、出来ないだけなんだって)

何事にも光の事を崇拝している女子達は、光のダメダメをすべてプラスにしてしまう。

その会話を聴きながら、いつも心の中で突っ込む咲羽。



しかし……、、、、


「さーちゃん、待ってよ」

と紙袋を三つも抱え、のろのろしながら咲羽を追いかける光。

「あ!」

紙袋からチョコがポロッと地面に落ちた。



そして、落としたチョコをそのままにして、咲羽の後を急いで追いかけた。





そうじゃない。そうじゃないんだ。咲羽は分かっている。


光は、それぞれ、いっぱいいっぱいになった、三つの袋をゆっくり地面に置くと、



「ごめんなさい。相馬そうまさん」



光は誰かに、謝った。


光は、そのチョコの送り主は、二年生の相馬百合子そうまゆりこだという事を覚えているのだ。


そう。光は、たんまりあるチョコの送り主を、記憶している。

一つ一つ、誰から、どんな包み紙で包まれていたのかを、それを全部大切に、…全部の女の子を大切にしていた。



「わ!」


その声に振り返ると、三十メートル先を歩いていた咲羽は、

「はいはい」

そう言うと、光の所に戻った。


三つの袋を地面に置こうとして、バランスを崩し、バサバサと中身が溢れ出していた。

「はいよ」

咲羽は、一つ拾うと、光に手渡した。


「さーちゃん…」

「ほら、早く拾いな」

「うん!」


派手にバラバラになったチョコを、二人で拾い終えると、


「行くよ、光」

放課後、光と咲羽は一緒に帰る。


何故なら、二人は、家が隣同士で、いわゆる幼馴染。

咲羽のサバサバしている性格と、光のなよなよしている気弱さが、どうにもこうにもして咲羽はけなしながらもフォローしたりする。



「『光、あんたはみんなの憧れなんだから、それを捨てるには傷つく人が必ずいるの。今まで自分から殻を破る勇気がないから否定しなかったんだろうけど、もう周りの人たちはあんたのだって事、忘れないようにね』」


…なんて、高三ですでにしっかりした、咲羽の自立心に、只々”すごいなぁ”と、

それこそ光は、咲羽を教祖様のように、慕っていた。

さっきのように、光がドジを踏んでも、呆れるけど、どっか、放っておけない。

面倒くさい幼馴染だ。


可愛い、可愛い、幼馴染だ。

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