第2話 晩御飯

奴が掲げた袋には、丸いカップ麺が2つ入っていた。


「ゆいちゃんはこっちでしょ?」


そう言って渡されたのは、赤いきつねだった。紛うことなき、きつねうどんである。

ちなみに、関西バージョンだった。

こいつ、買ってきたと見せかけて私のコレクション出してきやがった。


「おれはこっち貰うね」


そのまま奴は私の返事も待たず、蓋まで開けてしまう。開いた蓋から、丸い天ぷらが顔を覗かせている。

緑のたぬき、こちらも関西バージョンだ。


「また買いに行かないといけなくなったな」

「同じのがあと3セットはあったと思うんだけど……」

「3セットはコレクションとしての最低ストックだな。食べていい分はこれで終わりだ」


関西バージョンのためだけに、大阪へ買いに行くのはなかなか手間なのだ。何かあった時のために3セットは確保しておかなければならない。

私が蓋を開けてお湯を注ぐ準備をしている間に、奴は中から電気ポットを取ってきた。


「注ぐよー」


私がカップを捧げ持ち、そこに奴がお湯を注ぐ。じわじわじんわりと重みと熱が増していき、手が少し下がっていく。


「はい、おっけー。次、おれの分持ってー」

「はいよ」


2つとも注ぎ終わり、お箸で蓋を押さえて待つ。レジャーシートの下、カップを前に2人並んであぐらをかいて待つ。


「急にどうしたんだ?」

「何が?」

「ベランダでカップ麺を食べようなんて、なかなかしないだろう?経緯とか発端とか、ないのか?」


いつの間にか、私の肩は奴の肩に乗っていた。骨が当たって痛いので、もう少し筋肉をつけて欲しいところだ。


「昔、冬にキャンプしたことあったでしょ?」

あぁ、あったな。

「一緒にテント建てて、お湯沸かして」

そんな事もあった気がするな。

「その時は、ゆいちゃんがどっちが好きか知らなくてさ。赤いきつねも、緑のたぬきも2個ずつ買っててさ」

そんな事あっただろうか。

「こんなに食えるかって怒られたりしたけど楽しかったし、寒い中一緒に食べるお蕎麦も美味しかった」

すまん、あきら。

私それ覚えてないわ。

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