6日目 六も出ない仕事

 俺は穴が開くほど読みかえした報告書をまとめたファイルを、それでも何度も開けたり閉じたりしていた。そうしていないと落ち着かないからだ。仕事がうまくいかないときによくあることだが、今回は群を抜いて状況が悪い。芹沢氏についてはもう十分すぎるほど調べた。大和田と同じ大手製薬会社の重役であるが、豪快な性格でその人脈とカリスマの力技で今の地位についた大和田とは真逆で、大学時代から遺伝子に関する研究で優秀な成績を残し、会社でも確かな成果を積み重ね現在に至った芹沢氏。冷静沈着で理知的な人物だが、交流の場ではノリが良い一面があるなど周りの印象もよい。どんなに叩いても塵ひとつ出やしない善人だ。


「こんなんやってられっか!!」


 俺は持っていたファイルを思いっきり投げ捨てた。部屋に飾ってあるインテリアにぶつかり派手な音が鳴り響いた。いったん頭を冷やそう。俺は自分のポケットから小さなサイコロを二つ取り出し、デスクの上に転がした。これは自己流の心の落ち着かせ方、おまじないだ。サイコロを回し自分の思い描いた数字が出れば良し、出なければ気が済むまでやり直す。今回はサイコロの最大の目の六を目指したが、驚くべきことに十回やっても六の目は一度も出なかった。


「ろくな結果にならないってことかよ……」


 俺は力なく肩を落とした。サイコロが手から零れ落ち、デスクの下に転がっていった。

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