追放公爵令嬢は最後に笑う

紅 蓮也

第1話 私には関係ありません

「私には関係ないことなのでお断りします」


 謁見の間に女の声が響いた。その言葉に周りはザワつく。


 ゴルチェ王国王城の謁見の間。多くの貴族や騎士に囲まれた玉座に座る王に向って、レッジィーナは断りの言葉を口にしたのだった。


「聞き間違いかもしれん、もう一度言ってみろ」


「お断りしますと言ったのですが、ちゃんと聞こえませんでしたか?お年で耳が遠くなられたのでは?」


 王の怒りのこもった低くなった声にも平然と同じ言葉を返し、更に嫌みを言うレッジィーナ。


 王の顔に怒りが浮かぶ。この謁見の間の全ての人間が浮かべている表情でもあった。


「王である我の命が聞けぬと言っただけでなく、更に我を愚弄するか」


「記憶力も低下されているみたいですね。

お忘れのようですが国王様。王であるあなたが、5年前この国からの追放を命じ、私は追放されのですよ。

その年で呆けてしまわれては大変ですよ」


 レッジィーナは嫌みを付け加えることも忘れずそう口にする。


「やってもいない罪で婚約破棄、家から籍を抜かれ絶縁され、国外追放させられた私が何故、5年の後に追放されたこの国に登城しろと連れてこられ、あなたの命令に従わなければならないのです?」


 レッジィーナは5年前追放されるまでは王国内でも王族の次に権力を持っていたカルサール公爵家の長女だった。


 王妃教育がまもなく終わり、立太子の儀を執り行い王太子を確定させ王太子妃となるはずだった彼女が全てを失ったのが5年前であった。


「私は既にこの国の国民ではありませんので、あなた様の命に従う義務はありません。

まさか他国の者もあなたの命に従わなければならない義務があるなどという愚かなことは言いませんわよね?」


「当たり前だ。我が他国の者に命令する権利があるわけないだろう。だが、お前が生まれ育った国の危機だぞ」


「だから何だと言うのです? 確かにこの国で生まれ、5年前に追放されるまで暮らしていた国ではありますが今の私には関係ありません」


 ああ、他国の者に命令出来ないことくらいは理解出来ているのですね。


 この国で生まれたがこの国から見捨てられて5年、隣国へ渡り、それから更に遠方の国に行き、それまで握った事の無かった剣を握り、ゴルチェ王国では必要なかった魔法の腕を更に磨き、新たな幸せな生活を手にするために自分ではそれこそ死に物狂いで努力し、頑張ってきたつもりだ。そして今の私がいる。


 私は生まれた国に捨てられ、他国で生活している他国民なんだからいい加減諦めてくださいな。


 あなたの言っていることは矛盾だらけですわよ。


 彼女をそんな境遇に追いやった者達が、今更自分達の身が危ないから助けてくれなどとはちゃんちゃら可笑しな話ではないか。


「魔王軍が攻めてくるかもしれない?魔族も悪魔も普通は、いきなり人の国に攻め込んでくることはありませんよ。その国が何か魔国に対して手を出したりしていなければ……」


 この世界では大昔に人と魔族、悪魔は争い魔族、悪魔は人の国を侵略し、彼らにより一体幾つの国が滅んだのか知れないが、現在は人間の国々と魔国は友好関係にある。


 一部そういう輩はいるが魔国側が即対処し、人の側に責がなく攻められた人の国には魔国が被害を賠償している。


 剣や銃などで戦うことしか知らないゴルチェ王国は、もし魔国に攻められたら全ての人命を失い滅びるだろう。

 だがレッジィーナには一切関係のない話である。


「どうしても受けぬと言うか?」


「はい。」


「除籍をなかったことにし、カルサール公爵家に戻れると言ってもか?」


「必要ありません。」


「では、土地と金をやろう」


「この国の土地など必要ありませんし、財は自身で十分稼いでいます」


「ならばお前が望むモノをやる」


「私の欲しいモノは自身で得ます。信頼できる仲間には協力を頼むことはあるかもしれませんがね」


「我は信用出来ないと」


「当たり前じゃないですか。まともに調べもせず国外追放にするような国の王を誰が信じますか」


 王の申し出を全てレッジィーナは否と応えた。

 そんな彼女に王は諦めを抱き始めていた。


「何でそんなことを言うんですか? 

もしこの国が滅ぼされた後、レッジィーナさんのいる国が攻められる可能性だってあるんですよ。

人の命がかかってるんです」


「……」


 そう言った少女に向けられたレッジィーナの視線は冷たいものである。


私がいる国が魔族や悪魔から攻め込まれることはないので、心配しているフリなどしなくて大丈夫ですよ。



「レッジィーナさんが受けてくれ魔族、悪魔がいなくなれば助かる命や国がたくさんあるんですよ。

なのに断るんですか?」


 黙っていると女性は更に話を続けてきたのでレッジィーナは深く息を吐き出した。


「マキ・ヤマナカ嬢、受けるか受けないかは私が決めることであって他人が決めることではないのですよ。

誰かがいくら何を言おうと私が否と言えば全て否なのですよ。ご理解ただけますか。

それに私のいる国は魔族や悪魔から攻め込まれることはないので心配してくれなくて大丈夫です」


「だけどこの国にはレッジィーナさんの家族もお友達もいるんですよ」


「そんな人いませんよ。この国に今いるのは、私を嵌めた女と調べもせず女の言葉だけを信じわたしを追放した王族、私の言葉を信じてくれず見捨てた家族だった人達と巻き込まれたくないからと離れていった友達だった人達だけ。

私の大切な人達は居ませんよ」


 まあ、巻き込まれたくないから離れていくのはわからなくはないですが、表だって出来なくてもやりようはありますわよ。


 あの時何もしてくれなかった者をなぜ助ける必要があるというのでしょうかね。


 あの時密かに手を貸してくれた大切と思える者たちは、立場や役職の所為でまだ一部はこの国に残っている者もおりますが、多くは私と共に国を出ているのですが皆さん知らないのですかね。

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