第27話 セクハラ
結局ダグラスはことあるごとに私の部屋にやってきた。
ヴィルがエントランスで追い返そうとするも「いいからいいから。彼女の世話は俺がするし。彼氏だしな!」と強引に入ってきてはあれやこれやと私の世話を焼きたがる。
元々、付き合っていたときはこんなにあれこれするような人ではなかった。
スキンシップは多くてイチャつきたがる傾向はあったが、今みたいにあれこれ世話を焼くよりも世話を焼いてもらいたがっていたが、別れてから変わったのかもしれない。
と考えていると、はたと当時のことを思い出す。
いや、頼られたい願望は昔からあったのかもしれない。そういえば、あのときも相談女に寝取られたんだっけ。
当時、私が強いのをダグラスに隠さずにギルドのクエストで忙しくしていた。
連日、上級クエストに出ていて魔物討伐に勤しみ、なかなか会える日も少ないながらも週二くらいは会う日を確保していたのだが、私がいない間に彼氏に暴力を振われて家を追い出されたという女とデキていたのだ。
一体どういうことだと問い詰めると「寂しかった」「人肌恋しかった」と言い訳のオンパレードで、挙げ句の果てには「お前が俺のこと放っておくのがいけないんだろ!? それに、彼女は俺がいなくちゃダメなんだ! シオンは強いんだし、俺がいなくたって平気だろ!?」と逆ギレされたのを思い出す。
もちろん、私はブチ切れて「そんな浮気する男、こっちから願い下げよ!」とフったのだが。
ちなみにこれには後日談もあり、実はその相談女は浮気しまくってたせいで彼氏に怒られて部屋を追い出されただけだそうで、あとあと怖い彼氏にダグラスが「俺の女に手を出すとはどういうことだ?」とボコボコにされ、私に「やっぱり俺にはお前しかいない!」と復縁を迫ってきたときはさすがに呆れて拒絶した。
それを機に引っ越しをして今の家に住んでいるのだが、まさかこんなところで再び出会うとは。そして、まさかのまさかで再び復縁要請されるとは。
「はい、あーん」
「いや、ご飯くらい自分で食べられるから」
「いーからいーから。これくらい彼氏にさせろって。まだ体調が万全じゃないんだろ? 顔色だって悪いじゃないか」
「いや、だからもう彼氏じゃないんだって」
「だから照れるなって! 俺とお前との仲だろ?」
そう言って無理矢理口元に匙を突きつけてくるダグラス。全然話を聞いちゃいない。
「今はリハビリしないといけないから、そうやって何でも手出しするなと医者にも言われてただろう! 聞いてなかったのか!?」
あまりに噛み合っていない会話にヴィルが助太刀してくれる。
「何だよ、お前。毎度毎度俺に突っかかってきて。あ、もしかして、お前もシオンに気があるの?」
「なっ!? べ、別にそういうんじゃないが、俺はシオンの相棒として……!」
「はぁ〜? 相棒だかなんだか知らないけど、俺のほうがシオンのこと知ってるし、わかってると思うけど。彼女の好きなものとかどんな趣味があるとか言える? 言えないだろ」
「それ、は……っ」
「ほら見ろ。シオンのこと全然わかってないじゃないか」
ダグラスがヴィルに得意気になって言ってるが、正直ダグラスもちゃんと私のことをわかってるかどうかもあやしい気がしてならない。
というか、ヴィルとはそもそもそういう付き合いをしてないのだし、私に興味を持つという過程もなかったわけだから、知っていろというほうが無理である。
「シオンのこと今はあまり知らないかもしれないが、これから知ろうとしてるところだ!」
「はんっ、口でだけならどうとでも言えるんだよ。結局、シオンとお前ってその程度の関係だってことだろ?」
「違う! オレはお前なんかよりもシオンのことを大事にしてるし、彼女の役に立ちたいと思ってる!」
「へっ、どうだか。俺の方がシオンのこと大事にしてるし」
一体、二人は何を競っているんだ。
てか、ここで言い争いを始めないでほしい。一応私、病人なんだけど、これでも。
「ダグだって知らないでしょ、私のこと」
「へ? いや、何言ってんだよ。シオンのことちゃんとわかってるし」
「じゃあ、何か私に関してることで知ってること言ってみてよ。私のことに詳しいんでしょ?」
「それは……」
目を泳がせて言い淀むダグラス。
案の定すぐに私に関する情報など出てこない。そもそも付き合ってたのは二年前だし、きっと何も覚えてないだろう。
なんて思っていると、ダグラスが何かを思い出したのかパッと顔を明るくさせた。
「あ、あぁ! 脚の付け根! シオンは確か、脚の付け根にホクロがあることを俺は知っているぞ!」
「なっ!?」
「ちょ……っ、はぁ!? バカ! 何言ってんの! 信じられない!!」
いきなりぶっ込んできたセクハラ発言に、思わずパチンっと指を鳴らして魔法を使う。簡易の転移魔法で家から追い出し、すぐさままたパチンと指を鳴らして家の中に入れないように鍵をかけた。
「げほっ! ごほっ!」
「大丈夫か!? シオン」
「大、丈夫。急に魔法使ったから身体がついてこなかったみたい」
久しぶりの魔法使用は反動が激しく、思いきり咽せこむ。
現状、枯渇した魔力は戻すのが難しく、しっかり休んでいるはずなのに微々たる量しか回復しない状態だった。その微々たる量の魔力を今使ってしまったので、また振り出しに戻ってしまったのだが。
「無理をするなとあれほど言ったのに」
「だって、あいつが……っ」
「いや、まぁ、気持ちはわかるが」
「ごめん。なんか」
あー、信じられない! ヴィルの前であんなこと言うなんて……!
まさか自分の身体のことを暴露されるだなんて思わず、やっと治ってきたはずの頭痛がぶり返しそうだった。
確かにダグラスとは成人後の付き合いだったからそういう関係があったとはいえ、そんなことを覚えていただけでなく、人前で声高に暴露するだなんて。
アホじゃないの。アホじゃないの。アホじゃないの!?
あー、何で私あんなのと付き合ってたの!!
かつての過ちを後悔するも、どうすることもできず。もっと魔力量を増やせたらいずれ時間転移魔法も習得できるかもしれないが、さすがに今の私にはそこまでの技量はなかったため今は諦めるしかない。
「まぁ、とりあえずしっかり休め。シオンが回復しないことには旅が始まらないんだからな」
「うん、そうだよね。ごめん」
「そんなに謝らなくていい。というか、いつもみたいに無駄に明るくて自信家なシオンでいないと調子が狂う」
「そ、そう? でもヴィル、いつも私にもっと謙虚にしろ的なこと言うじゃない」
「あれは別に、その場のツッコミというか。とにかく、まずはしっかり休まないといつまで経ってもこの村から出られないぞ? そうしないと……」
はっ! このままだったら、ダグラスとも離れられない……!
それは絶対に避けねばならない。
というか、私は結婚相手は探しているけど、元カレはもう過去の存在なのでアウトオブ眼中だ。
そもそも、浮気するような人ともう二度と付き合う気はない。
「そうね! 早く治さないと! まだまだ聖女を待ってる人がたくさんいるだろうし!!」
「だろ? やることいっぱいあるんだから、寝てる場合じゃないぞ」
「えぇ! それに早く結婚相手も見つけないといけないしね! 元カレなんかに構ってる暇なんてないのよ! そうと決まったら一刻も早く治さないと!」
ヴィルに励まされ、単純ながらやる気が出てくる。
「フォローしてくれてありがとうね、ヴィル」
「いや、別に。オレも早く先に進みたいしな。特訓もしなきゃいけないし」
「そうだったね。私が元気になったらたっぷりとしごいてあげるから、覚悟してね!」
「いや、それは遠慮しとく」
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