第3話 エルフの少女
「アリくんのバカチンがぁ!!」
バシコーン!! という乾いた音とともに、星のエフェクトが乱舞する。
日本の古き良きギャグ文化、ハリセンツッコミというヤツだ。
「せっかく見たことのない敵見つけたのにー」
「はぁ……」
僕は小さくため息をついた。
「だーかーらー、その誰彼かまわず突っ込むのはいい加減止めなさいっていってるでしょ。ラピスだってもう初心者マーク取れてるんだし……」
「ぶー」
目の前の少女がこれ見よがしに頬を膨らませて
彼女の名前はラピス、半年くらい前に仲間になった森の妖精族エルフの少女、職業は
「だって、あんな大っきくて強そうな敵がいたら戦いたくなるでしょー」
「いや、その前に自分のレベルとか強さとか考えようよ」
「えー せっかくのゲームなんだからさ、やりたいようにやろうよー 死んだってたいしたペナルティがあるわけじゃないんだしー」
「……お金、ちゃんと銀行か金庫に入れてある?」
「もっちろん!」
勢いよく人さし指を僕に突きつけてくるラピスだったが……
「忘れてました☆」
少女が舌を出してテヘッと笑った瞬間、複数の笑い声が後頭部のあたりに響き渡った。
先ほどの戦闘中に高みの見物をしていたギルドメンバー、いわゆるゲームプレイ仲間たちだ。近くにいなくても、ギルドチャットチャンネルで会話した内容はリアルタイムに共有できているのだ。
「はぁ……いつになったら貸したお金全部返してもらえることやら」
「はははは、ごめんなさい。できるだけ早く返すから、もうちょっと待ってアリくん……じゃない、アリオットさん」
わざとらしく拝むようなしぐさをこちらに向けてくる。
「まぁ、別に急がなくてもいいけどさ」
アリオット、それが僕の名前。あ、もちろんT.S.O.の世界の中のキャラクターのことだけど。
あまり美形にするのも気が引けて、そこそこ微妙にカッコ良さげな人間の少年剣士っぽいイメージで作ったキャラ。結果としてありふれたカンジになっちゃった気もするけど、今となっては結構気に入ったりもしている。
「で、アリくんは今日何か予定ある?」
「ん……今日はあまり長くログインできないし、
「そっか、残念。さっきのデカいヤツにリベンジしたかったンだけどなー」
拗ねたようにそこら辺の石ころを蹴飛ばすラピス。
いや、だから僕ら二人でどうこうできるレベルじゃない……って、言ってもムダなんだろうな。
なので、僕は話題を
「んとさ、鍛冶スキルが上がったら、新しいレイピアが作れるようになるんだよね。この前、ラピスがすっごく欲しがってたア……」
「なに、それ、ホント!? マジ!? あのカワイイ細い剣?」
こちらが言い終わる前に激しく食いついてくる。
……あの、
「それなら許す。そっちに専念しちゃってください☆」
ぴょこんと一歩飛び退いてウィンクしてみせるラピス。
もしかして、今の言葉口に出しちゃっただろうか。
一瞬、言葉に詰まってしまったが、そのタイミングを
[あの、アリオットさん。この前お願いしていたローブですが……]
「あ、サファイアさんの服ならもうできてますよ。このあと一回ギルドハウスに戻りますんで、よければそこでお渡ししましょうか」
[あ、はい、わかりました。わたしも向かいますね]
「アリくんってば、冒険者というより職人っぽいよね」
サファイアさんとの会話が終わるのを待ってラピスが口を開く。
「そうだね、どっちかというと職人が向いてるのかもしれないねー」
そうなのだ。一応、T.S.O.はサービス開始前のクローズドβにも参加していたくらいの古参で、
「なんというか、こう、材料の調達から武器を製作して、んでもって、市場に流して利益を上げてーっていう流れをいかに効率よくやっていくかとか突き詰めていくと楽しいんだよね、これが」
「なんか地味だけど、アリくんっぽいっていったらアリくんぽいかもね」
「……それってほめてないよね」
「そんなことないよ!」
手を振って明るく笑うラピス。
「そうはみえないけどスゴイってこと。ギルドだってそうだけど、アリくんのおかげでみんな助かってるし」
ギルドというのは、T.S.O.の中のプレイヤーたちが集まって作るチームみたいなものだ。そして、そのチームの集会場であるギルドハウスも含め、ギルドの維持には一定のコストがかかる。その金銭面、あ、もちろんゲーム内の通貨だけど、大半はギルドリーダーである僕がやりくりしていた。
もっとも、自分なりに職人をやっている範囲で維持できているので負担にはなっていない。さらに利益を追求するなら、市場の相場を利用して転売や価格操作とかやればもっと儲かるけど、僕としてはそこまでの商人プレイをする必要も感じていないし。
「まぁ、それが僕の楽しみ方だからねー」
「うん、それにギルドのメンバーもいい人ばかりで、本当に楽しいよね。なんというか、みんなが好きなことやりつつ助け合ってるみたいな」
「あー、それは言えてるかも。僕もみんながレアな材料とか普通に調達してきてくれるから助かるしねー」
「アリくんが、このギルドに誘ってくれたこと本当に感謝してるんだよ☆」
「……つーか、なんだこの雰囲気」
ふと我に返った僕を見て、お腹を抱えるようにして笑うラピスだった。
「んじゃ、私は経験値稼ぎしてくる! 一段落したらギルドハウスに戻るねー」
「あいよ、あまり無理するなよー」
僕はいつも通りにラピスの背中に手を振って見送ってから、ギルドハウスへ瞬間移動するためのアイテム、テレポート・ストーンを取り出した。
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