白いお雑煮

故水小辰

うち、お雑煮作るわ

 久しぶりに台所に立った。シュウちゃんと同棲するようになってから、私が台所で料理をすることはめっきり減っていたからだ。結婚してからもそれは変わらず、私は昔のように、ふと思い立っては下手の横好きのような料理をするだけになっていた——このことをよく知るシュウちゃんは、私がお雑煮を作る、と言い出したときに少し固まっていた。


「え、でも料理苦手なんでしょ?」

「そうやけど、これでも昔は自分で色々作ってたんよ? お雑煮も作ったことあるし、大丈夫やって」


 シュウちゃんは料理が上手い。そして私は、それを美味しい美味しいと言って食べるのが仕事だ。自分で作った色々の料理も、実際のところは一人暮らしで作らざるを得なかったから作っていただけのものだ。そしてお雑煮も、その中のひとつだった。

 京都の実家に帰らないときは自分で作って食べる、それが一人暮らしをしていた頃の私のお正月の過ごし方だった。ママの家が代々京都人のうちのお雑煮は、大根、にんじん、里芋、茹でた丸餅が入っていて、味付けはもちろん白味噌。ほんのり優しい甘さが美味しくて、私は昔から白いお雑煮が好きだった。年によっては湯がいて結んだ三つ葉が乗っていたり、ほうれん草が入っていたりしたが、それでえらく味が変わることもない。そして今日の材料――シュウちゃんが初めて食べる、記念すべき一杯の材料は、緑の野菜以外の基本の材料だ。不器用な私では三つ葉は結べる気がしないし、ほうれん草はちょうど切らしている。色味はちょっとぼんやりするけど、なくても美味しいからまあええか。そういうことで緑をあっさり捨てた私は、意気揚々とお雑煮作りに取り掛かった。



***



 師走になって、スーパーやショッピングモールに新年を迎えるためのあれこれが本格的に並び出したある日。週末の買い出しに行ったスーパーの一画で見かけたレトルトのお雑煮がことの発端だった。あ、とシュウちゃんが立ち止まって指さしたのは、白と赤を基調にしたパッケージ。どうやらシュウちゃんの目には、そのレトルトのお雑煮が「妻の出身地のご当地レトルト」として写ったらしい。だけど私は、「京風お雑煮」の文字が目に入っても、ふうんと思っただけで気にも留めなかった。京都生まれ京都育ちの私にとっては、「京風○○」は珍しくとも何ともない。そういうわけで、ねえあれ、と私の肩を叩いたシュウちゃんを、私は「ああ、あれな」とバッサリ切り捨てた。そして言った。


「レトルトのんわざわざ買わんでも、食べたいんやったらうちが作ったげるで?」

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