腹黒聖女ですが、追放先で出逢った王子に溺愛されて私が浄化されそうです。

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第1話 神の代行者として反論させていただきます。


「メマラン聖王国の聖女、アイラ。貴様のような使えぬ女は我が国には不要だ! 二度とそのつらを俺に見せるな」


 神聖なる教会にて私――アイラは、自身の婚約者であるはずのモーンド王子に叱責されていた。



「そのお言葉の意味は……私には分かりかねます」


 部下を引き連れて突然教会にやって来たかと思えば、この人はいったい何を言っているのかしら。第一、自分でつらを見せに来ておいて『つらを見せるな』とはこれいかに。

 


「貴様との婚約も解消すると言っているのだ! 今すぐ我がズキア王国より立ち去ってもらおう!」

「はぁ……その理由を聞きましょうか」


 貴方が何を言いたいのかは私にだって理解できますけど、何故そうなるのかがまるで分からない。

 よっぽどお怒りなんでしょうけど、私にも分かるようにキチンと順序立てて仰ってくれないかしら?


 そもそも聖王国で聖女の仕事をしていた私をズキア王国へと招いたのは、目の前に居るモーンド王子だ。あまつさえ私を王妃として嫁に迎えたいと言ったのだってこの人なんだから。



「浄化をせよと命令しておるのに、貴様は理屈をね回して拒否し続けるではないか。貴様など、聖女の名をかたるただの偽物だ!! クソッ。顔だけは良いと思ったが、口は悪いわ性格はひねくれているわ……なんてみにくい女なんだ!!」

「……はぁ」


 口から出掛かった「はぁ?」という言葉を、どうにか語尾を下げることで誤魔化した。


 いや、うん。自分が可愛くない女なのは自覚している。

 王子の言う通り、国土の浄化をやれと言われて拒否をしたのも認めるけど……



「アレは瘴気によるけがれではありません。他に原因があると、私は何度もご説明しましたが」


 私の返答に、王子の背後にいた部下たちがざわつき始めた。

 いや、教会に居る修道女たちまで一緒になってヒソヒソ話をしている。



『あの聖女、遂に殿下にまで歯向かったぞ!?』

『やっぱり聖女なんて迎え入れるのは、失敗だったのよ……』

『本当に浄化の力を持っているのかさえ疑わしいわ』

『ひどい、殿下を騙したのね……!?』


 もう、言いたい放題言ってくれるわね。

 まさか味方であるはずの教会の人間でさえ、そんな間違った認識を持っていたなんて。彼女達はここでいったい何を学んできたのかしら。


 チラ、と周りを見渡してみても、私に向けられているのは冷たい目ばかり。まったく……私の味方をしてくれる人はこの国には居ないようね。



「ふんっ、優秀だと聞いて招いてみれば。目上に対する口の利き方も習わないのか、かの国では」


「言ったはずです。私は殿下と同格の扱いでならこの国へと派遣されましょう、と。それをお忘れですか?」


「そんな建前を貴様は本気にしていたのか!? 俺はこの国の王子だぞ!!」



 こちらこそ貴方に本気か、と尋ねたい。


 瘴気を浄化する力を持った聖女は、神の代行者として扱われている。

 もちろん、その肩書きを名乗るからには責任も伴う。だからその信頼を得るために、聖王国と聖女たちがどれほどの苦労と犠牲を払ってきたのかご存じないのかしら!?


 それはこの大陸で生活する民であれば誰もが知っている、共通の認識のはずでしょうに。



 ……あぁ、そういうこと。

 この小さな国ではここ数十年、瘴気の被害がほとんど無かった。だからのことも忘れてしまったのね。



『あれはもう、不敬罪じゃないか……?」

『この国から出ていきなさいよ!!』

『いや、見せしめに処刑だ!!』



「クククッ。見てみろ、この国には貴様を擁護ようごする者など居ないぞ。さぁ、さっさと荷物をまとめて出ていくが良い」

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