雨夜の星 ③

「お疲れ様でーす!」


緩くウェーブのかかった茶髪のポニーテールを軽やかに揺らしながら、その女性は明るく挨拶をした。


「あれ、麗央さん! 今日はお休みじゃ?」

「いやー、ちょっと顔出したいなーって!」


彼女は、獅々谷ししや麗央れお

近くの大学の学院生で、プラネタリウムの解説員をしている。


「そういえば、今日から一ヶ月、アルバイトの子が入ったんですよ〜」

「一ヶ月ってことは、学生さん?」

「そうそう! 星野ひかりちゃんっていう子で、高二って言ってたかな」


星野ひかり……

 

 


 


「おはようございます!」


資料の準備をしていた私の耳に、明るく、鈴を転がしたような声が聞こえた。


「麗央さん、あの子よ」


〝星野ひかりちゃん〟


聞き覚えのある名前だと思っていたけど、一目見て判った。

間違いない、〝あの子〟だ。


「ひかりちゃーん、こちら、昨日話してた獅々谷麗央さん」

「はじめまして、星野ひかりです!」


 ――はじめまして?


「え、あ……」

「解説員の麗央さん、ですよね? 友だちから話を聞いていて……」


……憶えてない?


「一ヶ月なんですが、よろしくお願いします!」

「ああ、うん、よろしくね!」


……うん。

憶えていないなら、それでいい。


きっと、気を遣ってしまうだろうから。




  ♢ ♢ ♢ ♢




私の地元は、家を出れば海も山も見える、そんな片田舎。

夜には満天の星空が広がり、天体観測にはもってこいだった。


私は進学のために、高校卒業と同時に上京したから、あまり長くは一緒にいなかったけど。

それでも覚えてる。




〝お星様が大好きな、星野ひかりちゃん〟

 

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