その4

 配信サイトのことを教えてもらってから以降、私の生活は激変してしまった。

 できるだけ視界を配信サイトへ流さないように、部屋を常に暗闇にして、目はアイマスクで覆った。日常生活のほとんどを私は真っ暗な中で生活することを余儀なくされた。

 友達との連絡手段はスマホの音声入力機能を使ってやり取りが出来たので、画面を見なくて済む。

「あかね、大丈夫? こんな真っ暗な部屋で体悪くしていない?」

 今日は相談に乗ってくれた友達が私のことを心配してお見舞いに来てくれた。

「うん。最初は大変だったけれども、慣れれば平気になってきたよ」

「そう。ならいいんだけど。ほんと無理しないでね」

 友達が私の頭を優しく撫でてくれた。

「例の配信の止め方何か分かった?」

「ごめん……それが全く分からないらしくて。配信サイト会社も全く連絡が来ないらしいの」

「そっか……」

「相談に乗ってあげても、役立たずでマジでごめん」

「大丈夫。十分助けてもらったもん。嬉しいよ」

「あかね……」

 でも、配信が停止できないんじゃ、私は一生このまま暗闇の中で生きないといけないんだろうなぁ。

 いくら真っ暗で配信上に私の視界が見えないとしても、私の視界は誰かに見張られているんだ。あの配信サイトがある限り。そして、私の視覚がある限り。


 そう考えたとき、私はある答えが頭の中に過ぎった。

 そうか。なんで、今まで思いつかなかったんだろうか。名案じゃん。

 これで、私は監視されなくなるんだ。


 私はすっと立ち上がって、アイマスクを取って部屋を出る。

「ちょっと、あかね? どうしたの?」

 私のいきなりの行動に友達が困惑した様子で私の後ろをついてくる。

 私はキッチンへと向かって、食器棚の引き出しに手をかけ、引き出しを開けた。

 其処にはカラトリーが収納されていた。スプーンやナイフ、そして……


 フォーク。


 私は光り輝くフォークをおもむろに手に取った。

「ちょっ、あかね! やめなって!」

 私が何をやろうとしているか察した友達は私に掴みかかって必死にフォークを引き剥がそうとする。私はそれに抵抗して、彼女を突き飛ばした。

「離してっ! 私はコレで監視から解放されるの!」

 私は全てが解決するという喜びで口元を綻ばせながら、両手でフォークを握って……、


 右目に思い切り突き刺した。

「あ゛あああああああああ! いだいいだい」

 まずは一つ目……。

 あともう一つ。私は焼けるような目の痛さに耐えながら、左目もフォークで突き刺す。

「あ゛……がっ……」

 痛みで上手く発声することも出来なくなっていた私は床へと倒れこんだ。カランとフォークが床に転がる音が聴こえる。

「あかねっ! ねぇ、あかねしっかりして!!」

 友達が私へと駆け寄って私を揺らす。私は痛みで悶絶して声すら出せない。

「もしもし! 救急車をお願いします。友達がフォークで目を突き刺してしまって。一刻も早くお願いします! 場所は……」

 彼女は私のために救急車を呼んでる声を聴きながら私はあまりの痛みにそのまま気絶してしまったのだった。


 私は気絶した後の話をしよう。

 そのまま救急車で病院へと運ばれた私はそのまま緊急手術が行われたらしい。だけれども、視神経まで達する酷い怪我だったため、手術の甲斐もなく私の視力は一生戻ることは無くなってしまった。

 この真っ暗な世界で生きていくしかない。


「目は見えなくなっちゃったけど、リハビリ次第では歩けるようになるって先生が言ってたよ」

 お見舞いに来てくれた友達はそう言いながら私の傍にゴトリと何かを置いた。

 いい匂いがするから恐らくはお花を飾ってくれたんだろう。

「ごめんね。迷惑かけちゃって」

「ううん。全然。あかねの気持ちが分かってあげられなかった私も悪いんだし」

 彼女が申し訳なさそうに答える。

「リハビリが順調に終わって退院できたらまた皆でランチ行こうよ! あかねの退院祝いとかしたいっ! いいお店見つけたの」

「そう言ってー、皆で騒ぎたいだけでしょー」

「バレた?」

 二人の笑い声が病室に響き渡る。


「ねぇ?」

「どうしたの、あかね?」

「あの配信サイトは無くなったんだよね?」

 私が自分の視覚を奪ったあの日。あの配信サイトはいきなりページが見ることができなくなったという。

 視覚を共有出来なくなったから、ページが消えたんだろう。

「うん。きれいさっぱりページが無くなって、今は閲覧出来ないようになってるよ」

「本当!? 本当に見ること出来ないよね?」

「いきなりどうしたのよ」

 彼女は心配そうに訊ねる。


 確かに今の私には視覚が存在しない。

 真っ暗な世界なハズだ。

 なのに……


「誰かが、大勢の誰かが私のことを見ているの。今もずっと」

 私の真っ暗な世界の中に無数に点在するのは、


 目、目、目、めめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめMeめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめ

めめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめ

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めめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめ


 夥しい程の目が私をじっと見ている。


「やめて! 私を見ないで!」

 私はそのまま錯乱して、ベッドから床へ転がり暴れだす様子を見て彼女は必死にベッドに置いてあったナースコールを押して助けを求めていた。


 視覚を失っても、私のトラウマが拭い去れる日はきっと来ないだろう。


 Case1 終了。

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