勇者として……

どーすんだこれ!

「あわわわわ! どうしよう、どうするのこれ!」


 異臭がまだわずかに漂う中、アスカが慌てだした。


「一番この中で強いはずのガオンが! これじゃあ消耗戦で押し切られてしまう!」


 珍しくアラタも動揺し始めた。


「どうしましょう! ねえどうしましょう!」


 シャルティが鼻をつまみながら片手で異臭を払うように振る。


「俺もどうしたらいいかわからねえよ!」


 とんでもない形で戦線離脱した筋肉。


 筋肉は裏切らないんじゃなかったのか!


「まったく、これくらいで動揺して、情けな……うっ!」


 マリーロンが前に出て、異臭に口をふさぐ。


「ここは私の出番のようね!」


 この異臭ほうが、どうにかならないだろうか……。


「ジュモックン! 行くわよ!」


 マリーロンが構えた。


「アイアイサー!」


 マリーロンの肩に乗っていた、木彫り人形のような召喚獣。ジュモックンが地面に降りる。


「ジャア、イックヨ!」


 ズズズ……メキメキメキメキ……ゴゴゴゴゴゴ……。


「おお……」


 つい感嘆を吐いてしまう。


 ジュモックンが、大樹のように巨大化し、変身した。


「ジュモックン! パワーフルスタイル!」


 巨大化したジュモックンが両腕を上げて叫ぶ。


「さあ! ジュモックン! まとめて蹴散らしてしまいなさい!」


「ウオオオオオオオオ!」


 ドドドドドドと足音を鳴らして、ジュモックンが突撃する。


 が――


 ジュモックンにサラマンダーとフレアバードの火炎弾が直撃した。



「あ」「あ」「あ」「あ」



 メラメラと燃え上がるジュモックン。


「アアアアアアア! アツゥイ! アツイヨー!」


 炎に巻かれて、ごろごろと転がるジュモックン。


 それを眺めて、つい思い出す。


「あー、そういえば。植物系のモンスターって弱点が多いよな」


 アラタも同意して、これはダメだと言わんばかりに首を振った。


「確かに、植物系は相性の悪い属性が多いと、僕もそういう印象を持ってるよ」


 これはもう苦笑するしかないとばかりにシャルティが口を開く。


「同じ聖属性でも、特別に強いと言うわけじゃないのですわね。こけおどしもいいところですわ……」


「ヒイイイイイイイイイ!」


 ブスブスと燃えカスの音を出して、ほどほどに焦げたジュモックンがぐったりと倒れた。これはさすがに……。


「ここに来て、まさかのギャグ要因とは、俺もびっくりだわ。ないわー」


「うっ! うるさいわね! 相手が悪かっただけよ! それにジュモックンは再生できるんだから!」


「ソノトーリ!」


 あ、本当に再生した。

 負ったダメージの部分が剥がれ落ち、再びジュモックンが立ち上がった。


「ジュモックン! マケナイ! イックゾー!」


 メリメリ、メキメキメキメキ――


 ジュモックンの両腕が巨大化する。


 そして、岩がごてごてにくっついたようなゴーレムに向かって、再度突撃するジュモックン。


「オリャーーーー!」


 ゴーレムと、ジュモックンの拳がかち合った!


 バキッ! ベキベキベキベキ――


「アアアアアア! ボクノウデガー!」


 ゴーレムの拳にあっさり負けて、ジュモックンの腕が粉々になった。


「所詮、木材はどこまで行っても木材ってことか……」


「私のジュモックンを木材って言うな!」


 アラタが苦言をしつつ提案する。


「まあ、再生能力があるなら、自己回復できるって事だし、このままガオンが戻ってくるまでに時間稼ぎくらいには……なるんじゃないかな?」


「アラタ、それナイスアイデア!」


「なんですってえええ!」


「時間稼ぎがんばってくれ! マリーロン! そして木材!」


「きいいいいいいいい!」


 どうしようもなくなって、地団駄を踏むマリーロウ。


 ほんとこれ、どー収拾つけるんだろう?


 また再生したジュモックンが立ち上がり、召喚獣の群れに突撃して、

 またまた粉々になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る