人間、人それぞれなんだ。

「おう、マモル! ただいまだ!」

「ああ、おかえりー」


 昼を前にして、ようやくガオンが戻ってきた。

 これで変なやつに絡まれなくてよくなる。


「じゃあ、さっさと妖精化してくれ」


「おうとも、だが……」


「うん?」


 ガオンは首に巻いていたネクタイを解いた。


「妖精化していると邪魔になるのでな。持っていてくれ」


「ああ、わかった」


 俺は手渡されたガオンのネクタイをくるくると丸めて、ポケットにしまった。


「じゃあ、飯食いに行くか」

「おうとも!」


 そして視界の端っこをちらりと見る。


 そこには、マリーロンがこちらを敵視でもするかのように、腕を組んでこちらを見ていた。それはそっと視線をはずす。


「…………」


「どうした、マモル?」


「いや、なんでも――」


 俺は、なんとなく、本音を出した。


「少し、嫌な事があっただけだ。それだけだよ」


「そうか、気にかかるのか?」


「べつにたいしたことじゃないよ、俺にとってはちょくちょくあることだから、気にしていない」


「ふむ、そうか」


 残念ながら、人間には相性というものがある。


 俺にとって一番相性の悪い人間は、とにかく主導権ととっておきたい、グループの中心にいたい。そんな人物だ。


 俺がいつも低温な人間として振舞っている。それを決して崩さないところが、そういう相手にとって「心を開いてくれない」と感じてしまうらしい。


 だから、初めは話を合わせて仲が良いように取り繕っても。最終的に輪の中から弾かれる。「腹を割って話そうか」といわれても、俺の腹の中には何にもないわけで……結局は敵視するかのように嫌われる。さらにそれを周囲に伝えて、集団でハブにするよう持って行くこともあるから。本当に最悪な相手だ。


 もう分かっているんだ。そういう相手との行き着く先が。


 最後には破綻すると決まっているなら、初手でもうこちらからお断りするのも、余計な亀裂を生むと分かって、周囲に迷惑をかけることを避けるのも、処世術のひとつだ。


 触らぬ神にはたたりなし。それに限る。


 にしても――


「なあガオン、俺って、不機嫌だとそんなに顔に出るのか?」


「ふむ、顔に出るというか、若干気配で感じ取れる。というほうが正しいかな」


 さすがにそれは隠せないか。


「そっか」


「珍しく落ち込んでいる様子でもあるな」


「まぁ、人間それぞれ、十人十色ってやつだ」


「なるほど、分かった。これ以上は追求しないでおこう」


「さんきゅ」


 察しの良い相手は助かる。無駄な言葉を鼻書く手もいいのだから。


 そういう意味では、自分よりも大人であるガオンは、良い相手、良いパートナーかもしれない。


 もっと大人な心が欲しいところだ。


 俺は絶対に、自分のこの個性をブレさせたりはしない。誰になんと言われようと。


 これは自分が唯一見つけた、自分の生き方なのだから。


 早く大人になりたいな……。

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