そして誰もツッコまない。

「やあ、おはよう。マモル、ガオン」

「おう、はよー」


 アラタとちょうど出くわした。


 若干まだ眠いが、空腹で仕方がない。食堂棟までまだ距離がある。


 他の生徒も、まばらに集まってきて、俺たちと同じく食堂棟へ向かっている。


「ガオン、今日は珍しく正装だね」

「うむ、ちょっと野暮用ができてしまってな。正装したのだよ」

「似合っていると思うよ」


「…………」


 アラタと一緒に歩いていると。


「ごきげんよう」

「おはよー」


 シャルティとアスカがやってきた。


「あら、ガオンさん。今日は正装なんですわね」

「うむ!」

「いい色してるね」

「ありがとうアスカ女史。はっはっは」


「…………」

 俺は黙っててくてくと歩く。


「…………」


 アスカとシャルティが、「こんどこそお箸を使えるようになりたいね!」「そうですわね。皆様のいた日本のお食事は大変おいしゅうございますから」「今日は何にしようかなー?」


 と、和気あいあいにしゃべっている。


「…………」


「マモル。どうかしたの?」


 アスカが俺のむすっとした顔を見て、尋ねてきた。


「別に。なんでもない」


 お気づきだろうか? 周囲にはたくさんと他の一年生の生徒が歩いている。なのに、俺たちには一切目を合わせないでいる。


「悪い夢でも見たのかい?」


 アラタも聞いてくるが。


「いや、そんな夢を見たような気がしたけど、忘れた」


「夢って不思議だよね。起きてすぐは覚えているけど、いつの間にか忘れてしまっている。かといって、覚えている夢もある」


「あー、そうだな……」


「良い天気だというのに、マモルは二度寝をして今しがた起きたばかりなのだ」


「マモル。ちょっとだらしなくない?」


「小言はいらないよ。アスカ」


「じゃあ何でそんなに不機嫌そうなの?」


「……なんでもない」


 別に、変なラジオ体操で起こされたからでも、夢見が悪かったという理由ではない。 


 ――絶対にツッコまないからな。


「今日のマモルはちょっと変だな。そんなに私のラジオ体操で起こされたのが悪かったのか?」


「ちげーって言ってるだろ」


 正装して、どこに行くのかはわからないが。


 ガオンの正装って、いつもの裸ブーメランパンツに、


 首にネクタイを下だけだった。


 これが正装? ふざけんな。


 みんなもみんな、そう思っているのかもしれない。


『絶対にツッコミを入れないからな!』


 俺の召喚獣、ガオンは、いつでもどんなときでも。

 絶対にブレない。

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