いつもどおりの夕食。のはずがなんでこうなった?


「今日はもりもり食べるぞ! はっはっはっはっは!」


 快活な声で、丼ものシリーズをずらりと並べたガオン。


 しっかり手を合わせてぶつぶつと、いつも通りの食べ物たちへの感謝の言葉を言っている。


 俺もあんなに走ったし、明日は脚が筋肉痛だろうな。


 ガオンに乗せられたわけではないが、俺も豚のしょうが焼き定食を頼んだ。


「むむむむむむむむ……あっ!」

「大丈夫だよ、シャルティちゃん。お箸の持ち方はそれであってるから」

「こんな二本の棒で食べるなんて、難しいですわ」

「慣れれば大丈夫だよ!」

「むむむ……」


 シャルティが、箸の先に挟んだ鯖の味噌煮の身を凝視して、震えている。


「もうすこし、もうすこしだよ! シャルティちゃん!」

「ぐぬぬぬぬぬ、あっ!」


 力を入れすぎたのか、はさんでいた身がほぐれて箸からこぼれ落ちた。


「はぁ……難しいですわ」

「そんなことないよ、すぐにできるようになるから!」


「…………」


 平和だなあ。と、そう思ったら、アラタがあさっての方向を向いて「ひゅう」と口笛を吹いた。


「マモル。お客さんみたいだよ」


 そう言って、アラタが向いている方向に手を上げた。


 パタパタパタパタ――


 やってきたのは。


 先ほど戦ったばかりのゴーレム使いの二年生。レイナ・レイス先輩だった。


「うりゃ!」


 俺に近づくなり、飛びつくように俺の頭を抱きしめてきた。


「うわっ!」


 やばい、良い匂い。しかも顔に胸が! つつましい胸のふくらみの感触が!


「うりうりうり」


 俺の頭を抱きしめて、頭をなでたり頬ずりしてくる。


 なんでだ? なにかフラグでも立てたっけ?


「先輩! なんでこんなところに!」


 というか、学年別でエリアを分けられているんじゃなかったのか?


「実は、学年別エリアには、いくつか隠れた通り道がある」

「な、なるほど……」


 すりすりすり、なでなでなで。


「あの、先輩。何をしているんですか?」


「マモルの」


 レイナ先輩がこちらに顔を合わせてきた。近い近い! 顔が近い!


「マモルのツッコミ。びりびりしてきゅんきゅんした」


 えー? それが理由ですかぁ?


「だから決めた。マモルを弟にする」

「は?」


「以後私の事は『お姉ちゃん』で」

「なんで!」


「マモル、良い匂い。落ち着く匂い。私の匂いは嫌い?」

「いえ、すごく良い匂いですけど!」


 やばい体がかちこちに固まっている。


「じゃあ、私たちは相性がいいのね。ふふ。うれしい」

「先輩、とりあえず離れてくれませんか?」

「お姉ちゃん」

「お、おねえ、ちゃん……離れてください」

「ヤダ」

「ええええ……」


 さっきから顔に先輩のお胸様がこれでもかと当たっているんですけど。


「おっぱいが嫌いな男の子なんていない」

「確信犯ですね!」

「小さいのはだめ?」


「え、いえ、あの、その……大きいとか小さいとか形とかじゃなくて、みんな等しく柔らかいと思い、ます……」


 何言ってんだ俺!


「そう。良かった。マモルも堪能して」

「いやでも人目についてますよ、むぐ」


 俺の口は、レイナ先輩の人差しで封じ込まれた。


「だめ、もう少し。もう少し」


 先輩の呼吸する甘い声。はぁ、はぁ、と耳元で聞こえてくる。


 先輩のつつましいお胸様が柔らかく俺の顔に当たっている。トクトクと心音まで聞こえてくる。


 ど、どどっどどうすればいいんだこれ?


 こんなの初めてだ。長年の付き合いのあるアスカでもしたことがないぞ。


 この場合どうしたらいいんだ?


 思考がぐるぐると回ってショートしてしまいそうだ。


 そして十分に俺を堪能したのか「むふー」という満足げな息を吐いて、やっと俺から離れてくれた。


「じゃあ、またくるから」


 これらすべてをレイナ先輩は無表情でやってしまうとか。


 そして別れを告げようとして、レイナ先輩は自分の人差し指を見た。


 俺の唇を押さえた人差し指だ。


 それをレイナ先輩は。


 ちゅっ


 自分の唇に当てて、投げキッスをしてきた。


 先輩それって間接キスですよお!


 しかもアプローチがちょっと古い!


「またね。マモル」


 そしてレイナ先輩はきびすを返して去って行った。

 なんなんだったんだ、いったい……。


 視界の端で、くすくす笑いをこらえているアラタが見えた。


 そして――


「優秀な先輩の目に留まってよろしいことですわね。なんて間延びたみっともない顔なのかしら」


「マモルにはまだ早いよ! こういう、えっと、こんなの、とにかくエッチなのはダメ!」


 シャルティの辛らつな視線と、動揺しているアスカ。


「いやー、これはマモルのハーレムの始まりなのかな?」


 楽しそうなアラタの顔。


「ふざけんな俺にそんな設定はない!」

「さあ、どうなんだろうね? 蓼食う虫も好き好きって言うだろ?」

「嫌味か! 嫌味だろ! こんなの何かの冗談でなければ納得できねえよ」

「はっはっはっはっはー」

「笑うな!」


 今日も今日とてにぎやかに終わる日。突然のゲスト登場もあったが、


 今日もまた、何とか平和に暮らすことができた。


 のだと思う。


 こういう学園生活が、これからも続いていくのだろう……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る