これは俺が反省しないといけないのか?


 まさかの、一杯のプロテインによる大逆転劇。


 とんでもない試合だった。


 ガオンが戻ってきた。


「今回は助かったぞマモル! 信じていた」


 ニッと白い歯を見せて笑うガオン。


 なんだか、妙に小恥ずかしい。


「じゃあこれ、大事に飲めよ」


 持っていたプロテインの袋を、ガオンに突き出した。


「ああ、大事にする!」


「……ねえ、マモル」


 アスカが背後から声をかけてきた、振り向くと、珍しく怒った顔をしていた。


「今回のピンチは、マモルのせいだよ。わかってる?」

「え? 俺? 俺のせい?」

「そうだよマモル」


 観客席にいたシャルティとアラタがやってきた。


「まったく、ひやひやしましたわ。ガオンを倒すのは、この私のホーリードラゴン、なのですから……」


 何で? 


「何で俺が悪いの?」


 それを聞いた三人が、そろってため息をついた。


「あのね、マモル。これはマモルが招いたピンチだったのよ」


「どうして! なんでだよ!」


「ちゃんとガオンさんのマッスルを大事に養ってあげなかったらだよ!」


「マッスルを養うってどういう意味! あ、こういう意味か、チクショウ!」


「僕も、ちゃんと自分の召喚獣の面倒も見れない人間を友達とは呼びたくないな。今回はマモル、君に非がある。ガオンのマッスルの管理を怠ったが故の苦戦だったんだから」


「マッスルを管理するってどういうこと! あ、こういうことか。ドチクショウ!」


「みな、いいんだ。マモルを攻めないでくれ」


 ガオンがプロテインの袋を抱きしめて何か言い出した。


「私が言い出さなかったから、マモルは気が付くことができなかったの。ちゃんと口で言っておく事も大事なことだったの。……このプロテインは、マモルからもらった大事なプロテイン。たとえ飲み切っても袋だけでも大事にするから!」


「なんでちょっとオネエ声入ってるんだよ! 愛おしくプロテインを抱きしめるな!」


「まあ、しかたありませんわ。相手は最新鋭のゴーレムだったのですから。さすがドラゴンでも苦戦する相手。しかも私たちよりも一年も長く召喚獣と苦楽を共にした上級生だったのですから。えっと……ちゃんとマッスルを大事にできなかったところはあっても、勝てたのは奇跡に等しいですわ」


「マッスルを大事にってどういう……ってもうその手にはのらねえぞ!」


「あら、さすがに三回目のノリツッコミはないのですね」


 アスカとアラタが「ぷっ」と吹き出した。


「お前ら俺をからかってるだろおおおおお!」


 三人とガオンが「あっはっはっは」と笑ってくる。


 むかつく!


 と――


 不意に、こちらをぽつんと一人で立ったままこちらを見ているレイナ先輩の姿が目端に映った。


「あ……」


 レイナ先輩に振り向こうとして、それをガオンが肩をつかんできた。


「だめだ、マモル。勝者が敗者に声をかけてはならない」

「だけど――」


 ガオンは黙って首を横に振った。


「…………」


 なんだか、試合に負けて、たった一人でぽつんと立っているその姿は、見るも痛々しく。それを自分が与えてしまったのだと思うと、こっちの心も痛み出した。


 これだから、俺は争い事が嫌いなんだ。


「…………」


 俺たちは客席がまばらに減っていく会場内で、みんなと一緒にこの場を去った。


 立ち尽くしたままのレイナ先輩を残して。

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