転生先は森の中(1-10)
高さ数百メートルもありそうな巨大な城壁に囲まれるのは迷宮都市ルナ。
いかにも中世ヨーロッパって感じのある風景をさらに強調させるかのように、鎧を身にまとって門へと続く道を歩いたり、武器を手元に置いて街に出入りしたりしている者が数多く、その中では人間ですらない者もちらほら見かけられる。
ゆらゆらと馬車が揺れて古めかしい石畳になっている通りを進むと、やっと門についた。
門についたら衛兵らしき人物に声をかけられる。
「止まれ。この先を通したければ身分証を提示しろ。身分証がない場合、街に入るには銀貨1枚を支払わないといけないのだ」
そうか。
街に入るには身分証が必要か。
もちろん、今まで森の中で暮らしていた僕にはそんなものがない。
幸いなことに、アレンに銀貨5枚をもらった。
お金はちょっと減るけど、それはしかたない。
アレンとエミリア、そしてガリックは身分証を取り出して衛兵に見せる。
衛兵は代わる代わる3人の身分証を確認すると、返す。
すると僕の番が回ってきた。
僕はポケットから銀貨1枚を取り出して衛兵に渡そうとしていた。
でも衛兵は、すぐ受け取ってくれなかった。
むしろしばらくお金を観察してから受け取ったのだ。
なんで?
と、そんなことを不思議そうに思っていると衛兵は、
「身分証がないのか?」
そんなことを尋ねてきた。
すると、そんなものはないと答えると、衛兵は面倒くさそうに溜息をついた。
何?
僕なんか言ったか?
と、心の中で自問するが、口に出さなかった。
すると衛兵はポケットから何か白くて細いものを取り出して、そのものを僕に差し出してくる。
「この白い板の上に手を乗せてくれ」
仏頂面を作る衛兵。
まじでなんなんだこの人?
文句とかがあれば言えばいいのに。
まあ、言っても何も変わらないか。
とりあえず、言われるがままに白い板の上に手を乗せることにする。
すると、ステータスの一部が表示される。
名前:マティアス
年齢/種族/性別 : 120/森上妖精/男
レベル:2
賞罰:なし
スキル:魔法全属性操作、弓術Ⅱ
どうやら鑑定の劣化版らしい。
レベルの下に『賞罰』という言葉が書いてある。
もしかして、犯罪経歴を調べたりしたとか?
犯罪はこの世に来てからしてないので問題はない。
もちろん、前世でもしてない。
引きこもりには無駄な努力だ。
すると目の前で表示されているウィンドウをしばらく見つめると、衛兵はやっと声をかけてくる。
「うん。問題ないな。それじゃ……ようこそ迷宮都市ルナへ。街にいる限りくれぐれも、犯罪とかを犯したりしないように」
そう言うと衛兵は自分の名前と街の名前が書かれた薄い金属製の仮身分証をわたされ、無理に作ったような笑顔で通される。
馬車が発車し、街の中へと進む。
周りには、通りを行き来している人が多い。
見るだけでこの街の人口密度は相当高いってことがわかった。
そしてその恐ろしいほどの人数を収容する為に、通りの両側には途方もなくそびえ立っている石造りのビルがたくさん並んでいる。
──その中でも一際壮大なビルも織り混ざっているのだ。
「すごいなぁ」
目の前に広がっている、ファンタジーの小説の中に出てきそうな風景を眺めながら、僕は思わず、そんなことを呟いた。
するとすぐ隣に座っているアレンは、
「だろうな」
と、それだけを言い返すのだった。
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