撮影テスト2(仮)(大学2年1月)

【大学2年1月】


 撮影テストのために、俺は3本の台本を書いた。


1.一般的な競馬予想

2.ゲストがワイワイ予想

3.おちゃらけ型


 俺としても、実際に撮影したら、どんな雰囲気になるのか見たかったからだ。今しがた撮影したのは、おちゃらけ型だ。この後、一般型と、ゲストがワイワイ型を撮影した。


 一応、今の撮影が試験撮影で、次に本番のテスト撮影をする予定でいたが、ここで、映像編集会社社長から提案があった。


「録画内容をチェックしましたが、いろいろ問題があるので、取り直ししても、今と同じモノしか撮れないと思います。むしろ、今から問題点を話し合いたいのですが、○○おれ社長、どうでしょう」


 決断権限は、俺にあるという事か。


「わかりました。それでは、撮影は、ここまでにしましょう。声優さんたちに話をしてきますので、しばらくお待ちください」


「わかりました」


 俺は、声優さん達と、声優事務所の営業さんに、終了を伝えた。


「この後、もう一度、撮影の予定でおりましたが、こちらの都合で、ここで終了になります。お疲れさまでした。こちらは、御車代です。事務所には関係のない、領収証のいらないお金ですので間違いのないようにお願いします」


 俺は、声優さん全員に、封筒を配った。ちなみに俺のポケットマネーだ。


「ありがとうございます」×4


 声優さん達は、俺の言った意味が分かったのか、皆、笑顔だった。


「営業の○○さんの方から、何かお話はありますか?」


「いえ、むしろ、○○おれ社長から、今回や今後の反省点などがあれば、お願いしたいです」


「そうですか。わかりました。声優の皆さん、改めてお疲れさまでした」


「お疲れさまでした」×4


「最近は、声優さんでも顔出しのお仕事が増えてきていると聞き及んでいます。今後、皆さんにも、そういうお仕事が回ってくるかもしれません。今日は、事務所の方も勉強のためにと、わざわざ、ウチのような小さな会社の仕事に、皆さんを出してくれました。今後のお仕事のかてになれば、嬉しく思います」


 司会以外の3人は、高校卒業後に養成所で2年間、勉強して、所属オーディションにも合格した、いわば、声優界の若きエリート達だ。昨年の4月から、事務所に所属している。まだ、新人なので、モブ役しか回って来ないが、顔がいいので、将来的な顔出し営業を見越して、今回、経験のため、事務所が参加させたという経緯いきさつがある。


 司会の声優は、事務所所属2年目で、現在、あるアニメで、メインキャラの声を当てている。新人同様、顔出し仕事の経験のために、ウチに来てくれたが、念のため、顔出しNGとなり、馬のマスクをかぶっていた。声優事務所としては、それくらい彼女を買っているのだろう。


「皆さんは声優さんなので、普段のお仕事では、台本を見ながら声を当てると聞いております。今日は、当日に台本を渡しましたので、覚える時間など、なかったと思いますが、こういう撮影では、セリフは覚えていて当たり前です。俳優さんは、皆さん、そうされています。なので、セリフの暗記が必要な仕事とあるという事を知っていただければと思います。私からは、以上です。ありがとうございました」


 俺は偉そうに語ってやった。社長だからいいだろう。


「社長、ありがとうございました。私は用事がありますので、残りますが、皆さんは。現地解散です。お疲れさまでした」


「お疲れさまでした」×4


 営業さんは、最後に映像の記録媒体を回収する仕事がある。声優さんたちは、それぞれ帰って行った。わりと可愛い娘もいたが、もう、俺との接点はないだろう。いつか、アニメのエンドロールで、彼女たちの名前を見るのを楽しみにしている。


「すいません。お待たせしました」


 俺は、待ってくれていた映像スタッフに声をかけた。


「それでは、反省会といきましょう。まず、照明さんの方から」


 今回の受注元である、映像編集会社の社長が場を仕切ってくれた。


「やはり、照明機材が足りなかったと思います。出演者が4人、横に並ぶ形でしたので、それに応じた機材の追加が必要です。それと、女性出演者の化粧ですが、テスト撮影なので普通の化粧でしたが、撮影用のメイクをしてもらいたいです」


「専用のメイクさんがいるという事ですか。どなたか、お知り合いにテレビ関係に詳しいメイクさんのお知り合いはいますか?」


 俺は、スタッフに聞いてみたが、誰も知らなかった。考えてみれば、みんな下請したうけだった。


「ウチの事務所に詳しい人がいるので、一度、聞いてみましょうか?」


 声優事務所の営業さんが助け舟を出してくれた。


「ありがとうございます。では、後日、ご連絡します」


「それでは、次にカメラさん」と映像編集会社の社長が促した。


「はい。今回は、録画を残さないという事で、カメラ1台でしたが、フリップボードのアップの時などに時間がかかるので、出来ればカメラ数台でミキサーを使いたいですね」


「ちょっと、その映像を見せてください」


 俺は、そうお願いした。


「動画サイトに投稿されているモノは、普通、こんな感じかなと素人目しろうとめに見ても違和感がないように思えますが」と、俺は私見を述べた。


「アップにかかる時間は、確かにわずかですが、5分程度の短いものですので、その間に出演者の話が進行するとタイミング的に違和感があるかもしれません。まぁ、最終的に決められるのは、発注元の社長さんです」


「わかりました。持ち帰って検討します」


「それと、フリップボードですが、出走表などは、最初から出しておいてもいいかもしれません。スタジオセットにもよりますが、どの位置に置くかも検討すべきです」


「わかりました」


「それでは、次に音声さん」


「出演者が現役の声優さんという事で、声量的に問題はありませんでした。ただ、台本を読みながらしゃべるので、見た目としてはダメですね」


「4月からの本番では、セリフは覚えていただく予定です」と俺が答える。


「声優で思い出しましたが、カメラ目線が出来てませんね。どうしても、台本に目が行ってしまうので、なかなかカメラを見てくれないんです」


 カメラさんが苦言をていした。


「今回は、テストのために無理を言って来ていただいたので、仕方ないですね。プロの俳優じゃないので。ただ、本番までに出演者には練習してもらいます」


「それと、効果音なんですか、スタジオで鳴らす事も出来ますが、タイミングもあるし、後から編集で入れた方が楽だと思うんですよ。やっぱり、編集はNGなんですか?」


 音声さんがそう言った。


○○おれ社長、私も後で言おうと思ったのですが、例えば、番組最後にスタッフロールが必要かもしれませんし、ガチの編集でなくてもいいので、動画を上げる前に、編集時間を取る事はできませんかね」


 なるほど。そう言われれば、出演する女性は、名前を売りたいはずだ。スタッフロールも必要かもしれない。また、不用意な発言があれば、ピー音を入れるとか、効果音も後入れの方がいいかもしれない。それに、映像編集会社社長も仕事ができる。


「編集問題の前に、皆さんに聞いてみたいのですが、今日は、3パターンやりましたが、皆さん、どう思われましたか?」


 俺は、スタッフに聞いてみた。


「実は私も競馬をやるので、土曜の夜や日曜日に動画を見るのですが、正直言って、素人しろうとの女の子の予想を信じて馬券を買おうとは思いません。ただ、馬女うまじょさんが、こんな理由でこの馬を選ぶのかというのは、面白いと思います。予想番組というより、予想番組の名を借りたエンターテイメント、娯楽番組という方が視聴回数は取れると思います。予想が外れても、元々、信じていませんから誰も文句は言わないでしょう」


 2人いるうちの、もう1人の照明のスタッフが、意見を述べてくれた。


○○おれ社長が台本を書かれているので言いにくいのですが、私も娯楽番組の方がいいと思います。5分ですから、競馬予想の前の息抜きといいますが、ちょっと楽しむには、いいと思うんですよね。それに、人気が出てくれば、競馬ファン以外の人も見てくれる可能性があります」


 映像編集会社の社長が、そう意見を述べた。


 俺も、ネットの競馬予想番組について、いろいろ調べている。予想のプロが出ている番組でも、登録者数は50万人程度だ。後発の素人予想番組は、当然、これを大きく下回るだろう。ならば、別の土俵で勝負するのも悪くない。そういう意味でも、予想チャンネルの皮を被った娯楽番組というのは、方向性として間違っていない。予想がメインでなければ、時間に追われる事もないだろう。


「競馬予想より、娯楽番組という方向性であれば、土曜日に時間を気にする必要はないかもしれませんね。社長(映像編集会社)、例えば、午後一番に撮影して、その後、簡易な編集をして、遅くとも午後7時にはアップ出来そうですか?」


 俺は、映像編集会社の社長に尋ねた。


「事前にタイトルロールを作っておけば、効果音を入れる程度になると思いますので、さほど時間はかからないと思います」


「なるほど。では、編集ありの娯楽番組でいきましょう」


「それと、これも後で言おうと思っていたのですが、毎週撮影するのであれば、お金はかかりますが、専用の場所と、セットがあるといいと思うんです。編集にしても、そこに機材があれば、私が自分の会社に戻って、編集してくる往復の時間が短縮できます」


「なるほど。場所はともかく、編集機材があれば便利なのは分かりました、その話は、後でしましょうか。今は、という事で話を進めましょう」


「わかりました」


 映像編集会社の社長は、嬉しそうだった。そりゃ、自分の仕事が増えるわけだからな。


「話はズレましたが、音声さんの話でしたよね。他にも何かありますか」


「個人的な意見ですが、番組最初や最後の拍手だけは、効果音でなく、スタッフ全員でやるといいと思います。手作り番組感が出るというか」


「なるほど」


○○おれ社長、そういうのは、台本で細かく指示すべきなんです。出演者も我々スタッフも、結局、台本の通りに進めますので、台本がすべてです。将来的に誰が書かれるかわかりませんが、そこも考える必要があります」


 映像編集会社の社長がそう言った。


「わかりました。一度、プロの放送作家の台本を見てみたいものですね」


○○おれ社長、参考になるか、分かりませんが、一度、アニメの台本をご覧になりませんか? 古いものなら問題ないでしょう。外に持ち出さないなら、事務所でお見せ出来ますよ」


 声優事務所の営業さんが、そう提案してくれた。


「それはありがたいです。ぜひ、お願いします」


「音声さんが他になければ、私の方から。出演者の声優さんですが、普段はアニメに声を当てているので、おそらく、アニメ映像を見てタイミングをつかんでいるのだと思います。ところが、今回、映像はありませんから、セリフのタイミングがやはり、ズレているように感じました。本来であれば、演出さんがいて、事前にリハーサルするのでしょうが、この辺りも今後の課題という事で。私の方からは以上です」


 映像編集会社の社長が、意外な所の意見を述べた。


「わかりました。検討します。他に何かありますか?」


 撮影スタッフからの意見はなかった。


「ありがとうございます。もし、後で気がついた事があれば、また教えてください。それでは、今日は撤収しましょう。本日はありがとうございました」


 撮影スタッフには、映像編集会社社長を通じて、それなりのお金を払っている。だから、彼らには、御車代は渡さなかった。社長が幾らピンねしているか、俺は知らない。


 御車代を声優達に渡したのは、彼女たちの収入が非常に少ない事を知っているからだ。


 映像記録を回収するために残っていた、声優事務所の営業さんには、お礼として、商品券を渡しておいた。会社員の彼に現金を渡すのは、よろしくないと判断したからだ。


 テスト撮影で分かったが、課題は山積みである。2月から春休みになるので、そこで対処しようと思う。



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