第14話 新たな再会

 結論から言おう。

 チェムレ国は、使徒の件もそうだが、神獣の存在も信じなかった。つまり大陸が沈むなんていうのは俺達ロクロラ側の作り話。自分達を怒らせて戦争がしたいのかとまで言い出した。

 まぁ無理もない、と……思わないでもないんだが。

 イザークはチェムレ国の国王陛下の態度が気になると言い出した。大陸が沈むのはチェムレの使徒候補の行動が原因だという話を、存在を信じるか否かとは別の理由で頑なに拒否しているような気がするらしい。

 実際に見たわけじゃないから何とも言えないけど、それってひどく怪しい気がする。


 で、結局どうしたかって言ったら、ロクロラとしても国に相談しなきゃならないのでタルトが手紙を持って飛ぶことになった。

 しかもフィオーネを迎えに行くついでに。

 たぶんタルトの中では同胞を救う一択で、もう決定なんだろう。

 俺もこのまま見過ごすつもりはない。

 魔力値が人間じゃなくなると言われても、な。


 ともあれタルトが戻ってくるまで約一日掛かるので、俺とレティシャ、ヴィンは再び街に出た。二人は俺の体調を心配したし、チェムレ側は何かを企んでいるのかって目を光らせていたが、監視が同行してもいいと言ったら、何故かレティシャ達まで納得してしまった。

 何故だ。



「今日の目的地は?」

「冒険者ギルドかな。今更だが使徒候補はSランクの冒険者のはずだから立ち寄っている可能性もあると気付いてな……」

「なるほど」

「じゃあ早速向かいましょう」

「場所は判るか?」

「昨日、教えてもらったわ」


 自分が意識を失った後に誰とどんなやり取りがあったのかを聞きながら、俺達はチェムレ王都の冒険者ギルドに向かった。

 相変わらず臭いが酷いので、自分達の周りだけ風魔法でそれを防ぐ。

 ついでに監視についた連中に話を聞かれるのも防げるので一石二鳥だ。


「カイトって器用に魔法使うよね」

「魔法は想像力だって偉い人が言っていたぞ」


 何のライトノベルだったかは忘れたけどな。


「いまの俺にも出来る?」

「練習すればたぶん? 自分達が弱い台風の目になったつもりで風の渦を起こして、移動したらついてくるように」

「たいふうのめってなに?」

「……なるほど、そこからか」


 レティシャも興味深そうに聞いているので、俺も真剣に説明の仕方に悩んだんだが、海上に発生した空気の渦が上昇気流になって~って台風の仕組は難易度が高過ぎて、終いには「何となく」「こんな感じ」「やればできる」って根性論になってしまったのは許して欲しい。

 知識チートが出来るライトノベルの主人公ってすごいな!


 そんな感じで到着した冒険者ギルドは炊き出しを行った広場からだと歩いて十分くらいの街中にあった。

 世界共通の冒険者ギルドの紋を掲げた三階建ての木造建築。

 毎朝更新される依頼書用の掲示板に、受付カウンター、買い取りカウンタ―、解体現場へ続く扉。基本的な造りはロクロラと同じだ。

 ただ、昼前という事もあり、普通に考えても人気の少ない時間帯ではあるのだが、……何というか、異様な静けさが漂っていた。


「昨日もこんなだったのか?」

「ええ、何かを警戒して息を殺してる感じ。それでも事情を説明したらその場にいた冒険者達がこぞって集まってくれたって」

「そうか」


 レティシャが実際にその場にいたわけではなく、此処まで走ってくれた女性からの説明をそのまま俺に伝えてくれているだけなので実際のところは判らないが、あの中から辛うじて生きている人々の救出に大勢の冒険者が手を貸してくれたのは事実だ。

 二人に昨日関わった覚えのある職員がいるかと尋ねたら、カウンターにいる全員が協力してくれた、と。誰でも良いなら一番空いている窓口で良いだろう。

 俺達の接近に気付いた職員が作り笑顔を浮かべて見せた。


「こんにちは、依頼のご報告ですか?」


 掲示板に近付いていない俺達の目的が依頼の受諾じゃないのは明らかだ。かと言って報告に来たのでもないけれど。


「いや、一つ聞きたい。最近Sランク冒険者がチェムレに来ただろう?」

「っ……」


 職員の顔色が変わる。

 なにか知っているっぽいな。


「差し支えなければ名前を教えて欲しいんだが」

「個人の情報はお伝え出来ません」

「なら、二人いたかどうかだけ教えてくれ」

「……お二人、いらっしゃいました」

「そうか」


 職員の視線が俺達三人を見定めるように動いている。

 俺はレティシャ、ヴィンと目線で合図し、一つ試してみることにする。

 自分の冒険者タグを取り出して職員に手渡し――。


「Sランクに受けて欲しい依頼はあるか?」


 職員の目が見開かれた。

 彼女は俺の顔と、タグを交互に見遣り、震える手でロクロラにもあった冒険者ギルド専用の魔道具にタグを通す。


「『採集師』……!」

「ああ」


 有名な二つ名に感謝しつつ、もう一度尋ねる。


「Sランクに受けて欲しい依頼はあるか?」

「……っ、ぁ、あの、少し、お待ちください」


 タグを俺に返しながら、そう言って速足で奥に消えてしまった職員は、恐らくギルドマスターにでも話をしに行ったのだろう。


「当たりかな」

「どうかなぁ」

「当たりだとしても嬉しくないものが出てきそう」

「同感」


 レティシャの硬い表情に俺も頷く。

 嫌な予感ならチェムレに到着した直後からずっとしているからな。

 しばらくして戻って来た職員のすぐ後ろには貫禄のある女性が立っていた。赤紫色の波打つ豊かな髪に、フィオーネに並ぶ魅惑的なボディライン。人物紹介では四〇代と書かれていたので、二〇代に見える外観は正に美魔女。

『Crack of Dawn』の彼女は当然のごとくマグノリアという名持ちNPCで、面識もある。

 つい最近の火蟻討伐依頼でも、MVPを獲ったランディの横で挨拶したばかりだ。


「……『採集師』。またお会い出来て光栄だ」

「こちらこそ。何か困っているなら力になるが?」

「そうだな……仕事の話はともかく、久々の再会だ。時間があるならお茶の席に招待したいんだがな。連れのお二人も一緒に」


 俺が頷くと、レティシャも。


「ご迷惑でなければ喜んで」

「俺も、もちろん」


 応じた俺達に、マグノリアと、対応していた職員の表情に浮かんだのは紛れもない安堵の色だった。

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