第2話

 旅行の最終日の午後は、別行動にしようとの提案に、彼も同意してくれた。 彼は古書店を見てまわるからと、ひと足先に大阪へ出て阪急古書のまちへ。雑貨も扱っているというカフェをいくつか見ておきたかったので、私は地下鉄とバスと徒歩を駆使して京都市内をまわった。


 タイミングよく特急に乗ることができ京阪淀屋橋駅で降りて地上へ出ると、地図を確認してから堂島川と土佐堀川にはさまれた中之島へ渡り、川沿いのみおつくしプロムナードを進んでいった。 途中市役所のある通りへと左に折れると、右手に優美なルネッサンス様式の建築が現れた。明治時代に開館し国の重要文化財にも指定されている厳かな知の神殿、大阪府立中之島図書館。  

 待ち合わせの場所だ。


「ごめん、待った」


 正面玄関の階段に腰掛けている彼の元へ私は駆け寄った。


「ギリシア神殿みたい。この柱、すごいね」


 私は正面玄関にすくっと伸びて並んでいる柱を見上げて驚いた。


「コリント式列柱だって」


 待ったともこっちも今来たとことも言わずに彼は携帯をいじって情報を呼び出している。私はいったん正面玄関から離れて道をはさんだ市役所の方へさがると建物の全体像を写した。

  黄昏時の図書館の窓に灯る明かりは、正しく人の道を照らす知の宝庫の雰囲気を漂わせている。


「近代レトロ建築遺産だね。ここでだったら読書も勉強もはかどりそう」


 写真を撮りながら、スマートでモダンなつくりのカフェもいいけれど、古い建物をリノベーションしたカフェも雰囲気があって素敵かもしれないと思った。内装を工夫して設備を整えるは大変に違いないが建物の持ち味を活かしていく方法を考えるのは楽しい作業になりそうだ。


 ひとしきり写真を撮り終えるとギリシア神殿を思わせる正面玄関から中へ入った。

 教会を思わせるドーム状の天蓋が荘厳な中央ホールには世界の賢人たちの彫像が据えられ、本館を八聖殿になぞらえて、菅原道真、孔子、ソクラテス、アリストテレス、シェイクスピア、カント、ゲーテ、ダーウィンの名が八哲として階段の正面から右回りに記されている。ここは撮影可能とのことなので、ひとしきり写真を撮ってレトロ建築を楽しんだ。


 それからバロック様式の館内を見学しライブラリーショップをのぞいてからスモーブロー専門店が運営するライブラリーカフェへと向かった。

 モーニングやランチは混むけれど、夕方からはゆったりできるという事前情報の通り、店内には小人数のグループとが一組入っているだけだった。 グループの話し声は軽やかな小声の関西弁で、店内が静まり返ってないところが、居心地よさそうだった。



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