07-1 ショタと仲良くなろう大作戦!!①

 さて、新しくお友達に成ったショタと、より親密になろう!!と、「おっ。青少年保護育成条例違反か?」とでも言いたくなる決意を固めたクリスだが、しかし彼女が、その為に何か特別な事をしたか・するのかと言えば、話は別だった。


「おは、よう。アレン、君!」


「おはよう。クリス」


 1日の間の僅かな時間。

 物乞いをしているクリスの目の前に現れるアレン。

 そんなアレンに対しクリスが行ったのは、彼と楽しくお喋りすることだけだった。

 そしてそれをかれこれ1週間以上継続して行っているのである。

 勿論それは思考を放棄したからでは無く、しっかりとした考えが合っての事である。

 人と仲良く成りたいと思うのならば、変に策略を練るよりも、自分が相手と仲良くなりたいと思っているのだと伝える。

 それはクリスの信念――とまでは言いすぎだが、こだわりだった。

 そしてそうやってアレンに接する事をデザベアも止めなかった。


「また、アレン、君の、旅の、お話、聞き、たいな!!」


「うん。良いよ。この街に来る前はアントスって街に居たんだけどね。そこは綺麗な花で有名な街で、街中に大きな花畑の広場があるんだ!」


「花畑!見て、みたい!」


「まあ今の時期だと、どうしても花畑の規模も小さく成っちゃってるんだけどね……。本当だったら、街の外にも辺り一面を埋め尽くす大きな花畑があったみたい」


「残、念」


「でも、10年後。神託祭が終わって神託王が決まれば、直ぐに花畑も元に戻る筈さ!

その時、一緒に見に行こうよ」


「楽、しみ!!」


 和気藹々と微笑みながら会話をするクリスとアレンの2人。

 その姿は、どう見ても仲の良い友人同士のそれだった。

 

 ――人の気持ちとは、良くも悪くも他人に伝わる。

 楽しい事を気分良く行っている時の弾んだ気持ち。

 気の乗らない事を嫌々行っている時の沈んだ気持ち。

 そう言った気持ちは大抵他人に悟られている――本人が隠しているつもりであっても、だ。

 だから、表面上は他者に良くしていても、内心で相手の事を小馬鹿にしているような人間は、余程上手く、それこそ役者レベルで自分の本心を隠せない限りは、他者に嫌われる。

 しかし、その逆もまた然りである。


 そう言った意味で、クリスと言う人間は他人に好かれやすい性格だった。

 人と仲良く成る事が大好きで、他者の為に自分の骨を折る事を苦にしない。

 そして何よりも大きいのは、自分が相手に好意を抱いていて、仲良くしたいと思っている事を隠さないという点だろう。

 だからクリスは最初ハナから自分に悪意を持っていて、隙あらば貶めようとしてくる相手――それこそデザベアの様な奴以外とは仲良くなりやすい。

 相手にもクリスと仲良くしようと言う意思が見られるのであれば、尚更である。

 故にこそ、日頃は色々と口煩いデザベアも、クリスのアレンに対する接し方に文句は付けなかったのであろう。

 おべっかや媚売りなんて物は、そう言った態度を計算して行う物であり、天然で出来るのならば不要どころか邪魔でしかない。


「アレン、君、には、夢とか、ある、の?」


「……笑わない?」


「笑わ、ない、よ!」


 自分の左手と、そして右手に、それぞれ一瞬ずつアレンは視線をやった。


「俺にどこまで出来るかは分からないけど、差別や偏見を少しでも無くせればな、って」


「凄、い!おっきな、夢。応援、する!」


「そ、そんな大した事じゃないよ。まだ全然力だって足りてないしさ!」


 元々、スラム街に住む子供の、友人に成りたい発言をアッサリと受け入れる程、同年代の知り合いに飢えていたアレンである。

 彼自身もクリスと仲良くしようとしており、そういった訳で、先ほど述べたクリスの素直な態度に、大分絆されていた。

 家を勘当された事だとか、左手や右手のことだとかと言った余りに重すぎる話題は別だが、自分の事をそれなりに話すくらいには、クリスに対して心を許し始めていた。


「アレン、君。優、しい、から、きっと、大丈、夫」


「ん。んんっ。そ、それはそうと、クリスの夢は!」


 真正面から褒められて、顔を赤くして照れるアレンが話を逸らす。

 夢、と言われてクリスも少しだけ考え込んだ。


「ある、よ!」


「へぇ。どんな?」


 余りディープなのを言って、幼い男の子を引かせる訳にはいかない。

 クリスはライトな夢を語る事にした。


「あの、ね!結婚、相手、一杯、欲し、い!!可愛、い、お嫁、さん、とカッコ、イイ、だん――」


「え?」


「え?」


「「え?」」


 軽いライトとは一体……?

 そんな風に質問したくなるクリスの夢に、空気が凍る。


「あの?クリス?それって……」


「?家、族、一杯、欲し、い、から」


「!!そうか。うん。クリスならきっと叶うよ!」


「???あり、がとう?」


 クリスの爆弾発言を、アレンはスラム生まれで家族が少ないが故の純粋な夢、と判断したらしい。

 違うんだ、アレン君!

 そいつは普通に、男女問わずのハーレムが欲しいだけの変態なんだ!!

 

 そんな突っ込みが届く事も無く、2人は時々「ん?」と思うような展開はあったものの、概ね仲良く和やかに会話を続ける友人同士に成っていた。







 ――そして、それを上空から見つめる悪魔が1匹。

 勿論、デザベアである。


「足りねぇな」


 そう不満気に呟くデザベアに、しかしこれまでクリスが取って来た手段に対する文句は無い。

 先ほども述べたが、クリスの天然故の他者から好感を持たれやすい態度は、デザベアから見ても中々な物だ。

 だからこそ止めなかったのだし、度し難いド変態お人好し馬鹿にしてはやるじゃないか、とすら思っている。

 或いはこのまま数年、いや1年も時間があれば【親友】と、そう呼ばれるだけの親密さを築けたことだろう。

 だが、残念ながら時間が足りない。

 アレンの母親が死ぬイベント。それがいつ起こるのかは分からないが、1年も2年も余裕があると考えるのは、流石に楽観が過ぎるだろう。

 ……まあデザベアとしては、アレンの母親が命を落とす事、それ自体はぶっちゃけどうでも良いのだが、それによって釣った魚アレンを取り逃がして、クリスの生活環境改善が成らず、自分が巻き込まれては適わないのである。

 よってクリスとアレンの仲を更に進展させるのは、デザベアにとって急務と言えた。

 だが正攻法の極みで攻めているクリスにより良い結果を出させようとするのなら、何かしら裏技めいた手段が必要だろう。


「ケケケ。ま、俺様が力を貸してやるさ」


 デザベア的に無駄に倫理観の高いクリスにそう言った真似をさせるのは難しいし、何より慣れないことをやらせても成功率が低い。

 ならばここは自分の出番だろう。と楽し気に話す子供2人を眼下に収めながら、デザベアは空中で邪悪な笑いを浮かべた。

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