第27話 妹と夜遊び
言いたい放題言い合って少し気まずい雰囲気になっても、一つ屋根の下で暮らしている限り直ぐに顔を合わせなければいけない。
それでも直ぐに元通りなんていくわけもないので、一度お互い部屋に戻ってクールダウンをする事にした。
特にやる事も無い俺は、夕方一階に降りていく。
喉が渇いたので何か飲もうと冷蔵庫を漁っていると「お兄ちゃん?」と、唐突に後ろから話しかけられた。
「お、おお」
あれだけ泣いた妹、まだほんのりと目が赤い。
俺はなんて声を掛けて良いかわからず躊躇していると、妹の方から話しかけて来る。
「……お腹空いたの? 何か作ろうか?」
「あ、いや、えっと、そう言えば母さんは?」
「お母さんは昨日から泊まりだって」
「そか、じゃあ父さんは?」
「お父さんは昨日から出張」
「マジか……」
相変わらず忙しいなうちの親は……本当に居るのか疑わしいくらいだ。
「うん……今日はお兄ちゃんと……二人きりだね」
上目遣いで俺を見つめる妹……さっきまでわんわん泣いてたが、こうしていつもの妹に戻りつつあるので俺は少しホッとした。
「いや、今日はってか、いつもだろ?」
「お兄ちゃんと……二人きりの夜……え、えへへへ」
「いや、なにもしないから」
「えーーーしないの?」
「な、何をするんだよ!」
「えっとトランプとか、ゲームとか、夜明けのコーヒーを二人で飲むとか?」
「俺達が夜明けのコーヒー飲んでも、ただの朝食だからな、てかそもそも二人きり夜なんて今まで何度もあるだろ?」
「えーーーでも、でもぉ、今は付き合ってるしい~~」
「いや一応保留って事になってるだろ?」
「付き合ってる事が?」
「別れる事が」
「ぶううう」
いつも通りとまではいかないが、いつも通りに振る舞う妹……俺に心配掛けまいと一生懸命に普通を装う健気な妹に、俺は直ぐに何かしてやりたいと思った。
「──そんじゃ、ちょっと遊びに行くか?!」
「遊び?」
「そ、今から夜遊び」
「えっと……ど、どこへ?」
「うーーん、そうだなあ……とりあえず食事はするとして、もうちょっと遊びたいよな……うーーん、ああ!そうだ! ほらボウリング場とかどうだ? あそこなら歩いて行けるだろ?」
「……」
「嫌か?」
「ううん! 行く! 行きたい!」
妹の表情がパッと明るくなる。そして満面の笑みで俺にそう言った。
「じゃあ行こう!」
「あ、ま、待って、着替えてくる!」
「えーー近所だからそれでいいじゃん」
俺の前では常に可愛い格好をしている妹、髪ボサボサのジャージ姿なんて見た事が無い。
「駄目、待ってて」
妹はバタバタと慌てる様に2階に掛け上がっていく。
元気の無い時は無理にでも出掛けて遊ぶのが一番だ。
そして待つ事20分……妹はオフショルダーのニットにデニムのジャケットを羽織、チェックのミニスカート姿でリビングに戻って来る。
「えっと……ボウリングに行こうって言ったよね俺……何故にミニスカート?」
「え? ああ、これキュロットだよ」
俺がそう言うと妹はキュロットの裾をたくしあげる。
黒のストッキングを履いているが、かなり際どい所まで俺に見せつけてくる。
「わ、わかったわかった、捲るな」
さっきの仕返しとばかりにキュロットスカートの裾をヒラヒラと揺らす妹……。
俺は動揺を隠しつつ、何でもない振りをして玄関に向かった。
なんだ、妹の太ももくらいで……何を動揺しているんだ?
裸を見たってなんとも思わないんじゃないのか?
俺の中で何かが少し変わりつつあった。
◈
知り合いに会ったらこんばんはと言う時間だが、まだ辺りは明るい。
ついこの間まで夜は寒いな、なんて思っていたが、今は少し暑いくらいだった。
「ねえ、お兄ちゃん……手、繋いでいい?」
「え? いや、えっと……まだ近所だからな」
「えーー、じゃあ腕組んでいい?」
「い、いやだから」
「駄目?」
寂しそうに俺を見る妹に、俺は断りきれず右腕を差し出す。
「へへへ」
そっと腕を絡めると思っていたが、妹は俺の腕に抱きついた。
「いや、ちょ……ま、いいか」
木から落ちない様に小猿が母親にしっかりと捕まるか如く、俺の腕にしっかりと抱き付き満面の笑みで隣を歩く妹。
こんな所を誰かに見られたらどうするんだろうか?
仲の良い兄妹で逃げ切れるだろうか?
そんな事を心配しつつ歩くこと15分、俺達はラウン……ゲームセンターやカラオケ、ボウリング場のある複合施設に到着する。
「ボウリング場の受け付けは2階か……」
1階の案内表示を見ていると、妹は俺の腕から離れ、一人ゲームセンターの中に入って行く。
「お、おい栞」
妹を引き留めようとすると、妹は俺に向かって大きな声で言った。
「お兄ちゃん! これ、これ撮ろう!」
妹の指差すその先には、派手なギャル数人がポーズを取っている大きな写真が貼られた機械がいくつか置かれている。
「プリクラ……まあ、いいか」
初めてのプリクラを妹と撮るって事に若干戸惑いつつ、こんな事で妹の機嫌が良くなるならと、機械の前で嬉しそうに待つ栞の元に歩み寄る。
「栞は撮った事あるのか?」
「うん、友達が撮りたがるんだよね」
「へーー、ああ最近はスマホに送れて、待ち受けとかに出来るんだよな?」
「……お兄ちゃんいつの時代の人?」
「え?」
「えっと今は高解像度とかでねえ、モリモリに盛ったり、動画で撮れたりするの、えっとね、ほらこんな感じ」
そう言うと妹はスマホの画面を俺に見せつける。
妹を中心に数人の女子がポーズを取っているが、あまりの目の大きさ、肌の白さに誰だかわからない。
元々目の大きな妹はまるで宇宙人の様になっていた。
「俺に……これを撮れと……」
「あまり加工しないから良いでしょ?」
「いや、寧ろわかんないくらいに加工してくれえ……って、まあ、いいかじゃあ撮るか」
「うん!」
そう言うと妹は慣れた手付きで機械を操作する。
証明写真と変わらないと思いつつ中に入る。
若干緊張しているとアニメ声の『撮るよ!』の合図と共に妹が俺に言った。
「ほらお兄ちゃん! もっとくっついて!」
「え? ええ?」
カシャリと音が鳴る。
「ああ、もう、次はほっぺをくっ付けて!」
「え? そ、そうするの?」
なんだ? 撮影の範囲が狭いのか?
妹は俺に身体を擦り寄せ、ほっぺたをくっ付けて来る。
「お兄ちゃん、ほら最後はチューーしないと!」
「……嘘をつけ!」
カシャリという音と同時に妹のオデコをツンと突っつく。
「あーーん、勿体ない!」
「ほれ、終わりだろ? 写真取ってボウリング行くぞ」
「ま、待って、これからが本番なの!」
妹はそう言うとディスプレイに映る俺達の写真に書き込みを入れる。
『お兄ちゃん大好き、ラブラブ』等とタッチペンで書き込んでいくが、操作方法が全くわからない俺は止める事も出来ずただただこの恥ずかしい時間が終わる事を待っていた。
そして受け取り口から写真を取り出すと、栞はその場でうっとり見つめながら言った。
「夢だったお兄ちゃんとのプリクラ……」
「ハイハイ良かったね、じゃあいくぞ」
「え? あ、待ってお兄ちゃん、今度はあっちの全身写るや奴でお姫様抱っこを~~」
「いい加減にしろーーい」
ボウリングするんじゃ無いのかよ?
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