第24話 金髪美女


「えーーっと、それで」

 何も言わずに外を眺める生徒会長に俺は痺れを切らしそう声をかける。


「何よ!?」

 退屈そうに俺を見ると、彼女は足を組み直し椅子の背にもたれかかりながらそう言った。

 とりあえずパンツは白と確認をして、俺は言葉を続ける。


「いや、何か話があるのでは?」


「別に……彼氏にドタキャンされたからぁ、暇潰し?」

 

「暇潰しって」


「こんな良い女と、ただでお茶が出来て光栄でしょ?」

 自分で言うか? まあ、良い女ってのは否定しないが。


「なによ!?」


「いえ、俺は幸せ者だなって」


「……ふん!」

 会長はそう言うとコーヒーを一飲みしてまた外を眺める。

 その顔がどこか切なげで、どこか寂しげで、俺は思わず見つめてしまう。

 染めたとは思えない見事な金色の髪、派手な化粧、派手な服、ブランド物のバックに高そうな指輪やネックレス……学校での姿とは正反対とも言えるその姿。

 恐らく気付く者は居ないだろう……腰で女子を見分けられる俺以外は……まあ、冗談だけど。


「あの、えっと……俺は、なんとお呼びすれば?」

 話しかけんなオーラ全開だけど、このままってわけにも行かず俺はそう切り出す。


「好きなように呼べば良いでしょ」


「とりあえず名前何でしたっけ?」


「は?! あんた自分の学校の代表の名前も知らないの?!」


「あーー、まあ、俺が選んだわけじゃ無いですし」

 選挙は確か夏休み明けだっけ?


「入学式の時に聞いてるでしょ!」


「いやあ、入学式は前日に色々あって寝不足で」


「呆れた……」


「で?」


「……葵よ」


「青井さん」


「な、か、が、わ、あ、お、い、よ!」


「おーールビ振る必要なくなった」


「……ふん」


「それで葵はなんで、あち、あちいいい」

 会長はスプーンでコーヒーを救うと俺の顔に向かって数滴かけた。


「や、火傷するだろ!」

 少し時間が経ってたから、それほど熱くは無かったけど。


「火傷で済んでよかったじゃない」


「す、好きに呼べって言っただろ!?」


「もっと敬って呼びなさい!」


「全く、それで?」

 俺はおしぼりで顔を拭うと再度聞き返す。


「別に……彼氏にドタキャンされたから、時間が余っただけよ」

 男を振る事はあっても、振られる事なんて無さそうな会長、仮に振られたとしても、一笑に付してしまうんじゃないかって思っていたが、今の会長はまる親から引き離され怯える子犬の様だった。


「あはははは、そんな格好で途方に暮れて仕方なく俺を誘ってお茶してるとかwww」

俺なんかが葵様と一緒にお茶が飲めるなんて光栄です!


「……ほんと、あんたって面白いわね」


「あああ、本音と建前が逆だった!」


「……ふ」

 殴られるのを覚悟で渾身のギャグをかますも、嘲笑される……けど、会長から感じた不安の様な空気は消えていた。


「ところで、なんでそんな格好してるんです? ズラまでかぶって」


「ウイッグって言いなさい」

 今度はムッとした表情に変わる、コロコロと変わる表情と空気に俺は構わず話を続ける。


「変装?」


「こんな格好で生徒会長に当選するわけ無いでしょ? 先生方に受けだって悪いし」


「まあ、それはそうかも知れないですけど、会長ってそういう事気にしないタイプかと」


「どんなタイプよ」


「人前でディープキスかまして燃えるタイプ?」


「妹とイチャイチャしてるのを見せびらかす変態と一緒にしないで」


「し、してねえ!」


「へーーー」

 今度は侮蔑の表情に変わる。まあ、妹の事でニヤニヤされるよりかは良い……。


「……そ、それで自分を殺してでも、うちの生徒会長になってどうするんです?」

 うちの高校はそこそこのレベルだけど、大学や就職に有利だって話はあまり聞かない。


「言いたくないわね」

 会長はそう言うと背もたれから背中を離し、テーブル越しに顔を俺に近づけると、手を伸ばし俺の顎をなぞり、妖しい顔でほくそ笑む。


「それとも……この後、力ずくで言わせてみる?」

 本で読んだ妖艶というのはこういう事なのだろう……真っ赤なルージュが塗られた唇から、赤い舌をチロリと出し、自らの唇を一周ゆっくりと舐める。

 

「──む、胸……見えてますけど」


 精一杯の強がりで攻撃するが、それがどうしたとばかりに彼女は俺の額を軽く指で弾く。


 そして、再び椅子に腰掛け、冷めたコーヒーをひと飲みする。


「……今日、妹さんは?」


「えっと、友達と遊びに行ってますが」


「……そ、あんたと違って友達多いものね」

 なななな、なんで知ってる!


「そっちはどうするんだ? 彼氏とは」

 

「さあね……まあ…………終わりかな」

 会長はそう言いながら高級そうな時計を見ると、ゆっくりと席を立つ。


「じゃあ、またね」 

 そう言うと会長は俺に振り向きもせずに店を出た。

 終わりというのは彼氏となのか、それとも俺とのこの時間なのか?

 

 まあ、少なくとも今わかっている事は……また、がありそうな事と、そして……。


「コーヒー代俺持ちかよ!」

 

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