閑話 メリークリスマース!(クラッカー爆鳴らし)

 メリークリスマース!

 パパンパンパンと、俺とミツ、用意してきたクラッカーを盛大に鳴らす。


「見るがいい、この、指と指の間に挟みこんでの一手五連装クラッカー!」

「何という連射性能。しかも両手でだって? どうやってヒモを引くんだ!?」


「こうだァァァァァァァ――――ッ!」

「こ、これはァッ、バカな、両手のヒモを、歯で噛んだだってェ――――!」


 パパパンパパパンパパパンパン!


「見たかミツ、これぞ俺のメリークリスマス究極祝福奥義、両手十連装クラッカー爆撃~主婦からの白いまなざしを添えて~、だァァァァ――――ッッ!!!!」

「ま、負けた。僕の負けだ。何という、お祝い性能だ……」


 腕を組み、勝ち誇る俺の足元で、ミツはわざわざ四つん這いになってうなだれる。

 それを離れた場所で見ていた音夢が、俺に向かって尋ねてきた。


「その主婦の白いまなざしはどこから来たのよ……?」

「いや、何かそういうのってシェフってよく付くから、何となく?」

「ダジャレにもなってない……」


 俺が答えると、音夢は何故かグッタリとした様子で肩を落とした。

 というワケでメリークリスマスなのである。

 12月24日、夜。聖なる夜。性なる夜。醒なる夜ってんだよ、眠気皆無だい!


「いやー、すまんね。わざわざウチまで来てもらって」


 そう、このたびの高校二年度クリスマスパーティー、会場は我が家なのだった。

 ウチのじいちゃんがギックリ腰やらかしたとかで、両親はそっちに行ってる。


 やべぇ、今夜俺一人じゃん。

 マジかよ。一夜限りとはいえ一国一城の主かよ、俺。この家の所有者じゃん。

 番犬ストラッシュはもうすっかり寝コケているので、完璧じゃん。


「――と、いうワケでメリクリなのに独り身が寒々しいので貴様らを呼んだ」


 俺は、ミツと音夢に向かって率直に告げた。


「うんうん、人恋しくもなるよね、そういうときって」

「だからって急遽クリスマスパーティーに誘われるこっちの身にもなって欲しいわ」


 穏やかに笑いつつうなずくミツと、腕を組んで難しい顔をしている音夢。

 しかし俺は知っている。

 そうは言いつつも、音夢がしっかりプレゼントを用意している事実を。


「おまえねぇ、ツンデレっていうのはもう古典も古典よ? 古今和歌集よ?」


 だから俺は音夢に、その態度がいかにレトロチックであるかを説明してやった。


「やかましいわよ」


 閃光の如きローキックをくらった。まさか、反省を促されている!?


「バカだなぁ、音夢。相手はトシキなんだから適当に相槌打ってればいいんだよ」


 って、ミツッ!!?

 穏やかな顔で俺をわかった風だったのに、何でそんな軽やかに裏切れるの!?


「うおおおおお、許せねぇ! こうなったらメリクリするために近くの百均巡り尽くして買い込んだクラッカー残り三桁個、一気に鳴らし続けて騒音公害してやる!」

「お~、やれやれ~」

「勝手にやってなさいよ……」


 ミツは笑顔で拍手し、音夢は呆れた風にかぶりを振る。

 いいんだな、おまえら。俺は本気だぞ。本当に本気だぞ。本当に真剣に本気だぞ。


「…………」


 二人とも止めてくれない。


「ウオォォォォォォォ――――! やったらぁ、見さらせコラァッッ!」


 パパパンパパパンパパパンパパパン。

 パパパパン。パパパパン。パパパパパン。パンパパンパパパパン。パパパン。


「…………」

「…………」


 パパパパン。パパン。パパパン。パンパパパパパパン。パパン。

 パパパンパパパン。パパン。パンパパン。パパパパパン。パパンパパン。


「…………」

「…………」


 パパンパパン。パパンパパン。パパン……、パパパン……。


「…………」

「…………」


 パン。パパン。パン……。パン…………。


「…………」

「…………」


 俺はクラッカーを床に叩きつけた。


「おまえらは俺にどうしろって言うんだァァァァァ――――ッッ!!?」

「で、出たー。トシキの逆ギレ芸だー」


 棒読みカマして、俺の怒りにさらなる燃料を注ごうとしてんじゃねぇぞ、ミツッ!


「うん、こうなるわよね。知ってた」


 そしておまえはおまえで、さもありなんとしみじみうなずくな、音夢ッ!


「クソォ、おまえら本当は俺に『性なる六時間』を邪魔されて恨んでるんだろ! クリスマスデートを邪魔されて、はらわた煮えくりかえってやがるんだろォ!」

「「ないない」」


 ミツと音夢は、揃って同じような呆れ顔で、同じように手を振った。

 クソ、カップルめ、リア充共めッ! この胸に滾る怒り、貴様らにはわかるまい!


「っていうか、ねぇ、三ツ谷君?」

「うん、そうだね。音夢」


 カップル二人が、何か通じ合っているように互いに顔を見合わせている。

 何だ、何が言いたいんだ。この孤独な俺に、貴様らは何を言おうというのだ!


「何だよ、言いたいことがあるなら、言ってみろ!」

「「じゃあ、言うけど」」


「おう、言ってみやがれ!」

「「今って、別にイブじゃないし?」」


 グワァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――ッッッッ!!!?


「あ、死んだ」

「弱い……」


 床に倒れ伏した俺に、上からミツと音夢が声をかけてくる。

 そう、今日は24日だが、今は別にイブじゃない。さっきまで23日だったから。


「イブイブよね」

「そうだね、イブイブだね」


 二人の視線が、俺に集中する。


「「何で間違えたの?」」

「う、うるさい。俺をそんな目で見るな、見るんじゃないぃ~!」


 言えるか。

 俺一人になってテンション上がって勘違いしちゃって、二人呼んじゃったとか。

 そんな恥ずかしいこと、言えるワケないだろォ~!


「これは、あれね」

「そうだね、あれだね」

「「一人になってはっちゃけた結果、勘違いに気づかなかったやつ」」


 グゲェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ――――ッッッッ!!!?


「あ、また死んだ」

「当たってしまったのね。急所に……」


 おう、当たったとも。

 急所も急所、命中イコール即死の大当たりよ。あー、俺死んだわー。即死だわー。


「う~ん、どうしようかしら。これ……」

「トシキが死んじゃったなら仕方がないよ。僕達はおいとまするしかないよ」


 え。


「そうね。せっかくプレゼント持ってきたけど、無駄になっちゃったわね」


 え。え。


「僕達はいない方が、トシキもきっと一人を満喫できるよ。帰ろう」


 え。あ。え。


「それじゃあ、橘君。私達、帰るわね」

「明日はクリスマスデートだから、悪いけど遊べないよ、それじゃあね」


 そうして、ミツと音夢は寝転がってる俺に背を向けようとする。

 俺は反射的に飛び起きて、二人の服を後ろから掴んで引き留めてしまった。


「「何?」」


 クルリと振り返った二人は、どっちもニコニコ笑っていた。


「か、帰らないでぐだざい……」


 俺は羞恥心に顔を赤く染めながら、それでも、二人に向かって言うのだった。


「仕方ないなぁ、トシキ太くんは~」

「全く、橘君ははしゃぎ過ぎなのよ。少しは落ち着きなさいね?」


 ミツと音夢は、そう言って帰るのをやめてくれた。

 結局、勘違いはあったが、俺は二人と遊べる機会を逃したくなかったワケで。


「よっしゃ、マリカすっか!」

「ああ、いいね。罰ゲーム付きでやろうよ」


 俺は提案し、ミツがそれに乗ってくれようとする。

 しかし、ゲームを持ってこようとする俺の前に、音夢が立ちはだかった。


「え、何?」

「下」


 音夢が下を指さすので見たら、そこにはクラッカーのクズが床中に散っていた。


「お掃除、してからね?」

「あ、はい……」


「トシキすごいね! マリカより先に罰ゲームなんて、前代未聞だよ!」

「うるせぇぞ、ミツッ!」

「はいはい、さっさとお掃除してね。そうしたら、プレゼント交換会しましょう」


 高校二年のイブイブは、こうして楽しく騒がしく、過ごした。

 ちなみに、イブはじいちゃんを見に行った親父がギックリ腰になったため、俺もじいちゃんチに呼ばれて、そこで過ごすことになったのだった。


 ……何やってんだよ、親父ィ。

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