第23話


幼い頃から休暇で生徒のいないアナキントス学園を遊び場にしていたアリシアだったが。

最高位の魔法学園の学園長を祖父にもっているアリシアだったが。

魔法に触れたのは入学してからだった。


「アリシア。そこは単語が重複している」

「あっ、はい。ありがとうございます」


魔法呪文学の座学では、古語を並び替えて呪文をつくる。

今回の課題は空中を一回転する魔法の構築だ。

単語ひとつで魔力が消費される。

そのため無駄な重複は魔力を消費するため、出来るだけ避けた方がいい。


重厚な音を響かせて鐘がなり、魔法呪文学の授業が終わった。


「この時間に構築出来なかった生徒は次回までに呪文を完成させるように。授業は実践、地下魔導室第3エリアで呪文を披露してもらう」

「「「はい!」」」

「ポイントは完成の有無。呪文をどこまで削り、精巧な出来になっているかで決める。魔力の消費が一番少なかった生徒に追加ポイントを用意する」

「「「はい!」」」

「では今回の授業はここまで」

「「「ありがとうございました!!!」」」


起立し、教室を出ていくクラッフィに立礼する。

今日の授業は魔法呪文学で最後だ。

寮に戻って自室で続きをするか、先にホールで食事をとってから自室に戻るか。


「アリシアはどうする?」

「私は3番目。ホールで食事してから売店で夜食を買って部屋に戻る」

「明日は? せっかくの週末よ」

「カリーナ。週明け1番目の授業は何? もう課題は終わったの?」

「…………終わってるわけないじゃない」


アリシアは「遊んでいる暇はあるの?」と聞いているが、そこには隠された言葉が含まれている。

カリーナは前回の授業でレポートを完成できなかった。

その罰として追加の課題を出されたのだ。

前のレポートもまだ提出しておらず、追加の課題も手付かずのままだろう。


「わかっているなら誰でもいいから手伝ってよ」

「「「ムリ!!!」」」


まだ教室に残っていた生徒たちが声をそろえる。

キリのいいところまで構成してから、アリシア同様3番目の流れで自室か自習室に籠るつもりだ。

そしてそのまま徹夜経由寝落ちのルートを辿るのだろう。


週末に遊びたければ、出された課題を片付けてから。

それはどこの世界でも同じこと。

日頃から出された課題を片付けているアリシアだったが週末は遊んでいられない。

課題の完成もそうだが【くすりやさん】の仕事があるからだ。

それに、普通に出された課題をグループ研究として数人一緒にすることは認められている。

しかし、罰でだされた課題を手伝うことは許されていない。

グループ研究として複数人で完成することも認められていない。


何より、自分がらくをしたいからという隠しきれていない理由が見えていることと、ここはまだ授業が終わったばかりの教室で教師の管理下にある。

そんな場所で「誰か手伝ってよ!」と喚かれてもムリなのだ。


「まだ騒いでいるのか。そろそろ閉めるぞ」


クラッフィが隣の私室から出てきた。

断られても誰かに手伝ってもらおうと騒いでいるカリーナから、辟易している生徒たちを解放するためだ。


「カリーナ、また君か。先週も最後まで騒いでいたな」

「だって、先生。私が困っているのに誰も課題を手伝ってくれなくて……」


クラッフィの目がカリーナに固定される。

先週とは、出された課題を誰か見せてほしいと頼み回った件だ。

誰も課題を見せることはなく、結果カリーナは課題が提出できず。

誰かの課題を写した場合、誰が書いたもので誰が写したのか。

貸した者から同意を得たものか。

その際に脅して奪っていないか。

誰かのレポートを丸写ししてもそれは本人のためにならず、身につかないとわかっているからこそ新入生の前期では見逃されている大目に見ている

後期に入って授業内容が前期の応用になっていけば、基礎が身についていない生徒が授業から遅れていくことを教師は知っている。

その前に前期の授業内容を身につけて後期に臨む生徒もいる。

そんな生徒は理解力が遅いだけで、理解すれば飛び抜けて成績があがる。

身につけ方は人それぞれ。

それをかすか殺すかは本人次第であるとともに、生徒を見守る教師の適切な導きが必要になる。


生徒は気付いていないが、一部を変えていたとしても全体的なレポートの流れは作成者の個性が出ているため、目を通していれば分かるものだ。

たとえ巧妙に細工していて教師が気づかなくても、魔導具の中には本物と偽物を見分けるものがある。

罰は与えられないが、ポイントは加算されない。

よって、誰も写すことを良しとしなかった。

提出ができなかったために与えられた罰の課題は、自分ひとりでこなす必要がある。

そちらは誰かが手を貸せば減点される。

カリーナがいま求めているのは、その罰で出された課題の協力者だった。

減点されるのがわかっているのに、誰が手を貸すというのか。


「それほどここから出て行きたくないならここの掃除を命じる」

「えええー!!!」

「ほかの生徒は出なさい。掃除の邪魔だ」

「「「はい」」」

「「「失礼しまーす」」」

「週末は各々にとって有効な時間を過ごすように」


クラッフィの言葉に従い、教室を後にしていくクラスメイトたち。

それに慌てて手伝ってくれるよう懇願するカリーナだったが、それをクラッフィは許さなかった。

この掃除も罰なのだ。

いくら善意であっても罰に協力はできない。

そして激励のようなクラッフィの言葉。

言い換えれば「カリーナの課題に協力する必要はない」というもの。

魔法呪文学だけでなく、ほかの教科で出された課題すべてに対してのこと。

それに気付いたカリーナは絶望に近い表情になり、クラスメイトは安堵の表情を浮かべて教室から出ていった。

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