第17話


バグマンが新入生としてヴェロニカから所属クラスを教わって時間割表を受けとったのち、男子寮長に男子寮へと案内された。


「明日からは自分で行動していただきます。すべての行動には責任がついてきます」

「それはどのようなことでしょう?」

「授業ごとに教室が変わります。共同授業以外はクラスごとに担当の先生も変わります。同じクラスでも違う先生からご教授されることもあります。その授業で一番気をつけることは、時間に遅れれば授業を受けられない点です。遅刻を繰り返せば単位が貰えず、留年となります。その場合、翌年に進級できたとしてもその教科は別の先生から受けることとなります」


ただ、そこには落とし穴がある。

ある教科によっては単位不足を理由に進級自体が認められない。

事実上の退学だ。

それがどの教科だったのかは退学を言い渡されたときにわかるという。


「その場合、魔力を封じられて『魔力を使わなくても暮らせる国』へと強制出国させられます」


それは、この魔法世界において無能を意味する。

主に犯罪者が送られる牢獄か、それと同等の処分でもある。

唯一違うのは檻の中か外かという点で、どちらも塀に囲まれた孤島で生活をしていることに変わりはない。


「ヴェロニカ先生より伺ったと思いますが、新入生でも選択授業はあります。授業によっては上級生と同じ教室で受けることもあります。きみの場合、選択授業は飛行術と占星術なので同級生と同じ教室です」


バグマンは説明を受けると同室の生徒と引き合わされた。

寮室によって使う階段が違う。

踊り場で三叉路になっていることもある。


「これを覚えるのか……」


階段を上がりきって部屋の扉のある踊り場で激しい呼吸を繰り返すバグマン。

ルームメイトたち4人も座り込んで呼吸を整えていることから、彼が体力不足だからではない証明にはなるだろう。

踊り場まで約30段、を20階分上ってきたのだ。

この正しいルートで上がることで鍵のない寮室の扉が開くのだ。


「せ、んぱいが……いうに、はさ。……はあ、っはあ。魔法で階段を動かせるようになれば、階段が勝手に、上がってくれるって」

「ああ、王城でみた……はああああ。早く、その、まほ……覚えてえ」


残念ながら、その希望は簡単には叶わない。

それもそのはず、この苦しみを分かりあうことも共同生活のひとつだからだ。

それを知らないバグマンたちは、まだ知らぬ魔法に夢を持っていた。


上級生に教えを請わない彼らは知らない。

寮の階段は、1段乗って手すりに手を置けば自動で上がる魔導具だということを。

これは新入生にとって一番最初の試練であった。

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