第14話

「おい、お前ら」


背後から聞こえた声に、ホールへ向かっていた女生徒たちが振り向く。

そして自分たちに呼びかけた相手を見て不快そうに眉を顰めた。


「……なによ」

「男子寮まで案内しろ」


命令口調のバグマンに、呼び止められた3人の女生徒は冷ややかな目を彼に向ける。

その行為はバグマンには地雷だが、昨日の今日で問題を起こすわけにはいかない。


「私たちが男子寮の場所を知るわけないでしょ」

「そうよ。聞きたかったら男子に聞けばいいじゃない」

「行こ行こ。私たちとクラスも違うんだから」

「クラス……? 発表されたのか」


離れようとした女生徒たちはバグマンの言葉にアレ? という表情になり立ち止まると顔を見合わせる。


「先生か誰かに聞いてないの?」

「聞いてない。いまやっと医務室から出してもらえた」


ボブヘアの黄緑色の前髪に星形の髪留めをしている女生徒に素直に説明する。

するとまた互いに顔を見合わせた。


「まず、ご飯にしたら?」

「食事は先生たちも一緒なのよ。いなかったら待ってればいいわ。そして先生に学園内の地図を貰うといいわよ」

「誰か同じ地域から来ていない?」

「いや……よくわからない。いたのかもしれないけど、最終列車に乗ったときは知っている顔に会わなかった」


3人は不思議なことに、さっきまでのように突っぱねる態度を取らず逆に親身になって話しかけている。

そのことにバグマンは驚いていたが、3人の女生徒にしてみれば逆だった。


「普通に話してるね」

「とりあえず知ってることは教えてあげよっか」

「でも男子に聞いた方がいいよね」

「先生に聞いた方がいいよね」


3人は頷き合うとバグマンを連れてホールに入った。

そして同じテーブルで……女生徒3人とバグマンひとりという向き合う形であったが、夕食をとりつつクラスや自分たちが探索して聞いたり知った内容をバグマンに親切に教えた。


ホールに入ってから、前日のことがあって遠回しにみたりヒソヒソと話していた。

それをみてもバグマンはなぜか(嫌だな)とは思うものの(不愉快だ!)と思うことも、今までなら魔法を使って解決していた気性の荒さも生まれなかった。


「私たちが知ってるのはそれぐらいよ」

「クラスが違えば時間割も違うし。同じ教科でも受け持つ先生が違えば教室は違うから、私たちの教室の場所を教えても意味ないわ」

「……いや、ありがとう。それと……昨日はごめん、怖がらせて」


バグマンは自分の口から謝罪の言葉が出てきて驚きつつも、何かがと胸の奥に落ちてきた。

誰もが驚きで声が出なかったものの、それも数秒のこと。


「それ、みんなにも謝ってね」

「あ、ああ」


茶色の髪をうなじで縛っている女生徒の言葉にも当然のように頷くバグマン。

その表情は困惑しているようだったが、3人はそれでも謝罪をされたことに違いはない。

バグマンに「じゃあ、許してあげる」と言われるとバグマンは勢いよく立ち上がった。

椅子が勢いよく倒れたが、そんなことを気にする生徒は誰もいない。

バグマンは深く頭を下げていたのだ。


「昨日は怖い思いをさせてごめんなさい!」


シンと静まり返るホール。

バグマンは逃げ出したい思いを押さえつけて頭を下げ続けた。

逃げ出しても学園から逃げ出すことはできない。

たとえ学園から逃げ出せたとしても行ける場所などない。

バグマンを引き取った叔父の家も、居心地の良い場所ではなかった。


(父さん、母さん。勇気を分けてくれ)


震えながら、誰かが何かを言うのを待っていた。

たとえ「許さない」と言われても、それは自分が蒔いた種だと思おう。

バグマンはまるで生まれ変わったように態度を改めていた。


パンッ

パンパンッ


誰かの拍手が響くとそれに合わせて拍手が広がる。


「間違えても、それに気づけて謝罪できる。それこそだよね」


バグマンは耳に届いたこの声に覚えがあった。

あの正論を吐いた女生徒の声である。

驚いて顔を上げたバグマンは声の主を探して目を泳がせる。

彼女は最初に拍手が聞こえた方向にいた。

ただし、彼女が最初に拍手をしたのかは分からない。

話に夢中になっているせいか、両手は合わされて止まっていたからだ。

その方向には何人もの生徒たちがおり、彼女と同じテーブルには学年を超えた交流が生まれているようだ。

先ほど聞こえた言葉もバグマンに向けたものではなく、同じテーブルに座る生徒たちに向けたものだったらしい。

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