第37話 月影からの迎え

(車内)


 映像を見終えたころ、ちょうど日が暮れて真たちは野宿の準備をする。


「よし。テント張り終わりました」


「ありがとう真くん。ごめんね疲れてるのに」


「気にしないでください。それで飯の方は?」


「セイラちゃんが作ってるよ。セイラちゃんご飯作れたんだね。材料はあったけど真くんと会うまでは保存食とか携帯食料だったからね」


「あぁ、なるほど。ちなみにセイラは眠れてましたか?」


「あー、えっとね、……まぁ、大丈夫だったよ?」


 姉川は顔をそらしながら棒読み気味に話す。そんな姉川の様子に大体のことを察して真は頭を下げる。


「本当にすみません。迷惑かけたみたいで」


「いいよいいよ気にしないで。真くん、なんか雰囲気変わったね」


「そうですか?」


「うん。なんか昔はもっとトゲトゲしてた。けど今はなんか柔らかく?なった気がする」


「それって褒めてますか?」


「褒めてる、褒めてる」


 二人が話しをしていると、ロウガが近づいてくる。


「『主、姉川殿。食事が完成いたしました』」


「了解。行きましょうか、姉川さん」


「うん。セイラちゃんのご飯楽しみだなぁ~」


 二人はセイラたちの元に向かった。


 _______


真は座っているいばらに近づく。


「よ、いばら。飯の方はどうだ?」


「順調よ。って言っても私は手伝いだったんだけど、セイラが何でも出来るからほとんど手伝うこと無かったわ」


「セイラは手際がいいからな」


 真は折り畳み式の椅子を広げていばらの横に座る。

 するとすぐにセイラが料理を乗せた皿を持って真っ先に真の元に近づく。


「マスター、どうぞ今日の夕食です」


「ありがとうセイラ」


 今日の夕食は白米、コンソメスープ、サラダ、そしてトンカツだ。


「おぉ!美味しそうだね」


 姉川さんはいばらの反対側に座り食事を受け取る。そして空が姉川の隣に座り、その横にロウガが地面に座る。

 最後に食事を配り終えたセイラが真と姉川の間に座り、真ん中に置かれたランプを囲んで食事を始める。


「「「いただきます」」」


 各々は好きな物から手を付ける。ちなみにロウガは生肉を食べている。


「お味はどうでしょうか?」


「美味いよ。さすがセイラだ」


「ありがとうございます」


 セイラは無表情ながら傍から見ても分かるくらいには喜んでいる。


「うん。本当に美味しい」


「……美味しい。本当に料理に慣れているのね」


 姉川もいばらも、そして無言ながら空もセイラの料理に舌鼓を打つ。


「「「ごちそうさまでした」」」


 一同は料理を終え、食器を洗ったり食後のコーヒーを飲んだりする。そして一段落し、真の隣に座るセイラが思い出したように口を開く。


「マスターこちらを。タイミングが無くて渡すのを忘れていました」


「これは、端末か」


 セイラが真に渡したのは異世界用に作られた携帯端末。

 真は端末の電源を入れる。そして生体認証を行いロックを解除する。

 すると早速電話がかかってくる。表示された名前は忍田黒仁。


「……もしもし。こちら異能部隊隊長、開花真です」


「もしもし。元気そうで何よりだよ真」


「お、お父さん!」


 黒仁の声にいばらが反応する。真はそんないばらに配慮して通話をスピーカーに返る。


「やぁいばら。いばらも元気そうで良かった」


「お父さんっ、あの……」


「色々と聞きたいことはあるだろう。けどその辺りは帰ってきてからにしてほしい。すまないね」


「……分かった。けど帰ったら絶対に説明してもらうからね!」


「もちろんだ。さて、本題に入ろう。現在迎えを用意している。なので君たちには出来るだけ広い場所に居てほしい」


 その言葉聞き真は空の方を向く。空は小さく頷く。


「了解しました。明日中に移動を完了させます」


「うん。ただ無理はしなくていいからね。そして最後に、レーショウ、空、姉川、ロウガ。真といばらを助けてくれてありがとう。無事に帰ってくるのを待っているよ」


 そうして通話が切れた。


「……」


「どうしたいばら?」


 いばらは端末を上着のポケットにしまう真をじっと見る。 


「あんたがお父さんと堅苦しい会話してるなぁって思って」


「お前の前では普通の叔父と甥の会話しかしなかったからな」


「それも私のため?」


「お前のためだった。でも今更そんな気遣い必要ないだろ?」


「そうね。もう大丈夫」


 真はいばらとの会話を終わらせて立ち上がる。


「そろそろ休もう。見張りは頼むぞ、ロウガ」


「『お任せください』」


「じゃあ女性陣はテントで。俺と空は車内で寝るか」


 真が車に向かって歩こうとすると、ガシッとセイラに手を掴まれる。


「お待ちくださいマスター。現在私はかなり魔力を消費しています。早急な回復のために出来る限り近くに居ることを提案します」


「なるほど……」


(確かに真価解放で繋がっている俺たちは近くにいる方が力の回復が早まる。それに迎えが来ると言ってもその間に魔物が襲ってくる可能性もある。満足に戦えるようにはしておきたいか)


「分かった。それじゃあセイラも一緒に車内で」


「待て!」


 真の言葉に空がストップをかける。それもかなり必死に、ノータイムで。


「どうした空?いきなり大声で」


「少しやりたいことがある。休むならテント張って眠れ」


「そう言うことなら、テント張るか。あ、パソコンあるか?」


「あぁ、どっちも車に積んであるぞ」


「じゃ適当なの持っていく。行くぞセイラ」


「イエスマスター」


「ちょっと待って!」


 真とセイラが車に向かおうとした瞬間、いばらが声を上げる。


「本当に二人で寝るの!?」


「そう言っただろ?」


 真は当然だろ?と首を傾げる。


「いや、でも仮にも年頃の男女だし……」


「……あぁなるほど。別にお前が気にしてることは起きないぞ。普通に寝るだけだ」


「……本当に?」


「本当だ。そんなに疑うならいばらも一緒に寝るか?」


「えっ!?」


「マスター?」


 いばらは驚きの言葉を出し、セイラは冷たい眼を真に向ける。


「いいだろ。実際に見れば納得するだろ。それに魔力回復ならいばらも必要だろ?」


「まぁ、そう言うことなら一緒に寝てあげる」


「……分かりました。非常に不愉快ではありますが、マスターと共に眠れるなら良しとします」


 何故か上から目線な言い方になったいばらと自分から魔力の話を出したので断ることが出来ないセイラを連れて、真は車に向かった。


 ________


「テント張れたぞ。セイラ、布団を敷いといてくれ」


「イエス。では準備をしてきます」


 セイラは寝具の入った袋を手にテントの中に入る。

 真はテントの外でパソコンを開きキーボードを叩く。


「寝るんじゃないの?」


 そんな真の様子を見ていばらが声をかける。


「寝るぞ。報告書を書いてからな」


「報告書?ってなんの報告をするのよ?」


「異世界についてのことだ。主には魔力やスキルのことだな。他にも得た情報は全て報告する」


「へぇー……」


 いばらはパソコンを覗き込む。そこに書かれていたのはクラスメイト全員のスキル。訓練の内容。王城の地形。魔物、スキル、魔力などなど。本当に全てのことが書かれている。


「凄っ。クラスメイト全員のスキルとか訓練の様子とかよく覚えてるわね。それにこの国の歴史とかは聞いた覚えがないんだけど?」


「その辺の情報は俺が独自に動いて集めたものだからな。……よしこれで終わりだ」


 パソコンを閉じ、真といばらはテントの中に入る。


「マスター。就寝の準備整いました」


「ありがとう。それじゃあ寝るか」


 三人は真を真ん中、左右にセイラといばらが真を挟む形の川の字で眠る。


「……なんか、あんたと一緒に眠るの久しぶりね」


「そうだな。十年ぶりくらいじゃないか?」


「確かにそれくらいね。あの頃はまさか異世界で一緒に眠ることになるとは思わなかった。……一人増えてるけど。というか口はさんでこないけどセイラは寝てるの?」


 いばらは少し体を上げてセイラを見る。


「マスター、ますたぁ~……」


 いばらの目には真に抱き着きながら寝言を呟いているセイラの姿が映る。


「……寝てるのよね?」


「あぁ寝てるぞ。ただ寝言は久々に聞いたな。いつもは静かに寝てるんだけどな」


「それっていつも一緒に寝てるってこと?」


「たまにな。昔はうなされてたから一緒に寝ていたが、最近は俺の布団にいつの間にか潜り込んできてるんだよな」


「なにそれ羨ま、……うなされてたって?」


「セイラも俺と同じなんだよ。異世界転移によって両親が行方不明になったんだ」


「……そっか。それで真がセイラを助けて一緒に居るようになったのね」


「なんだ、セイラに聞いてたのか?」


「少しだけね。……叔父さんと叔母さんはこの世界に居るの?」


「分からない。だが俺たちは異世界転移でこの世界に来た。なら父さんたちもこの世界に居るはずだ」


「すぐにでも探し出したい?」


「したいよ。でも、今は居場所が分かっている奴らを救う」


「それってクラスメイト達のこと?でもみんなあんたをバカにしてたのに」


「別に気にしてない。あいつらは何も知らないんだからな。それに命が掛かってるからな、つまらない私情で判断はしない。それと、あいつらにだって家族が居るんだ。あいつらのことを心配してる家族がな」


「真……。分かった私も手伝う」


「クラスメイトを救うことか?」


「それもだけど、叔父さんたちのことも。私も結構あんたに借りがあるから、少しでも返したいの」


「危険だぞ?」


「大丈夫よ。セイラよりも射撃のセンスがあるし、【治癒】なんていう力も持った、それに、私は月影トップの娘なんだから」


「確かにな。なら、頼りにさせてもらうよ。ただ一応トップから許可は得ろよ?」


「分かってる。お父さんなんてちょっとお願いすればすぐに了承してくれるわよ」


 口角を上げながら話すいばらを見て、さすがはトップの娘だと感心しながら眠りについた。


 _________

(翌朝)


「ん……。朝か」


 真が目を覚まし体を起こそうとする。だが、


「ますたぁ~……」


「真くん……」


 セイラといばらに左右から身体を抱きしめられて起き上がれない。


「セイラはかなり力を使わせたし、いばらは戦闘に真価解放に色々と疲れが溜まることばかりだったしな。もうしばらく寝かせておくか」


 真は疲れている二人を起こさないために、大人しく体を倒したままにする。

 そうしてしばらく横になっていると、外から足音が近づいてくる。


「『主。起きていますか?』」


「ロウガか。あぁ、俺は起きてるぞ。ただ二人が……」


「ん、マスター?おはようございます」


「ふわぁ~。もう朝?」


 真とロウガの話声で二人が起きる。


「おはよう二人とも。身支度したら出て来いよ」


 真は自由になった体を動かし、テントの外に出る。


「『おはようございます主』」


「おはようロウガ。夜に不穏なことはなかったか?」


「『問題はありませんでした。静かな夜でしたよ』」


「そうか。……よし、少し運動するか」


 真は体を伸ばし準備運動をする。


「『運動ですか?』」


「あぁ、ちょっと付き合ってくれるか?」


「『もちろんです!』」


 準備運動を終えた真とロウガは軽いランニング、お互い寸止めの戦闘訓練などをしているとセイラといばらがテントから出てくる。


「朝からよくやるわね」


「マスターですからね。私たちは朝食の準備をしましょう。手伝ってください」


 そうして異能部隊はセイラといばらが用意をした朝食を取った。


 

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