第31話  ロウガの真価

 魔物からの襲撃も無く、無事にダンジョンの外に出ることが出来た。


「うっ、太陽が眩しいな」


 真は両腕に美少女が絡んだままの状態で車まで向かう。


「お前どれくらいこの中に居たんだ?」


「だいたい一日、二日くらいだな。中に面倒な奴が居て結構下の方まで落とされたからな」


「お前が面倒って、いったいどんな奴なんだ?」


「ざっくり言うと、弾丸も刃物も通らないデカくて速い牛の化け物だ。ついでにデカい斧を振り回してくる」


「何だよそれ、お前よく生きてるな。いやお前なら当然か」


「異能のおかげだな。それが無かったら死んでたよ」


「お前でそれならこの世界はかなりやばいな」


 真と空が話している間に車に着く。


「二人ともさっさと乗れ。そして腕を開放してくれ」


「……分かった」


「……イエスマスター」


 二人は返事をするが、中々真の腕から離れない。


「二人とも早く乗ってくれないか?」


「……あんたさっさと車に乗りなさいよ」


「あなたの方こそ疲れが溜まっているでしょう?お先に車へどうぞ」


 二人は睨み合い互いに真から離れようとしない。


「『なぜあの二人は車に乗ろうとしないのでしょうか?』」


 ロウガは二人の様子を見て姉川に尋ねる。


「そりゃあ女の戦いだからね」


「『相手の後に車に乗るのがですか?』」


「先に乗ったら片方が真ん中に座る。そしたら真くんの隣に座れない。そうやって考えてるんじゃないかな?」


「『それは主が真ん中に座れば解決することでは?』」


「そうだね。でもあの二人はお互いに譲る気は無いって思ってるから。けどさすがにここで長々とやってもらう訳にはいかないし、お姉さんが助け舟を出そうかな」


「『それが良いかと。ッ!!』」


 姉川と話している途中、ロウガが森の方を見て低く声を出す。そんなロウガの様子に気づき真が声をかける。


「ロウガ、どうした?」


「『敵です。この気配は、人ではなく動物の類です』」


 ロウガの報告に全員が警戒態勢を取る。

 そうして数秒後には森の中から数匹の猿が出てくる。


「猿か。何故かは分からないが、敵意むき出しだな」


 猿は真たちを囲み、少しずつ近づいて行く。


「真、どうする?」


 空は腰から銃を抜き真に指示を仰ぐ。


「……やるしかないだろ。空、武器を」


「ほらっ」


 空は車の中からバックを取り出し真に投げる。

 真はバックの中からマガジンとナイフを取り出し装備する。


「マスター、真価解放を使いますか?」


「そうだな。相手の力も分からないし、使っておきたい」


 真の言葉を聞きセイラはすぐに真の前に手を広げる。


「セイラはダメだ。さっき力を使い過ぎた、それに真価解放もガトリングガンを使ったからなここじゃ使いづらい」


「むっ……分かりました」


 セイラは腕を降ろし明らかにテンションを下げる。


「なら私が。どうせ戦闘じゃ役に立てないし」


「いばらもダメだ。お前も力を使い過ぎてるし疲れも取れてないだろ?そんな状態じゃ無理だ」


「……分かった。でも私も、その子もダメならどうするの?」


 いばらもセイラと同じようにテンションを下げながら真に尋ねる。


異能部隊うちにはもう一人いるからな。やれるなロウガ」


「『もちろんです我が主』」


 真は二人から腕を開放された腕を回し、ロウガの隣に立つ。


「一緒に戦うのは久しぶりだな」


「『はい。しばらくは別の任務でしたからね』」


「月影はどうだ?」


「『楽しい、とはまた違いますが、生きているという感じはしますね。森の中では知りえなかったことがたくさんあることを思い知らされました。人間と手を取り合うのも悪くないです』」


「そうか。そいつは良かった」


 真は話している最中に腕のストレッチを終え、ロウガの前にしゃがむ。


「ロウガ。俺たちは今俺たちから家族を奪った奴らの世界に居る。ようやくここまで来たのにこんなところで足踏みしてるわけにはいかない。力を貸してくれるな?」


「『もちろんです。我が力は主と共に』」


 ロウガは真に向けて頭を深く下げ、真はロウガの毛並みを撫でる。


「いくぞロウガ【真価解放】」


 その瞬間、二人が青白い光に包まれる。


「【真価武装】」


 続けて先ほどよりも強い光が二人を包み込む。


「よし。どうだロウガ?」


「『久しぶりに昂っています。今すぐに暴れたい』」


 ロウガはグルルルと猿たちを威嚇する。

 そんな中いばらは真とロウガを見て首を傾げる。


「真価武装を使ったのに武器が現れてない?」


 いばらの言う通り二人は真化武装を使ったが二人の元に武器は現れて無い。


「真価武装は武器を出現させるだけの物ではありませんよ」


 疑問に思っているいばらにバックから銃を取り出しながらセイラが答える。

 だがその説明が中途半端な物なのでいばらの疑問はますます深まる。


「どうぞ。何も無いよりましでしょう」


「あ、ありがとう。……さっきのどういうこと?」


 いばらは渡された銃を見ながらセイラに尋ねるが、セイラは今は話している場合じゃないと無言で銃の確認をする。


「ロウガは後方、空は前方を。セイラはいばらを守れ。姉川さんは援護を」


 陣形を整えていると森の中から石が真たちに向かって高速で飛んでくる。

 だがその石は誰かに当たる前に横から飛んできた銃弾によって粉々に砕け散る。


「森の中の奴を潰す。現場指揮は空に任せる。作戦開始!」


 真は銃をホルスターに戻すと共に常人を遥かに超える速度で森の中に入る。

 森に入った瞬間に、左右から石が飛んでくる。真はそれを全て避け、右に向かって走る。


「キィッー!」


 追いかけられている猿は木の枝を伝って逃げる。

 真は走って追いかけるが、枝を使って逃げる猿と木を避けならがら追いかける真ではさすがに分が悪い。


(面倒だな。この場所じゃあ銃も使いづらいし……上がるか)


 真は走りながら目の前の木に向かって大きく跳躍し、太い木の枝に掴まり逆上がりの要領で枝に上に乗る。そして太い枝を選んで次々と木の枝に飛び乗り猿を追いかける。


「ウキッ!?」


 猿は後ろを向くと木の枝を足場に豪速で迫ってくる真を見て、驚いて石を投げる。真は高速で投げられた石を移動しながら避ける。


(あの投石、かなり速度が出てるな。腕を強化してるのか?)


 真は猿の能力を考察する。そうして考えながら追いかけていると木が途絶え、木に囲まれた開けた場所に出る。


「ここは……なるほど。深追いし過ぎたか」


 真は開けた場所の中心で目を閉じ耳を澄ませる。すると周りの木々の中から多くの猿の鳴き声が聞こえてくる。


「キッー!!」


 一匹が大きく叫んだ瞬間、真に向かって大量の石が投げられる。


「ほんとに面倒だな」


 四方八方から高速で投げられた石を、真はひらりひらりと石と石の合間を縫うように避ける。前だけでなく後ろからも石は飛んでくるが、真はそれを見ずに空気の流れや殺気を肌で感じ取って避ける。


 そんなことを普通の人間が出来るはずがない。だがそれが出来ているのはロウガの真価武装の能力だ。

 ロウガの真価武装は【超身体能力強化】。

 真価解放による強化に加えて【超身体能力強化】でさらに身体能力を強化する。さらに僅かながら五感をも強化することが出来る。


 その強化された視力で目の前の石を見て避け、後ろの石は感じ取った感覚で避ける。しばらくすると投げる石が無くなったのか投石が止む。これまで真に石はかすりもしていない。

 石が無くなった猿たちは森の中から出て、真を取り囲む。


「「キキィー!!」」


 猿たちは声を上げてじりじりと真に近づく。


(うるさいな。……わざわざこうして出てきてくれた訳だし、潰すか)


 真は右手にナイフを持つと、目の前の猿を狙い足に力を込める。

 そして真が地面を蹴った瞬間、


「ウキ?……」


 猿の首が落ち、真は猿たちの包囲を抜けて木の前に立っている。


「……ミスったな。狙ってた奴は首が落ちた奴の隣だったんだが」


 真はナイフに着いた血を払い、再び狙いを定める。

 そして地面を蹴る。


「「キ?……」」


 次は二匹首が落ちた。真は先ほどと反対側の木の前に立っている。


「今度は狙ってた奴だな。円を突っ切るついでにもう一匹追加で殺ったが」


 猿たちは頭の落ちた三匹を呆然と眺める。今の一瞬で起きたことが理解できない、正確には理解したくないと言った顔だ。


 真が行ったのはただの移動。足に強化を集中したことでまるでワープでもしたかのように錯覚するほどの速さで猿たちの横を通り、その通り様にナイフで首を落とした。

 これもロウガの真価武装である超身体能力強化によって使える技、その移動速度を見た者は瞬間移動と感じるほどだ。


「さて、次は誰だ?」


 真が次の狙いを定めようとすると、呆然としていた猿の内の一匹が真に向かって走る。


「キィィッッー!!」


 その眼には仲間を殺された怒りが宿っている。だが、


「四匹目」


 真は瞬間移動により向ってきた猿をすれ違いざまに切る。

 そして真は猿たちの輪の中心に戻る。


「キ、キィッー!!!」


 一匹が動いたことにより戦意が戻り、数匹の猿は真に向かって走り、数匹の猿は落ちている石を拾って投げる。

 だが真は投げられた石を僅かに動いて避ける。


「八匹目」


 真に当たらなかった石はそのまま走ってきていた猿たちに当たり、高速で投げられた石に当たった数匹の猿は倒れ、運悪く当たり所が悪かった猿はそのまま息を引き取る。


「この状況で投石はどう考えても悪手だろ」


 投石によって倒れた仲間を見たことで投石を封じられた猿たちは他に攻撃方法が無く、真によって一網打尽にされた。


「ウ、キィー………」


「……終了。さて、あっちはどうなってるかな」


 真は木の枝に飛び乗り、セイラたちの元に戻った。



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